第24話 シャルの独白
side: Charlotte Von Weiss
「それじゃあシャル。教えてもらおうか?」
リュートさんがそう言った瞬間、お父様と皇帝陛下、リュートさんのメイドの方も私のことを見る。
3回目の人生の時にお父様に繰り返していることを打ち明けたことがあるけれど、お父様は信じてくれた。でもその回はお父様も私も殺された。多分この事を共有するとその人も死んでしまうのではないかと思ってその後の人生ではお父様にも誰にも打ち明けてこなかった。
でもリュートさんは私が言う前から知っていた。
「1度目の人生の最後の記憶は私の7歳の誕生日の日の夜です」
皇帝陛下まで知っているとなれば陛下の命すら危うい。でもこの国の最高権力者だし、大丈夫だよね。
「2度目の人生は3歳になった次の日から始まりました」
私は全てを打ち明けることにした。
2度目の人生では、周りの人間が1度目の人生とまったく同じ行動をとることに気づき、私自身が少し大きめのアクションを取ると周りのアクションも変わり始める。それは連鎖していき、最終的にはまったく違う人生となった。つまりは私のアクションひとつでまったく違う人生が待っているということ。
それでも私は気になっていた。7歳になった日の夜のことを。2度目の人生、私はその日寝たフリをしていると何人かの賊が入ってきて私の心臓をナイフで一突きし、殺した。次の瞬間には3度目の人生、3度目の3歳の誕生日の翌日になっていた。
3度目の人生ではお父様にこのことを打ち明け、私自身に武術の先生を付けてくれた。3度目のあの夜、私は賊を待っていた。彼らはお父様の首を持って私の部屋にやってきた。賊が来る日をお父様に伝えていたので恐らくお父様が交戦し負けたのだろうと思った。そのまま私も殺され4度目の人生が始まった、、。
4~7回目の人生では起きた瞬間からお父様に武術の先生を付けてもらった。繰り返していることは伝えずに。体が3歳児になると筋力は当然7歳児より劣る。しかし、技術は次の人生にも持ち越せた。4~7回目の人生では賊と交戦し、あと一歩の所まで追い詰め、そして負けた。
8回目の人生では魔法の訓練も取り入れた。扱うのが難しかったけど、2年もあれば詠唱を短縮した、目眩し程度の魔法は使えるようになった。しかし、私が魔法の訓練を始めた8回目人生の賊は強すぎた。私が今まで戦っていた奴らはただの下っ端でしかなかったのだ。魔法を使えるようになり、今までとは全く違って有利に戦況を進め、圧勝した次の瞬間、次の賊がやってきたのだ。
私はその時に悟った。私に勝ち目は無いのだと。そのまま8回目の人生も幕を閉じ9回の人生になった。
9回目では攻撃のバリエーションを増やし、賊を圧倒する力をつけようとした。そしてお父様に兵を借り、今まで通り私の部屋ではなく、外で待つことにした。そこには約100人ほどの賊がいたのだ。対して私が借りた兵士は50ちょっと。開戦の合図は私の範囲攻撃の魔法だった。真夜中に火魔法をぶちまけて20人ほど屠った後、兵士に突撃を命じた。彼らは私の魔法を見て士気が爆上がりしていたし、公爵家の兵士なので賊を殲滅するのにそう時間はかからなかった。
しかし奴は現れた。残った20程の兵士を一瞬にして屠った私と同い年くらいの少年。夜でも輝く金髪の少年は楽しそうに嗤いながらこちらを見ていた。チラチラと見える目は金色に輝いていた。私はその人物を知っていた。
間違えるはずがない。今まで9回の人生で見なかったことがない顔、彼の7歳の誕生日に会った事が9回もある。皇族である彼が賊の頭なんてやってていいのかしらなんて思ったりしたがその圧倒的強者感を前に私はその場から動けなくなってしまった。
彼と向き合ったまま、ただ時が過ぎる。多分援軍は期待できない。お父様が現在領内に残している兵力は多く見積っても200程度。ココ最近、賊騒ぎなど色々あり、公爵領の兵士たちはその討伐に向かっていた。
