第49話 速すぎる決着

 あと1時間ほどで王国との本格的な……いや、本格的は言い過ぎだが、戦争が始まる。今まで小競り合い程度だったが、今回は割かし大きめの戦いだ。騎士一個師団と魔法一個師団との戦いだ。


 対してこちらは魔法大隊が、1つ。いくら帝国が王国より強いからと言ってもこの戦力差で勝利、それも被害を出さずに大勝してしまえば我々第2魔法師団ツヴァイの名は世界に広まり、世界が帝国の武力に戦慄するだろう。


 俺のように称号で魔法系の帝位、神位があれば、おそらくは一個師団、二個師団くらいは相手取ることができるだろう。


 しかし、帝位神位はそう簡単には手に入れることは出来ないし、それほどの実力者が貴族などでない限り、一国の味方をすることも珍しい。


 もちろん中には平民の帝位神位所持者が国に属することもある。それにはそれなりの待遇や地位を与えることも必要なので、戦の少ない国に雇う必要性はないし、雇えるのほど豊かな国も少ない。


 稀に平の魔法師団と同じ待遇でも良いなんて言う者もいるようだが、そいつは欲がないのか、その国に尽くしたいのかだろう。


 さて、帝国に神位所持者は、俺含め数人いる。帝位所持者も数人いる。そしてこの戦には俺が出張って来たが、王国に帝位神位所持者がいるのか。神位所持者はいないが帝位所持者はいるという情報は入っている。そしてその帝位所持者はこの戦に出張って来るらしい。そこで相手に手も足も出させず勝てば帝国の世界的存在感は増す。


 戦が始まる前に最終調整をしているとあっという間に時間がすぎた。


 俺たちは魔道具に跨り空を飛び、王国軍を待ち構えている。すると、だんだんと本日の脇役様が到着なさった。


「それでは皆、作戦通りに」


「「「ハッ」」」


 みんなの返事を聞き、俺は1人離れ、王国軍側に近づく。


「王国の民よ!止まれ!」


 俺の言葉に敵軍はこちらを一瞥するが、止まることはしない。ならば


 ブォン


 俺より後方、帝国軍全体より前方、設置した地雷の前に炎のファイアウォールを作る。全長は3kmほどに及ぶだろう。


「これより先に進み次第、我々は攻撃を開始する!今引くならば手出しはしない!」


 数秒ほどして炎のファイアウォールを消すとそこには焦げた草が一直線上に、出現していた。これなら線を越したら分かりやすいもんね。



「構わん!すすめぃ!」

「はったりなどに怯える必要は無い!」


 など声を上げながら止まる気配がない王国軍。そういえば向こうには悪魔が付いてるんだっけ?そのせいで増長しているらしい。


 あぁ、そういうね。後方に馬に乗りながら進む3人組を見つけた。おそらく真ん中にいるのが悪魔が受肉したであろう人間。見た目は人間だが、魔力が禍々しすぎる。サイドのふたりは他の軍勢とは魔力の質や量が違う。おそらく片方は帝位所持者だろう。もう片方は王位を持っている者と推測する。


 そんなくだらないことを考えていると、先頭が地雷設置ゾーンに足を踏み入れたようだった。あれは時差式だから、先頭集団が足を踏み入れて1分ほどで爆発するようになっている。


「相手は攻撃してこない!今のうちに進め!」

「やはりはったりであったか!愚かな帝国民め!」


 あーあ。愚かなのはどっちよ。3.2.1…ドンッ!



