第31話 新たなるハプニング


「いよいよ最終戦!選手入場お願いします!」


 司会の声と同時に俺とムルは入場する。


「うぉぉぉ!」

「殿下ぁぁぁぁ!」

「第2魔法魔法長ツヴァイ様ァァァ!」


 この世界に娯楽が少ないせいか、こういう催し物での観客たちの盛り上がりは半端ない。夏には宮廷魔法士団の序列戦、冬には近衛騎士団の序列戦、そして秋には闘技大会なるものが開催される。民たちはそれらを楽しみに毎日過ごしていると言っても過言ではない(過言)。一方貴族たちは品定めするような目付きをしているがその表情はどこか楽しそうだ。


 そして俺の前に青い長髪で切れ長の青い目を持つイケメンがやってきた。


「おはようございます殿下。今日はよろしくお願い致します」


 そう言ってムルは右手を胸あたりに当て、礼をする。しかしその顔にはこちらを見下すような笑みが張り付いている。これは一応帝国貴族流の礼の仕方だ。こいつは平民出身ではあるが、一応貴族という扱いである。1代限りとはいえ法衣貴族と言われる貴族だ。


「ああ、手加減はいらない。降参は無し。どちらかが死ぬまでだ」


「いいでしょう」


『これより我らは殺し合い始める!見たくなければ会場から出るといい!どちらも降参しないと言う契約を今結んだ!この勝負が終わる時はどちらかが死ぬ時だ!』


 俺は拡声魔法を使い観客に言うとまた会場が静まり返る。


「「……う、うぉぉぉ!」」


 1拍置いて観客たちが歓声を上げた。どうせ殺し合いをすると思っていないのだろう。


 貴族たちの方は先程まで楽しんでいた顔が一気に青ざめる。俺が負けると思って心配している派と、ムル・バスーラが負けたら懇意にしていた自分たちがやばいと思っている派だ。後者は自分たちの行いがバレるのが怖いのだろう。黒いことばかりしてたからなぁ。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


「審判早くしてくれ」


「は、はい!それでは始め!」


 俺が言うと速攻で始めやがった。本当は両者の確認を取ってから始めなくてはいけないのに。


 俺とムルは話せるほどの距離にいたためとりあえず牽制の意を込めてサッカーボール程の大きさの火球ファイアボールを無詠唱で放つ。


 すると相手も同じ魔法を無詠唱で放つ。


 当然ぶつかったふたつの魔法は爆発を起こすが俺はその場から動かない。しかしムルからは大きく後退した気配を感じる。


「まさか、7歳にして無詠唱を使えるとは思いませんでしたッ――よ」


「喋ってる暇あったら早く戦え」


 俺は同じ魔法をもう一度放ち奴の会話をフル無視する意向を示す。


「いいでしょう。それじゃあちゃんとやりますよッ」


 その言葉と同時に今度は野球ボール程の大きさの水球ウォーターボールをいくつか放ってくる。


 俺はそれより一回りほど大きな水球ウォーターボールしながらわざとぶつける。


 すると相手の水を自分の1部にし、少し大きくなった俺の水球ウォーターボールが現れる。それらを俺はひとつにする。大きさは直径2メートル程。そしてムルへ向けて放つ。


 理屈は簡単だ。あいつは作った魔法を自分の制御下から解放し俺の方にただ飛ばしただけ。俺は自分の制御下に起きつつあえて衝突させることで相手の作った水を吸収しただけだ。


 赤壁の戦いで孔明が成した言われる相手に矢を放たせ、それらを自分らが持って帰る的なやつを真似しただけだ。


 バッシャーーン!!


 避けられてしまったようだが、当然、でかい水球ウォーターボールが地面と衝突すればそれらははじける。


「なかなかやるではないですか」


「ハッ、ほざけ。良いから本気の一撃を放てよ。もちろん邪魔もしねーし全力で受けるよ」


「宣言しろ」


「あ?」


「その話に乗ると言って知るのですッ!私が本気の一撃を準備している間、邪魔はしないと宣言しろと言っているんだッ!」


「はぁーーー。だる」


 俺は大きな、それはとてもとても大きなため息を着いたあと宣言する。


『えーっと、彼が極大魔法放つのに少し時間が欲しいとの事なんでー、自分はそれを真っ向から受けるためにー、彼が準備している間邪魔しませーん』


 俺の面倒くさそうな声が会場に響き渡る。


「これでいいだろ?速くしろ」


「いいでしょう。すぅーーはぁーー。――我求む、彼の者を焼き尽くす程の力を!螺旋のように燃え盛る強き炎を!精霊よ、我に力を貸した給へ!――螺旋炎柱!!」


 その瞬間。螺旋状の炎柱が俺めがけ、グルグルしながら向かってくる。


 ドォーーーン!!!


