第35話 従魔契約とすれ違いその3


 従魔にするにはどうすれば良いか、てか、従魔ってなんだ?


『教えてくださいアイ様』


『はい、まず従魔とはその名の通り人に従う魔物のことです。ドラゴンは魔物でもなく魔族でもなくドラゴンというものに分類されますが、そこは割愛します』


『あぁ、続けてくれ』


『また、従魔にするには従魔契約をする必要があります。これには主人となる人間と従魔となる魔物の類の両方の合意を得て初めて成立するものです』


『魔物が自ら人間の下に着くメリットはなんなんだ?特にドラゴンとか高位の存在は人を見下すだろ?』


『それは単に波長が合うから一緒にいたい、野生の時より安定した食を提供してくれるなどがあるかと』


 なるほどね、でもこの黒い子ドラは一緒にいたいからって感じが強そうだな。


『じゃあ従魔契約のやり方を教えてくれ』


『はい、今回は召喚魔との契約ではなく、現世に存在するモノとの契約となりますので名前を与えたのち魔法陣に互いの血を垂らすと契約完了です』


『名前、ねぇ』


「アル、俺はこの子の名前を考えたいからこれに魔法陣を描いといてくれ」


 俺は紙と羽根ペンを渡しながらあるにお願いした。


 それにしても名前どうしよう。ニーズヘッグ、ファフニール、リンドブルム、ジャバウォック、

 バジリスク、リヴァイアサン、ヒュドラ、エキドナ、ヨルムンガンド、アジ・ダハーカ、有名どころしか知らん。それに蛇系のドラゴンの名前じゃないか。

 こいつは足があるタイプなのに。


 そもそも俺のネーミングセンスに任せていいのだろうか。


 エレドラゴンだっけ、種族。普通にエレは……ないな。かわいい、キュート、ラブリー、リーブリヒ、カリーノ、可愛い要素を入れてみたいが無理がありそうだな……


 こいつの説明は全てを吸収する黒、だったか。アブソーブ……しかわからん。


 風格のあるwürdevollってドイツ語だったよなぁ、ヴーデヴォルって感じだよなぁ。


「ヴォル」


「キュゥ」


「カッッ」

 ワイィィ!可愛いかよ!なんだよ「キュゥ」って、ドラゴンってもっと厳つい鳴き方しないのかよ!可愛いなぁおい!


「なんじゃ、ヴォルで決まったのか?」


「あぁ、ヴォルだ。てか、魔法陣できた?」


「余裕じゃ!」


 そう言って魔法陣を見せてくれるけど意味わからん。ついでにペンは返してもらった。


「よし、ヴォル、ここに血を垂らすんだぞ」


「キュゥ」


 俺は人差し指の爪で親指に傷をつけ血を出す。ヴォルは自分の前足を噛んで血を出していた。


 俺たちの血が魔法陣に触れた瞬間、魔法陣が光り、消滅した。同時にヴォルとの強い繋がりを感じる。



「ヴォル、今からお前は俺の従魔だ」


「キュゥン!」

 嬉しい!


 ん?こいつ今、嬉しいって言った?


『従魔契約を結ぶと両者の言葉のニュアンスが伝わるようになります』


『なるほど、じゃあ、意思の疎通が取りやすいってことか。便利だな』



「よし、そんじゃ、城に戻るとするか。行くぞ、アル」


 俺はヴォルを抱っこして、アルに言うと歩き出す。


「いや、それはわかったのじゃが、そのニマニマした顔をどうにかしてくれんかの?気持ちが悪いのじゃ」


「あ??」


「ひっ!?殺気を出すのはやめてたもぉ」


 便利だな、殺気。



 ◇


 その後少し走りながら(一般人の全力疾走より速い)、城を目指すと、5分と少々で城に着いた。


「あぁ、そういえば俺父上からお前の討伐か撃退を命じられてたんだけど、1回俺にボコされた旨を伝えてくれよ、じゃなきゃ俺命令違反になっちゃう。第2魔法師団長この地位を1時間足らずで解任される事になっちまう」


「それなら任せておいて欲しいのじゃ、お主には恩もあるしの」


「そりゃよかったよ」


 俺は門番に「凱旋だ」とだけ伝え城の敷地内に入る。門番はキョトンとしていたが大丈夫だろうか?ちゃんとしなきゃ侵入者に入られてしまうぞ。実際アルは普通に入ってるし。普通俺の連れでも素通りは出来ないはずなんだが。


「ん?結界が張ってあるな」

「結界が張ってあるようじゃな」


 いざ、城の中へ入ろうとすると俺とアルの声が重なる。結界が張ってあったのだ。なぜ?


