第50話 帰還

「俺たちの勝ちだァァァ!!!勝鬨を上げろぉ!」


「「ウォォォォォ!!!」」


 何も無い、山に囲まれた平原に俺たちの叫び声だけが響く。


 名目上は魔法師団規模、しかし事実上は魔法大隊規模。魔法大隊規模が一個師団程度の騎士団と魔法師団に勝利した。これは偉業と言えるだろう。


 確かにたった1人で一国を相手にできるくらいすごい人物は歴上にいる。現代においてもいるだろう。俺はそのうちの1人だと自信を持って言える。しかし、魔法・騎士師団――魔法師団と騎士一個師団を合わせた総称――相手に1人で勝利したなんて言ったって他国は信じない。が、それが魔法大隊規模であったら?それも帝国の。


 そうすれば他国は信じるだろう。我々が魔法大隊規模の人数で魔法・騎士師団に勝ったと。それに相手はあの王国だ。我が帝国と彼の王国、力量の差はどこの国でも知っているようなもの。それでもすごいのだ。わかっていただけるだろうか。


「地雷に引っかかって死んだ敵兵は首を取れないから装備を剥ぐ。トップの3人は首と装備品を持って帰ろう」


「行動開始!」


「「ハッ!!」」


 俺の代わりにアングラックが行動開始の合図を出してくれた。


 地雷の爆発によって敵兵の装備品は壊れているものが多い。しかし鉄製のものであれば溶かせばまたゼロから作れるので問題は無いだろう。純度か低くなければ。


 俺とアングラックが倒した3人組は上位の者なので相当良いものを装備として使っていただろうな。もうアングラックが剥いでしまったので確認はできないが。


 数時間もすれば全員の剥ぎ取り作業は完了する。


「それじゃあ、そのマジックポーチを回収します。これは国に提出するのでちょろまかさないように。後でちゃんと報奨金出るからさぁ。ね?あぁ、アングラックのやつはそのまま持っといて。わかりやすいように」


「はい!」


 みんなは俺が渡していたマジックポーチに敵兵の装備品などを詰め込んでいた。そしてそのマジックポーチを異空間収納にぶち込む。


「それじゃあ、お昼もすぎてるし、たれてから帰ると、遅くなっちゃうから、今日は一泊して明日帰ろうか。宴の準備して」


「え、宴?」

「祝勝会だろ!?」

「飲み放題だぜぇ!!」


「「「宴だァァァァ!!」」」


 うるせぇー。こいつら昼間から飲むつもりだよ。1週間近くいるから自分たちの財布にはもう金がないのに、どーやって酒を仕入れるつもりだ?


「団長、お金ください!」


「……返すか?」


「お金ください!」


 名前も知らない、少しチャラめの平団員が金を強請ってくる。


「貸付?」


「給付で!」


「経費?」


「団長のポケットマネー!」


「死ねぇ!」


 バコッ


「ブベッ」


 ついつい頬を殴ってしまった。だって仕方ないじゃん。ポケットマネーとか意味わからんし。まぁ、出すけどさぁ。


「じゃあこれで買ってこい」


「ありがとうございます!!……って、これじゃあ買えないっすよ」


 俺が投げ渡したのは白金貨1枚。白金貨をその辺の酒屋に出してもお釣りは返って来ないだろう。なぜなら店側の金が足りないから。


「じゃあ、これで。それ返して」


 次に俺は銀貨10枚が入った小袋を投げ渡す。中を確認した彼は白金貨を俺に返し、仲間を連れて街の方へ飛び立った。


「そういえば団長。お金があるなら街の宿屋でも良かったのでは?」


「わかってないなぁ、アングラックは。まだ、レッカー鳥や、他の肉が余ってるんだ。ここで消費しとかなきゃ」


「街で売ればいいじゃないですか。お金にもなりますよ」


「肉だけ出して何の肉か分かるやつが一体この国にどれだけいる?俺しかいないだろ」


 神眼の鑑定を使えば一瞬だ。それに使わなくともアイが教えてくれる。


 それに宿屋で勝手に肉なんて焼いていいわけないだろ。モラル的に。


 と、言う理由からここでもう一泊だけ野営することにした。


 みんな、またテントを配置し、BBQセットを準備する。


 レッカー鳥の焼き鳥がとても楽しみらしい。俺としてはドラゴンの肉とかも食べてみたい。今度アルに聞くか。美味しいドラゴンが住んでる所。


 に、してもレッカー鳥の捕獲はデカい。まだ、この辺にいるっぽいからこいつらを帝都に連れ帰ったら、雌鳥を大量に持ち帰ろう。あれだけのハーレム作ってたくらいだし、モテるんだろこの雄。


 ここに雄鳥を追加したら喧嘩になりそうだし、ハーレム作らせてあげよう。その方がこっちにとっても得があるからね。



 みんなが色々準備している間に例の平団員君が戻ってきて、みんなに酒を配っていた。ちゃんとマジックポーチ持たせておいて正解だったよ。めちゃめちゃな量買ってきやがったし。


 てか、あの調子なら夜の分も買ってきてるんだろうなぁ。


 そんなことを考えていると


「団長!氷ください!」


「またお前か」


「はい!」


「まぁ、いいだろう」


 俺はそう言って氷を生成し、彼が突き出しているコップに入れてあげる。


 それを見た他の団員がこちらに氷を強請って来るので、大量に氷を入れたバケツ型の大きい氷を用意して、個人で入れさせるようにした。


 そんな宴は昼から夜まで休みなく続き、日が沈み始めた頃、みんな疲れたのか寝始めてしまった。このままだと、全員明日早く起きそうだなぁと考え、俺は1人テントに戻り寝ることにした。


 ◇


「団長、朝です。起きてください」


 翌朝、昨日何も飲んでないような顔をしてアングラックが起こしに来た。とても酒臭いから飲んだ筈だが、強いのだろうか。全然酔ってない。


「今何時ー?」


 俺は意識は覚醒させながら体は寝たままアングラックに問う。


「朝の7時ですね」


「……早えぇ、早えぇよ!」


「皆、もう起きていますのでそろそろ出発の準備をお願いします」


「あ、はい。わかりました」


 どうやら俺に拒否権は無いらしい。ブラックバンザイ、ハハッ。笑えねぇ。


 そのまま俺は起き上がり、テントを出る。


 ◇

 そんじゃあ、今から帰りますが、帰るまでが戦争なので、気を抜かないように。


 昨日あれだけ宴をやっていたのに何を今更感あるが、言うだけ言っておく。


「それじゃあ帰りますか~」


「「「ハッ!」」」


 ◇

 ――約6時間後、帝都


「みんなただいま~って、元気ないね、皆。どうかしたの?」


 俺が帝都の城に帰ると元気の無いみんなが出迎えてくれた。

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