 俺のカウントとともに王国軍の後方から爆発音が聞こえる。



 ドンッドンッドンッドンッ


 と、思ったらどんどん爆発していく。


「ぎゃぁぁ」

「い、嫌だァァ」

「お助けをぉ!」


 後方の爆発に気づいた前方組が逃げ始める。


 しかし遅い。爆弾の誘爆は彼らの逃げるスピードよりも速く連鎖していき、とうとう前方まで達する。


「第1フェーズは成功した!第2フェーズに移行せよ!」


「「「ハッ」」」


 俺の命令により帝国軍も動き始める。まずはアングラックが俺の方に向かってくる。俺とアングラックが離れた第1中隊、第2中隊はヘルツベルクの双子に任せている。ヘルツベルク兄弟に課せた命令は残党の殲滅。俺とアングラックの役割は相手実力者の排除。ヘルツベルク兄弟もこちらに入れたかったのだが、そうすると残った団員たちの統率が上手く取れない様な気がしたので仕方なく、俺ら2人で相手の実力者を相手することにしたのだ。


「作戦は覚えているか?」


「もちろんです!」


「俺のは真ん中のヤツだ。サイドは任せた」


「かしこまりました!」


 俺たちは質の違う3人組に突撃しながら作戦の確認を行う。


 そして、俺は箒から降り、自分の魔法だけで飛翔する。アングラックは王位持ちの実力者だが、帝位所持者には分が悪い。なので、彼には時間稼ぎをお願いしている。


「お初にお目にかかる。お前が悪魔で違いないな?」


「おやおや?私のことを知って頂いている様ですねェ。私の相手はあなたですか?」


「子供が相手じゃ不満か?」


「そんなことは。ただ、心配しているのです。弱き者を見るといたぶってッ――ック」


「話してる暇はないんだ」


 悪魔くんがべらべらとうるさいので本気で殴ると鳩尾の少し下あたりに穴が空く。いくら悪魔と言えどこれは大ダメージだろう。受肉しなければこうはならなかったのに。


「それじゃ、聞くこともないし、じゃあな」


 俺は倒れたヤツのスモーキーグリーンの髪を引っ張り喋りかける。


 そして、その悪魔――に憑依され、受肉の器になった人間―の首を切り、異空間収納へ入れる。


 この悪魔はどうしてくれようか。肉体が死んでも悪魔の精神は生きている。どうやって処理しよう。


『悪魔は通常、自力で魔界に帰りますが、この悪魔はその力すら残っていない様です。主人マスターが空間魔法で魔界と繋げて帰してやるのが最善でしょう』


『また出てくるかも知んないじゃん』


『1度恐怖を覚えた悪魔はそう簡単には戻ってきません』


『そうか?ならそうするか』


 アイの助言により俺は悪魔を魔界に帰してやることにした。


「てめぇ、もう1回こっちに来てみろ?今度は精神ごと殺すからな?」


 精神だけになり、半透明になった悪魔は怯えながら俺が作った魔界と繋いだゲートをくぐって行った。


 こっちは一件落着。アングラックの方は?


 アングラックの方を見ると片方に痛手を負わせているが、もう1人の方に追い詰められていた。


 へぇ、帝位所持者と王位所持者を相手にして王位所持者を戦闘不能にするとは。まぁ、帝位所持者には勝てんか。


 よし、あとは俺に任せろ。


 そして俺は軽くファイアボールを放つ。


「ちっ、邪魔だなぁ」


 アングラック、今だ!俺はアイコンタクトで伝える。彼にちゃんと伝わったのか、速攻で倒した敵の首を取り退散する。


 ……そーゆー事じゃなかったんだよなぁ。そのまま逃げてくれれば良かったんだけど、時短になるしいっか。


「これで終わりだよ。――氷結之霧ダイヤモンドダスト


 かつて俺の前任を殺した技。


 パチンッ


 俺の指パッチンで相手が凍る。今回は趣向を凝らし、首下だけを凍らした。頭部を凍らして壊すと証拠として提出出来ないし。


「な、なんなんだよこれ!速く壊せ!」


「いーよ、壊してあげる」


 俺はお望み通り凍った体を殴って壊す。


「あ、ア、アァ」


 小さい断末魔をあげて名前も知らない実力者は死ぬ。


「俺たちの勝ちだァァァ!!!勝鬨を上げろぉ!」


「「ウォォォォォ!!!」」


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