第42話 思考する天才
「うぃーす、父上と話を終えたからこっち来たぞ~」
俺は昼食時にレントたちに言った通り父上との話を終えて訓練場に来ていた。
「あ、リュークハルト様。早かったッスね」
「あぁ、本当に必要なことだけ話してきたからな」
「そうッスか。それより、あれ、どう思うッスか?」
ディアナがあれと言いながら指さした先はレントとアル。
レントとアルが剣で模擬戦をしているのだが、なんと言うか、アルが攻められているのにレントの方が満身創痍のように見える。
「さっき昼飯を食った時、アルは言ってたよな?剣術ならレントの方が上だって」
「言ってたッス」
「ということはこの短時間でレオンハルト様を越したと言うことですか?」
ディアナが肯定し、シルフィードが質問を飛ばす。
「いや、剣術だけならレントの方が上だ。でも、あの戦いを見てみろ」
「……レオンハルト様が押してるのにダメージを食らってるのはレオンハルト様だけッス」
「アル様は全ての攻撃を見切っていますね」
「つまり後手に回ってるって事っスね!」
「ああ、ドラゴンとして、持ち前の動体視力を遺憾無く発揮しているな」
確かにレントの剣術はとても早い。しかし、アルや、限界突破状態の俺であれば簡単に見切ることが出来る。別に限界突破をしなくても思考加速を使い、目に魔力を集めれば俺だって見切ることはできるだろう。なぜ今までそれに気づけなかったんだ?やはり魔法という要素に俺自身適応しきれていないのかもしれない。
避けて切る。この基本ができる剣士は少ないだろう。何せ後手に回ることになるのだ。動体視力が良くなくてはとても務まらない。
そしてレントは天才だ。それも直感タイプの。だから初めて模擬戦した時、2回目模擬戦した時、2回とも同じような戦法を使ってきた。つまり反射で最善の選択肢を選び続けているという事。しかし、アルはその最善を避けてカウンターを食らわせている。これにもっと早く気づければ俺はレントに対し、勝ちを積み重ねて居ただろうに。
これは俺にとって大きな1歩になりそうだ。
しかし、アルは全てを避けた上でカウンターを食らわせている。となると、いつか綻びができてしまう。
「――ッ!」
「ほら、やっぱり」
俺がアルの戦法の弱点を考えた瞬間レントが袈裟斬りからの右斬上を見せ、アルの反応の1つ上の動きを見せた。当然アルは反応できなくなり、負けになる。
「レオンハルト、お主なかなかやるのじゃ」
「ハッ!途中から舐めプしてきたくせによく言うぜ」
アルの賛辞にレントがひねくれた回答をする。確かに全部避けてたのは舐めプととられても仕方ないよなぁ。
「どうだった、アニキ?オレたちの模擬戦を見た感想は」
「あぁ、ものすごくいい収穫をした。レントこの後俺と1戦やってくれ。もちろん少し休んでからで構わない」
「いいぜ、30分くらい休ませてくれ」
「あぁ。じゃあこれを」
俺は異空間収納からタオルを1枚出してレントに投げる。
「サンキュ」
「うぃー」
短めのやり取りをして俺は少し距離が離れたところ、と言うか、壁沿いに移動し、坐禅を組み、集中力を高め、魔力操作を鍛える。
「ほぉ、これはすごいのぉ」
「リュークハルト様がこの体勢で魔力操作を行うと本当に人間なのか疑いたくなります」
俺が魔力操作をやっていると、アルとシルフィードがやってきて勝手に評価してくる。
レントはディアナと先程のアルとの模擬戦の反省会をしようとしているが、会話が続いていないようだ。2人とも感覚派な上にディアナに関してはまじでなんも考えずに戦っている。レントは多少は思考しているだろうが、2人とも大差ないだろう。なので、反省会を仕様にも言語化が間に合わないのだ。
◇
――30分後
「よぉーっし、準備万端だぜアニキ!」
だいたい30分くらいだった頃にレントが急にやる気を出してきた。右手にはコップを持っている。レントの休憩時にタオルと一緒にコップを出して水と氷を入れてレントに渡したのだ。
