第37話 深まる仲



「父上!俺は明日用事があるのでもう寝ます!その用事が終わったらお話したいので、時間を作って貰えますか!」


 謁見が終わった後、俺は父上の執務室に来ていた。本当は王国との戦争について詳しく話したいことが沢山あったが、明日はヴァイス領の領都付近にいる三頭賊ケルベロスの生き残り組を殺しに行かなくてはならん。なので今日はもう寝て、明日、朝一で突撃する。


「良いだろう。明日あす用事が終わり次第この部屋に来るように。余は一日中この部屋で仕事でもしておるわ」


「ありがとうございます。それでは俺はもう寝ます」


「ああ、ゆっくり休め」


「はっ」


 俺は頭を下げ、部屋を出る。


 王国との戦争、第2魔法師団ツヴァイで行軍するのか?それとも少数?相手の人数にもよるが、第2魔法師団ツヴァイにはムル派が多数いたため100程いた団員は今や半分の50人程度。まぁ、俺一人でも平気な気もする。兵糧なども考えると俺一人で十分敵と戦えるのに無駄に戦力を持って行って無駄に予算を浪費し、行軍に要らぬ時間をかける。うん。少人数で行こう。


 テトテトテトテト


 父上の執務室から自分の部屋に戻る時、俺はもう王国との戦争のことで頭がいっぱいだった。明日の敵共に関しては考える必要もなく、倒せると判断したからだ。


 そういえばパレルトンとか言うやつと他2人の首持ってきたのに父上に見せるの忘れてたな。まぁ、明日殺す奴らの首と一緒に見せればいいか。3人のかしらは俺の功績になるわけじゃねぇもんな。シルフィードが2人、レントが1人。そいつらの側近3名を俺が殺す。……ディアナが何も無いが、まぁ、いいか。


 テトテトテトテト


「クリアーダ、明日はいつもより早めに起こしてくれ」


「かしこまりました。30分ほど早く起こせばよろしいでしょうか?」


「あぁ、それくらいで構わん」


 俺は父上の執務室を出てからずっと俺の後ろに控えていたクリアーダに明日いつもより早く起こしてもらうことにした。


「それじゃあおやすみ。クリアーダも早く自分の部屋に戻ってねろよ」


「かしこまりました」


 俺の部屋の前まで付いてきたクリアーダにはやく寝るよう言い、俺は自室のドアを開ける。


「あ、リュートくん。おかえり、早かったね」


「何故ここにいる?」


 俺がドアを開けるとシャルが俺のベッドに腰掛け微笑みながら手を振っていた。


「何故って、せっかく正式に婚約を発表したんだし、今日は一緒に寝よ?」


「俺はまだ7歳。お前はまだ誕生日を迎えていないから6歳。俺たちはの子供だから間違いは起こらないが、俺たちが一緒に寝たと言う事実が生まれてしまう。いいのか?」


「それの何が悪いのでしょう?私は婚約破棄をするつもりはないわ」


「あぁ、そう。三頭賊ケルベロスを崩壊させればもう安全だと思うのだがな?」


「私が1番懸念してるのは妹のこと。三頭賊ケルベロスを潰しても他が現れるかもしれないでしょ?」


 たしかに黒幕はシャルの妹という話は数日前に聞いたな。


「なるほど。まぁ良い。俺は明日早いんだ。もう寝る。シャルはどこで寝るんだ?」


「もちろんここよ。一緒のベッドで寝るの。流石皇族のベッドね。とても広い」


「まぁ、いいけどさ。ヴォルも一緒に寝るから」


「キュゥ」


 実はヴォルは父上の執務室にいる時から俺の後ろをテトテト歩いていたのだ。


「構わないわ。私はリュートくんと寝たいの」


 今更ながら俺はシャルの口調に違和感を覚える。


「そういえば口調ワガママになったな。前は、お淑やかで礼儀正しい令嬢、みたいな感じだったのに」


「リュートくん私今まであんまりわがままは言わないで生きてきたの」


 シャルが話を切り出した。


「それで?」


「私、今まで言ってきたワガママって、前の人生で、武術や魔法の先生を付けてもらうようお父様にお願いしていたことくらいなの。だから人にどーやって甘えるかなんて分からないからちょっとわがままだな口調になっちゃったの。リュートくんはどっちが好きかな?」


 正直素のシャルの話し方はとても七瀬に似ている。しかし女の子と喋っている時に他の女の人を考えながら話すのはとても失礼だと思う。しかし俺が好きなのは七瀬や素のシャルの口調の方だ。


 しかしここでワガママの口調の方が好きと嘘をつくのも良くない気がする。


「俺は前は別の世界で生きていたという話はしたよな」


「うん」


「まぁ、そこでも俺は男として生を受けたのだが、その時の俺は17歳だった。嬉しいことにその時の俺には彼女がいた。その彼女の喋り方がシャルの素の喋り方に似ているって話なんだが、正直俺は素のシャルの喋り方の方が好きだ。でもそうするとどうしても彼女の顔が過ぎる。それはとても申し訳ないがとても忘れられそうにないんだよ。最低なのはわかっているが、シャルが俺のを求めた結果、未練タラタラな彼女のことを思い出すことを許容してくれるのであればそのままの口調で構わない。それが嫌だと言うのであれば口調を変えて欲しい。こればかりは本当に申し訳ない。ただ、俺はどんなシャルでも受け入れるつもりだ」


「うん、うん。分かったよ。私は私を変えることはしないよ。昔の女の人なんて忘れさせてあげる――どうかな?リュートくん、敬語で話されるの好きそうじゃないから敬語抜いちゃったけど、婚約者ならこれくらい普通だよね」


「あぁ、そうだな。ありがとう」


「うぅん。大丈夫だよ」


 シャルはそう言い、ベッドに腰掛けながら両手を広げる。


 俺はそのままシャルに抱きつき押し倒す。


「きゃっ」


「今日はもう普通に寝るぞ。俺は忙しいんだ」


「うん!」


 俺はシャルを離し、シャルに背を向けるようにベッドに横たわると後ろからシャルが抱きついてきた。


「おやすみ、明日も頑張ってね」


「あぁ、ありがとう。おやすみ」


 そう言ってシャルは俺の頬へ唇を落とす。「チュッ」と音を立てて。


 俺はびっくりしてシャルの方を振り返るとそこにはもう寝息を立てているシャルがいた。今日は色々あったし、疲れたのだろう。


 それにしても可愛すぎるだろ!なんなんだよ!

 俺はヴォルを抱きしめて寝た。

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