第25話 あいつ

 side:小鳥遊たかなしみなと              


 地元で開催された夏祭りの翌日に瑠人が亡くなったと七瀬から聞いた。


 あの日から七瀬は日に日に窶れて行った。でもあんずの献身的なフォローによって少しずつ改善されてきている。


 最初こそ、あいつの後を追おうとしていたりしたが、そんなことは絶対にさせられない。もし七瀬が瑠人の後を追おうものなら俺は瑠人に殺されてしまうだろう。あいつが命をかけて守った命なんだ。簡単に死なれては困る。


 そんな七瀬は最近ボーッとしていることが多い。何をしているのか尋ねると瑠人のことを考えているので邪魔しないで欲しいなどと言われてしまった。七瀬は記憶の中の瑠人に今でも縋っているらしい。


 俺たちが住んでいる町、またその隣の町はこの数年でかなり治安が良くなった。それはどれもこれも瑠人のおかげだ。


 原因としてはあいつは幼い頃に母親を亡くし、自分の、を失うことを酷く嫌うようになった。それがエスカレートし、結果的にこの町の治安は劇的に良くなった。


 俺、杏、七瀬そして瑠人は物心着く前から一緒にいたらしい。家が近所で親同士の仲がすごくいいので家族ぐるみの付き合いなのだ。


 そんな瑠人の祖父は道場をやっている。あの爺さんはやばい。竹刀を持たせれば有段者すら瞬殺だし、徒手空拳であれば何人相手でもなぎ倒す。元々有名な武闘家だったらしい。


 そんなやばい爺さんが営む道場で俺と瑠人は幼い頃から毎日扱かれた。最初は護身術程度だったのだが、本格的なものになってしまったり。


 3歳の頃から叩き込まれていたが、大会などには出場したことは無い。いや、1度だけあったのだが他の子達が相手にならなさすぎてそれから大会に参加するのはやめたのだ。


 しかし、5歳の頃瑠人の母親が通り魔に刺されて死んだ。瑠人は酷く悲しんでいたし、その後は何をやるにも心ここに在らずの状態だ。その翌年には七瀬が攫われるなんて事件も起こった。


 それは俺たちが小学校から4人で帰っている時、黒塗りの車がやってきて横で止まり、俺たちを攫おうとしたのだ。もちろん俺たちは応戦したが七瀬だけ捕まってしまい、連れていかれた。


 その後すぐ道場に出向き、爺さんに知らせ、爺さんが、どうやって知ったのか分からないが、アジトに突入。すぐに解決となった。


 たが、瑠人は自分が母親の死から立ち直らずに七瀬を危ない目に合わせてしまったと酷く後悔し、以前以上にストイックに鍛錬に打ち込むようになった。七瀬が攫われた事件に関して、あの爺さんの差し金だとは瑠人は知らないだろう。何に対しても心ここに在らずの瑠人を立ち直らすための演出だと知らないのは瑠人だけだ。


 その後も瑠人は鍛錬を続け、中学に上がる時にひとつの目標を立てた。それは、七瀬の為の町の治安改善だ。


 母親を失い、七瀬が攫われたことで大切を失うことを酷く嫌うようになった瑠人は七瀬が安全に暮らせる町づくりを計画した。もちろん俺も付き合わされた。


 まず最初に、学校にいる問題児たちを潰すことから始まった。どの学校にも問題児は存在するものだ。俺たちが通っていた中学にも、もちろん存在した。


 例えば年上のガラの悪い連中と付き合いのある奴ら。まずはこいつらをボコボコにしていた。ちょっと生意気な口をきけば直ぐに起こり、実力行使に出るので楽だった。


 しかし、1人で何人も相手にし、時間をかけずに鎮圧。相手は喧嘩が強いと勘違いしちゃってる中学生。瑠人才能も然ることながら努力もした。あの鬼爺に扱かれたんだ。簡単には負けない。


 そんな圧倒的な力を前に不良ぶっちゃってる相手は失禁。相手が倒れたあと、リーダー格の手の指の骨を数本砕く。近くで見ていたが、容赦なかった。なんせ、


「俺は先手を打っただけだ。七瀬には近づくなよ?もし近づいたら……もう、動く指が無くなっちゃうかもね」


 圧倒的な力の差を前に人は立ち向かうことは難しい。その不良ぶっちゃってるグループはガラの悪い先輩に頼ったんだとか。


 相手の不良グループをボコボコにして、指まで砕いちゃったもんだから相手のトップが出張ってきちゃったんだよな。


 近くの廃墟を拠点にしてるってことでそのグループのトップに呼び出され、2人でその廃墟に行ったんだが、そこには50人超いた。そこに瑠人は嬉々として突っ込み、俺は雑魚処理を任せたんだが、戦いが始まって数分で静かになったと思ったら瑠人やつ、相手を気絶させた挙句、服を剥がしてたんだよ。


 その写真を撮って不良グループ内に拡散。そのままそのグループは解散となるところを瑠人が頭として再結成。


 その不良グループってのが界隈ではなかなか有名らしくて、この辺にいる不良は全部同じグループなんだとか。まあ、その界隈について詳しくない俺らは知らないうちにボコってたらしい。


 そのグループ……瑠人は27トゥエンティセブンと呼んでいたが、どう考えても如月2

 七瀬7だよなぁ。と思ったりした。その27は瑠人によって強化され、普段の俺たちの行動範囲分(隣接する町)まで勢力を増し、瑠人の支持により治安維持をするグループとなった。


 それだけで十分七瀬は安全なのだが、瑠人は満足しなかった。


 例えばイヤフォンしながら自転車に乗ってる人に当たり屋のような事をし、脅す。もちろんお金は取らないが。少しでも七瀬に危険が及ばないように、やっていたらしいが。


 しかし、その全員に次やったら慰謝料請求するなんて言って、気づいたらイヤフォンしながら自転車に乗ってる人なんて居なくなっていた。


 イヤフォンをしていると外の音が聞こえにくい。それを利用して近寄り当たっていたと瑠人が教えてくれたりしたが、正直いらない情報だった。


 ◇


 また、たまたま銀行強盗に遭遇し、命懸けで捕縛なんてこともしていた。まあキリがないという訳だ。


 つまり、あいつは七瀬の、自分の大切のためなら町の不良達をぶちのめして統一するし、命懸けで強盗だって捕まえる。七瀬大切が安心して暮らせる町を作ることに成功したわけだ。中学の頃から始めたんだから、それはもう恐ろしい。


 ◇


 そんなこと、考えながら高校に入りようやく告白することが出来たあんずと教室に入る。


「おはよー」

「はよー」


「うん、おはよう」


 教室のドア付近には七瀬が座っているので挨拶をする。今日も今日とてやつれてやがるな……


 教室にはまど20人程度しかいない。俺と杏はひとまず席について授業の準備をする。


 だがその瞬間教室が白い光に包まれた。

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