「そういえばシャルは?昼飯の時にもいなかったけど」
「確か、シンシア様のお部屋に行くとか言ってました」
俺はレントのことをガン無視してシルフィードに話しかける。なるほど、それなら納得だ。シャルもシンシアの可愛さに気づいたのか。
「おい!アニキ!」
「悪い悪い。よし、それじゃあやるか。新しい俺の理論の餌食になってくれ」
「ハッ!どーせアルと似たようなことするんだろ?もう効かねぇよ!」
「まあまあ落ち着けって、結果なんてやりゃ出るんだから」
とりあえずうるさいレントをなだめてお互いに距離をとる。
「それでは両者位置についてください」
音頭はシルフィードがとるらしい。
「――始めッ!」
始まりは静かだ。お互い1歩ずつ1歩ずつ進み距離を縮める。しかし最大限に警戒はする。
レントは右手に持った剣を突き出しながら、俺は右手に持った剣をぶら下げながら、リラックスするように歩く。緊張しては上手く動けないからだ。
先に動いたのはレント。2人の距離が5m程になると急に距離を詰めるように走り出す。速さ的に恐らく身体強化は使っているらしい。対して俺は思考加速を使い、目にも魔力を集める。
レントの1手目は袈裟斬り。俺は避けるかいなすかの判断をする。答えは避ける一択だ。
すると先程のアルとの戦いで学んだのか、振り下ろした剣をすぐに止めて右斬上に切り替える。
それもまた体をそらして躱す。
「チッ」
アルとは違い、ギリギリで避けるため、レントも苛立っているようだ。アルの場合は余裕のある避け方をしていた。
今度は趣旨を変えて右薙を放ってくる。それを1歩後ろに下がり躱す。
「「「おぉ〜」」」
後ろで3人が感嘆の声を漏らす。これくらいなら今までも出来てた事だ。いつものレントならここでスピードアップするはずだ。
シュッ!
先程の右薙からまた袈裟斬り。今回の袈裟斬りは先程の何倍ものスピードだ。一気にギアを上げてきた。
逆袈裟、左切上、唐竹からの切上突。全てを躱す。こちらもどのタイミングで手を打とうか考える。アルの場合は隙ある事に一撃を入れていたっぽいが、俺は一撃で終わらせたい。
「まじかッ」
俺がどのタイミングで一撃を入れるか思考していた一瞬、レントが剣を不規則に振り始めた。なんなんだ?唐竹を放った瞬間に右薙が襲いかかる。すごく速く剣を振っている。ここで少し体勢を崩した――
――振りをする。
そして俺は内心ほくそ笑んでいた。これ程スピードに乗って力も乗せていれば
「なッ!」
袈裟斬りの瞬間、レントの剣の軌道に合わせ俺も剣を振り、レントが剣を切り返せないよう、体勢を崩させる。
そのまま剣をレントの首元に当てる。
「勝者リュークハルト様!」
「最後の1手は中々考えたのぉ」
「殿下すごいっす!」
アルは素直な褒めてくれて、ディアナも素直に褒めてくれるが、こいつ、名前で呼んだり殿下って呼んだり忙しないな。
カラクリは簡単だ。俺が体勢を崩したと思ったレントが今日一のスピードと力で試合を決めようとした。俺はその剣の上に俺の剣を乗せ、レントの想像以上に下に振り下ろされた剣にレントは体勢を崩し、そこに俺の剣をレントの首に当てただけ。
考えればすごく簡単な事だが、やられた方はたまったもんじゃない。
本当は最初からいなして試合をするつもりだったが、あえてアルと同じ戦法をとる事でレントが先程のアル戦と似たような行動を取ると予想し、それに対応した俺が1枚上手だっただけ。
俺の前にアル戦っていなければまた違った形で俺が勝利していただろう。
「最後の時だけ剣を使うのはズルいな」
「別に良いだろ?ルール違反ではない」
「そーゆーことでは無い。そういうやり方もあるんだなと思っただけだ」
「さいですか」
レントからお褒めの言葉を頂き俺は満足です。
「お
「リュートくーん!」
すると少し離れたところから知った声が聞こえてきた。
◇
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