 ムルが放った魔法が俺に直撃し爆発を起こす。観客席と武舞台の間には魔法障壁がはられているので観客たちに被害は無いはずだ。


「リュートくん!」

「お義兄にいちゃん!」


 シャルや義妹のシンシアが心配する声を上げている。他にも所々から心配する声が上がっている。


「ほーら、言わんこっちゃない。私を本気にさせた殿下が悪いんですよ?審判、早く判定をしてください」


「あ、はい。勝者――」



「プフっ、あはっ、あはははっ、はぁはぁ、もう無理ぃ、あっははは」


 そんな会場の雰囲気とは裏腹に俺はたまらず吹き出してしまった。お腹を抱えて膝を付きながら。だって自信満々に攻撃しといてなんも効かねぇんだもん。それに詠唱ダサすぎ。


 攻撃?もちろん魔道具であるローブには魔力を流していたしローブに着いてるフードも被っていたので首上も安全なので無傷です。


 ちなみにこのローブにかけた付与魔法は漢字で「魔法無効」である。魔力をごっそり持っていかれたが、効果は絶大だ。ついでに「自動修復」も付けている。8文字も書けるくらいには素材が高価なのが伺える。


「なッ!なぜ生きている!?」


「なぜって、そんなんお前の魔法がクソ雑魚だからだろ。そんくらいわかんねぇのか?ヴァーカ。ククッ、ほんとに面白いな」


 実際こいつがこのローブを使って魔力を流していても俺ならダメージを与えられる。ここに来る前、死刑囚に着せて放ったら普通に焼け死んだ。相手は魔法を使えるやつだったのでそれなりに魔力の扱いには長けているはずなのに、だ。要は魔法の質が違うのだ。俺なら脳筋ゴリ押しでこのローブごと焼き尽くす。


 魔道具を使うにしても魔法を使うにしても魔力を込めれば込めるほど威力、効果は増す。つまり魔力量が人外の俺は相手がどんな防御系の魔道具を持っていても来れせちゃうってことだ。


 それが出来る俺と出来ないムルの違いがはっきりした一撃だ。


「それじゃあ終わらせる。――氷結之霧ダイヤモンドダスト


「おいおい何も起きねぇじゃねえかよ」


 嘲笑うようにムルが言う。


「なんもわかっていないようだな。気づかないか?この湿り気」


「湿り気?」


 ムルは手を、グーパーしたり、髪を触ったりして湿気を確認している。


「それがどうしたって言うんだよ?ただの、水魔法じゃないですか?」


 こいつ、俺をバカにする気持ちと普段からの口調が混ざってるよ。


「やはりそんなもんなのだな。お前は」


 ――パチン


 俺はそう言って指を鳴らした瞬間、ムルの周りが凍り出す。空気中にあった水は塊小さな氷がその場に落ちる。雹が降ったあとのようだ。


 そして肝心なのはムル自身。凍っている。腰に左手を当て、右手でやれやれ的な動作をしている途中で。俺をバカにしている最中に凍ったらしい。


 決闘の場でただの水魔法を出すわけが無いのに。


 俺は凍ったムルに近寄り1発殴る。


 ――パリンッ


 凍っていたムル、いや、ムルだったなにかが崩れ落ちる。


「しょ、勝者リュークハルト様!」


『これより、ムル派の貴族の粛清を開始す――』


 観客が騒ぐ前に俺がムル派の貴族の粛清開始の合図を出そうとした瞬間、


「伝令!帝都から約7000離れたところにドラゴンを発見!色は赤!古代竜エンシェントドラゴンに至っていると推測!」


 ワオ。まじか



次、設定集出す予定です

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