残っている200名の兵士が来ても恐らく彼の前では無意味。ならば次の人生に活かすためにも彼から何かしらの情報を聞き出した方が良さそうだ。
「あなたは皇族でしょう?こんなことやっていていいのかしら?」
「良くないだろうな」
「じゃあなんで!?」
「オレは自分のことを天才だと信じていた」
「は?」
唐突に彼の口からこぼれる言葉たち。
曰く、彼は3歳の頃アルギメインという将に何も教えることは無いと言われたそう。その言葉どうり、彼は少し剣を振ればその辺の者たちでは太刀打ちできないくらいに成長してしまう。しかしそこに彼女が現れた。ディアナだ。
彼女はアルギメインが数年に1度抜き打ちで奴隷商の内部調査を行っていたりする。理由は違法な奴隷がいないかの確認だ。そこで見つけたのがディアナ。アルギメインは彼女を自分の後継者とし育てた。彼女の成長は凄まじくレオンハルトにすら勝ってしまったそう。
それから彼は自信をなくし落ちぶれ、皇帝にすらバレずにケルベロスという帝国でも屈指の盗賊と関わるようになり、彼らの上に立つ存在になってしまった。レオンハルトは彼らに訓練を施し実力の底上げを図った。結果は、大当たりだそうだ。それでも私や兵士に負けてしまい、もう生き残りはレオンハルトだけだとか。
「あと最後に」
「なんでしょう?」
「オレは依頼がなければ人殺しはしない。今回の依頼主はお前の妹だ」
「……は?」
次の瞬間には私はまた、戻ってしまっていた。
10回目、私はレオンハルトに言われたことが頭から離れなかった。私の妹は2歳下の子だ。そんな子が?恐らく賊騒ぎなどは彼女の手によるものだ。
え、それじゃあ私は今までずっと実の妹に狙われながら生きてきてたということ?
その事実を私は受け入れられずそのままベッドの上で自殺した。
今回は今までどうり過ごし、昨日帰り、妹と話し合いでもしようと思っていたのだが、リュークハルトというイレギュラーを見つけてしまい、それに縋ろうとしたわけなの。
◇
side: Ryukhard von Stark
彼女の人生は思ったより壮大だった。
「ていうか、話の流れ的にシャルは今回失敗しても次があるからとりあえず俺と婚約しといて今後の動向を模索するって感じだったんじゃないのか?」
「はい。その通りです」
「ここで残りの人生全部betするのは良くないんじゃないか?」
むしろ俺としてはここで「そうですね。ではこの話は白紙で」とか言って貰えるのがいちばんなんだが……。
「いえ、先程リュートさんとレオンハルト様の模擬戦を見て確信しました。私が安心できるのは強いひとのそばにいる時だと。なので私と婚約してください」
おいおい、俺の事利用する気満々じゃねえかよ。
そんなことを考えていると、「しかし」とシャルが続ける。
「守られるだけなのは嫌なので私自身、より一層頑張るので婚約してくれないでしょうか?」
そんならきゅるるんとした目でこっちを見るなぁ!でも守られるだけなのは嫌、ね。その辺は好感が持てるな。
でも俺の中では七瀬の顔がチラつく。
『
『え、どうって、そりゃぁ、幸せになって欲しいけど』
『七瀬様もそう思っているはずです』
『出来れば俺が幸せにしてやりたかったんだがな……』
『ごちゃごちゃうるさいですね。
『人の人生に口出ししすぎだろ』
でもまあ、七瀬に会えないのは事実だし、この世界では一生独身のつもりでいたんだがなぁ。
「わかった。その申し出を受け入れよう」
「はい!ありがとうございます!」
シャルがパァっとした笑顔を見せてくれたのでそれで良しとしよう。
リュークハルトかそんなことを考えている間にアイはと言うと、
『これで帝都周辺の治安は良くなりそうですね』
などと考えていた。
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