「新手のいじめか?俺、皇子なんだけど、城に入れさせてもらえないらしい。壊すか?」


「もう、お主に全部任せるわい」


「そんじゃ遠慮なく」


 俺は遠慮なく結界を殴り壊す。


 さすがに闘技場にはいないと思い城に来てしまったが、レント達はいるだろうか?いるとしたら、みんなでいるだろうし、自分の部屋はないだろう。リビング、、いや謁見の間かな?


「よし、このまま謁見の間へ行く」


「了解じゃ。と言うか、強者つわものが2人ほど向かってきておるようじゃ」


 アルの言葉の後すぐに探索サーチを発動する。


「ん?ほんとだ。これは多分俺の義弟おとうとと奴隷、と言うか護衛的なやつだ」


 探索サーチとは自分の魔力を伸ばし、人または魔物に自分の伸ばした魔力が当たるとそこにいるナニモノかを認識することが出来る。


 この魔法の練度が上がれば自分の魔力に当たったモノの大体の強さや、知り合いの魔力なら誰が当たったかが分かる。

 因みに俺は誰だか分かるタイプなのでレントとディアナが来ていることがわかる。


 シルフィードの話だと宮廷魔法士団の十傑に探索サーチを極めた者が居るらしい。なんでも無機物―魔力を持たない物―を認識し、目を瞑ってもどこに何があるからわかるらしい。その人は目が見えないため探索サーチを極めたんだとか。ヤバすぎるだろ。


「そうか。お主はそ奴らにいじめられてるのか?」


「いや、なんでそうなる」


「結界を張られてたであろう?」


 アルがニヤニヤしながら聞いてくる。


「帝都全体に張った結界を俺が壊したから、俺が負けてお前が壊したと勘違いし、この城に立てこもった。そんでもって結界も張った。それをまた壊され、お前が来たと勘違いし、腕に覚えのある俺の義弟おとうとと護衛が来た。大方この流れだろう」


「お主バカなのか?」


「あ?やっぱ殺すぞてめぇ」


 ウザイなこいつ。全然見当違いのこと言ってるか?俺。大体合ってるだろ。


「なんでそうなるんじゃ」


「じゃあ、お前の見解を述べてみろ」


「いや、我の見解はお主と一緒じゃ。でもそのまで考えられるのになぜ結界を壊した?お主の力量なら結界を乗っ取る事も出来ただろうに。そうすれば向こうもお主が戻ったとわかったであろう?」


 何言ってんだこいつ。


「そんなん、お前だって出来るだろ?結界を乗っ取ったところで結果は変わらんだろ」


「それはお主が我と接するうちに乗っ取ることが出来ると思ったからじゃろ?我と接する前のお主はドラゴンが結界を壊さず乗っ取り、消滅させてから帝都この街に侵入すると考えたか?」


「あぁ、なるほ――」


 パァァンッッ


「――危ねぇよレント。急に殴るなや!」


 俺がレントの打撃を手の平で抑える。右斜め後ろではディアナがアルに殴り掛かっている。


「な、なんなんじゃ急に!お主の仲間じゃろ!?何とかしてたもぉ」


「いや、そんなこと言われたって。おいレントなんのつもりだ?」


「なんのつもりって結界が壊されたんだ。お前はアニキの身体を乗っ取ったドラゴンだな?妙な女も連れてきやがって!」


 はぁ?何こいつ、ガチで俺が負けたと思われてるじゃん。あー、なんか急に腹立ってきた。なんで俺があいつに負けたことになってんの?


「いいから話を聞けっ!」


「カハッ」


「剣で戦えばお前の方が強いかも知んないけど、格闘なら俺の方が強いのは知ってるだろ?取り敢えずそこに直れ。ディアナもだ」


 俺は強烈な殺気と共にレントとディアナに命じる。


 ◇

「「申し訳ありませんでした」」


 2人は俺とアルに頭を下げる。2人が理解出来るまでちゃんとお話をした。結界を殴り壊した理由を1から10まで。ディアナ、いつもの口調が無くなってるぞ。


「いいよ、許す。そんじゃ、謁見の間に行きますか~。みんなそこにいるんだろ?」


「あぁ、取り敢えずシルフィードとシャル嬢にも今の話をしてやってくれ」


「わかったよ」


 そのまま俺たちは謁見の間へ向かった。

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