第44話 賢い選択

 ――6時間前、帝都近郊


 そこには約50人、正確には44人の白いローブを来た者達が整列していた。


 そしてその前には――


「傾注!!」


 ――横にアングラッグと彼の補佐2人のを携えた俺がいる。


「知っていると思うが先日、第2魔法師団長ツヴァイに就任した、リュークハルト・フォン・スタークだ。よろしく。そして、今から行軍を始める!!と、言っても既に支給済みの箒型の魔道具を使ってだ。用意を開始しろ」


 俺の言葉で、魔法士師団がいっせいに動き出す。と言っても、今は大隊規模にしか過ぎないが。元々100人いた師団の約半分を解雇したのだ。仕方あるまい。


 ちなみにアングラッグの補佐の2人は双子だそうだ。ローブのフードを深めに被っていて髪や顔が良く見えないのでなんとも言えないが、彼らはアングラッグの高等部時代の先輩なんだとか。その頃から仲が良かったらしく、3人

 の連携はとても良い。


「団長、本当に本日出発するのですか?」


 俺が悦に浸っていると、アングラッグがそんなことを言う。


「ん?あぁ、父上よりそう伺っている」


「そうですか。了解致しました」


 ちなみにアングラッグが俺の事を団長の呼ぶのは、俺が第2魔法師団長ツヴァイに就任した際、そう言うように言ったのだ。正確には団長、もしくは名前呼び。殿下とかは俺らの立場的に合う言葉ではないからだ。


 ちなみに俺が箒型の魔道具をここの師団に至急してからそう何日も経っていないが、みんな乗りこなすことは出来ているらしい。


 ◇

 2分も経たないうちに全員が準備を終えていた。


「それでは行くぞ。我に続け」


「「「ハッ!!」」」


 合図と同時に全員が西方の空へ飛び立った。


 行軍隊列は、まず4人一組の小隊を作り前後左右……と言うより、前に1人、その右斜め後ろと左斜め後ろにに1人ずつ配置し、ひし形になるようにする。今度はその小隊を3つくっつけて中隊を形成。前に1個小隊、左右の斜め後ろに1個小隊ずつ。その中隊を小隊と同じように前後に1個中隊、左右の斜めにに1個中隊ずつ配置し大隊を形成。


 どこかの某幼女の戦記と同じ部隊編成となった。仕方ないだろう。本来より少ない数では師団を作れないので、大隊を作り、その中にも細かな、小隊、中隊を形成することによって、戦時はよりスムーズに動けるようになるだろう。ちなみに、中隊長には、俺、アングラッグ、アングラッグの補佐2人、合計4人だ。


 本来の100人規模の魔法師団には部隊編成のマニュアル的な物もあったりする。


 ◇

 そうして食事の為の簡易休憩だけを摂り、6時間かけて行軍した結果――


「うーわ。ミスった~、みんなごめん。今日から6日間野宿だ」


 ――こんなことになってしまった。



「だから言ったじゃないですか……」


「え?なんか言ってた?」


「出発する前に、本当に本日出発するのかと、聞きましたよね?」


 アングラッグが呆れたように言う。


「あぁー、言ってたな。でも父上が今日だと言っていたし」


「確かに、前団長がを使って移動していれば、予定どうりの時間に着いたでしょう。しかし我々は魔道具と言う物を使い本来の何倍も速い速度で行軍したのですよ!?何日も前に着くのは当たり前じゃないですか!!」


「ほんとに申し訳ない。どうする?一旦引き返すか?俺としては色々言った手前、帰りずらいんだが」



 いや、だって、父上がそれも考慮した上で今日出発だと思ったから、仕方ないよね。うん。


「私はどちらでも構いませんが他の団員がなんというかですね。多数決で決めましょう」


「おう。それじゃあ、野宿か、引き返すか多数決取るぞ~。じゃあまず――」


「ちょっっっと、待ってください。少しだけ引き返して宿に泊まるという選択肢はないのでしょうか?」


 彼は俺の中隊―第1中隊―の隊員くんだ。


 たしかに、説明不足だったな。


「あぁ、まあな。実は野宿用のテントなのだが、魔法の付与が完成して、宿屋に泊まるより快適に、過ごせるようになったんだよ」


 いや~まじできつかったよ。文字型の付与魔法じゃ上手く起動しないし、魔法陣型じゃあ、デメリットが大きいからな。


「え、成功したんですか!?」


「あぁ。魔法陣と文字両方使ったら行けた。いや~なんで最初から2つ使うことを考えなかったんだろうね?ちょっと頭が硬すぎたわ」


「いや、十分柔らかいと思いますけどね」


 彼は呆れた顔で言葉を漏らす。


「まぁ、そんなのいいだろ。それじゃあ多数決とりま~す。ここで野宿希望の人~?ちなみに俺的にはこっちがオススメだよ~」


 そういうとみんなが手を挙げた。本当にこちらの方がいいと思った人間最後の言葉に圧力を感じた人間の2種類がいるようだが。パワハラにはならないよね?帝国法には記載されてなかったし。大丈夫だべ。


「満場一致か。それじゃあ、1小隊につき一つだけテント渡すから、仲良く使えよ。あと、使う前にみんなで魔力をできるだけ込めておけ」


「「「はい!!」」」


 気持ちのいい返事だ。


「よし、そしたら、俺らはあっちの方にテントを張ろう」


 ここは数日後には戦場になる平原。しかし今はまだ戦場にはならないのでデカいキャンプ場とでも思えばいいだろう。


 みんな、テントは1箇所に張っていた。帝国側には山があり、王国側には平原がずっと続いている。みんながテントを張ったのはギリギリ王国側に入らないであろう場所。急斜面の山の近くに置くと斜めになってしまうので置きずらいのだ。


 30分も経たないうちに全部のテントが張り終わった。外ではみんながみんな叫んでいる。


「なんだこれ!?中広すぎだろ!!」

「すげぇ!」

「てか、団長これ出す時異空間収納から出していたな。空間属性の魔法も練度がすごい」

「うわ、外結構寒いな」


 広さに驚く者、俺の魔法の熟練度に感嘆する少数の者、テントの中にローブをおいて軍服だけ出てきたら思ったより寒かった者。たしかにみんなに配ったローブには自動温度調節が着いていたな。


「みんな、魔力はちゃんと込めたか~?」


「「「はい!!」」」


「ならよし。自由時間だーー!!」


「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 ちなみにテントには『魔留』と言う字を書いた。『魔留』によって魔力をため、魔法陣からその魔力を吸い上げ、空間拡張の能力を果たす。ついでに空間拡張の魔法陣の中には自動温度調節の機能もつけておいた。我ながら天才だな。ハッハッハっ。


 ――こうして俺たちの6日間に渡る野宿生活が始まった。

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