第28話 救出

 俺は今箒に跨り時速80km程で進んでいる。急いでる割にはスピードが出ていないかもしれないが、飛ばしすぎて到着した頃には疲れきってるなんて事だけは避けたいのだ。


 シャルに渡した魔道具は方角は分かるが距離までは正確には分からない。しかし、馬車は時速5~6km程で10時間ほど進む。うち休憩時間も考慮すれば一日8時間程度進行すると考えると40~50km弱進む事が出来る。シャルが帝都を出たのは昨日なのでもう2日分は進んでいると見ていい。なのでだいたい30分程でシャルの下へ辿り着ける。


 ちなみに帝都からヴァイス公爵領まで馬車で3日ほど。公爵領で3日かかるのだ。帝国の広大さが分かるだろう。


 ◇


 ――約30分後


「なんだこれ……」


 シャルがいるであろう場所の上空にやってきた俺達だったが、下を見るなり絶句する。レント達に至っては声すら出ていない。するとレント達の乗っている箒がこちらによってくる。


「あ、アニキ、こんなところに村なんてあったか……?」


「なかった、筈だ」


 俺たちがいるのは帝都とヴァイス領を繋ぐ街道に隣接する大きな森―バンディエットの森―というところの奥深くである。そこには村と言うには大きく町と言うには小さい規模のモノだった。しかしレントが村と言うので村としておこう。


「なんというか平屋が多いッスね」


「ここは森の中ですから、木よりも小さくなくてはいけないからでしょう」


 ディアナのこぼした言葉にシルフィードが答える。


「しかし、ひとつだけデカい家があるな。これじゃあここにいますよって言っているようなもんだな。おそらくあれがかしらの家だろう。俺はすぐにでも突撃したいがどうする?」


 デカい家と言っても平屋だがそれでも平安時代の貴族の屋敷並にデカい。


「シャーロット様を救出して終わるというのはつまらないでしょう。この村を何かで囲んでから逃げられないようにし、シャーロット様を救出致しましょう」


 なんか、シルフィードがえげつない案を出してきた。要はシャルを救った後にこの村を焼き払うなり水没させるなりするということだろう。


「いいなそれ!じゃあアニキ、土壁かなんかで囲んでくれよ!」


「わかった。囲ったらすぐにあのデカい家に凸だ。シャルの場所はなんとなく分かるから後に続け」


 そう言うと俺は一瞬で村がすっぽり入るくらい大きい広さの円形の壁で高さ10mほどで囲う。


 そして何も言わず全速力でデカい家に突っ込む。比喩ではなく実際に。



 ――ドォォーーン!!


 ディアナには予め身体強化の指示を出していたので怪我はないだろう。シャルがいるであろう場所からも少し離れたのでシャルにも危害は及んでいないはずだ。


「ケホッ、ケホッこれは聞いてないッス~、って、リュークハルト様!待ってくださいッス!」


 ディアナが何か言っているが構わず俺は身体強化を掛け、風魔法で自分を押し出しもっと加速しながら廊下を駆け抜ける。


「……ここのはずなんだが……。下か?」


 ドォーーン!


 構わず地面を殴り穴を開けるとそこには地下牢があった。そして目の前には――


「リュートくん!」


 シャルが閉じ込められていたので牢屋をぶち壊しシャルを救出すると抱き着いてきた。


「遅れて申し訳ない。と言うかまた呼び方変えたか?」


「あ、その、あれはつい」


 シャルが顔を赤くして俯いてしまった。


「まあ別に呼び方はなんでもいいんだけどさ、護衛の人は?」


「みんなやられちゃいました……」


 公爵家の護衛がみんな殺されたということか?公爵家の護衛となればそれなりの手練だ。そいつ等を倒すとなれば相手は頭の3人の誰かだ。


「あぁ、その子の護衛たちなら僕が全部っちゃったよぉ~?」


 振り向くと長身で長髪の優男な顔だが卑下た笑みを浮かべている奴が出てきた。


「誰だ?てめぇ」


「僕?僕わぁ、三頭賊ケルベロスかしらの一角のぉ、パレルトンって言うん――」


 ――ズシャッ


「あ、わりぃアニキ。こいつ切って良かったやつだよな?」


 自己紹介の前にレント上から降ってきて縦に綺麗に切ってしまった。頭からスパッと。







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