第22話 早すぎる再会
「リュークハルト様、起きてください」
訓練場で椅子に座りながら寝ていると、クリアーダに起こされる。目を開けると色は着いているが鮮やかさが足りないような印象を受ける。耳もまだ聞こえにくいしな。恐らく長い時間眠っていたのではなく、本当に数分程度寝ていただけだろう。
「んあ?」
「リュークハルト様にお客様がお越しです」
「……今日はそんな予定なかったはずだが?」
「それでもです。陛下も早く来いと仰って降りました」
「まじか。それじゃあ、行くとしますかー」
俺は椅子から立ち上がり、そのお客様が待っているところに向かう。
「おいアニキ!さっきのはなんなんだよ?」
「さっきの?……ああ、限界突破のことか。ディアナに聞いといてくれ。多分全部知ってるからよ」
「そのディアナの説明が下手すぎて何言ってるのか分からねぇから聞いてるんだよ!」
レントは少し怒ってるらしかった。それはそうだろう。相手の技の内訳は、知っていた方が対策は練りやすい。でも限界突破のような身体能力をあげてゴリ押しで戦うような技は対策は練りにくいだろう。これに関しては相手の次の技を予測する必要があるからだ。
「次の予定が終わったら教えてやるよ」
そう言って俺は訓練場を立ち去った。
◇
今はクリアーダと共にお客様とやらが待っている来客室に向かっている。来客室は1階にあるので比較的めんどくさくない。ちなみにディアナは訓練場に残している。レントが対俺を想定してディアナと模擬戦をするんだとか。
「ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「それがもう1つ目だからやだ」
「……分かりました」
クリアーダがしゅんとしてしまった。ちょっと申し訳ない。
「いや、ごめん。少しからかいたかっただけ。何を聞こうとした?」
「先程の模擬戦見ていたのですが、急にリュークハルト様が消えて、レオンハルト様の後ろに現れたので何をしたのかなと気になりまして」
「あぁ、あれね。説明するのが少し難しいんだけど良い?」
「はい。大丈夫です」
「んー、じゃあ、紫電一閃って魔法知ってるか?」
「はい。魔法大全にもそのような名前の魔法があった記憶がございます」
「その威力や効果などは?」
「残っている体力を全て代償として全身体能力を数秒程大幅にあげる……のはずです」
余談だがその身体能力が上がった状態で移動すると速すぎてそこに稲妻が走ることから紫電一閃というダサめの名前が付いたそう。
「そうそう。その魔法のデメリットとして、体感時間は変わらないから、一瞬で移動しても自分も見えないってデメリットがあって、これを開発した人は思考加速も同時に使ってたらしいんだ。あと、体力を全部使い切っちゃうからその後、ぶっ倒れるんだよね。んで俺が今回開発した魔法は紫電一閃を改良した技なんだ」
「その2つを改良したと言うことですか?」
「もちろん」
そもそも紫電一閃は俺の前に来た異世界人、いや日本人が作った魔法だ。彼は常々考えていたらしい。例えば、長距離走で消費する体力を100m走で消費する代わりにその分速く走れたりしないものだろうかと。そして完成させてしまった。残っている体力を全て消費する代わりに身体能力を大幅に上げる魔法を。
俺は体力だけに限定せず、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、と視覚というより色彩を代償にした魔法を作った。本当に一瞬であれば聴覚すらも必要ないし、思考加速を強めにで使うと脳の処理が追いつかないので色彩を失うこともある。なので色彩すらも代償にした。そうすることで限界突破を使ったあとはものすごく疲れるだけでぶっ倒れたりしない。
限界突破は身体能力向上を謳っているので、当然脳の処理速度も上がる。そうすることで紫電一閃と違い、思考加速を使う必要は無くなる。その分本当に一瞬しか使えない。しかし、体感時間は数秒程あり、一瞬ではないので紫電一閃よりは扱いやすい。もちろん難易度自体は跳ね上がるが。
そのことをクリアーダに教えると、
「あの一瞬でそんな事していたんですね……」
との事だ。
「あの一瞬?もしかして見ていたのか?」
「はい。申し訳ございません」
「いや、責めている訳では無い。……もしかしてレントの連撃辺りから見始めたか?」
「はい」
「なるほど。それじゃあ一緒にいた2人が来客というわけか」
「そこまで気づいていたのですか。流石です」
一瞬、びっくりした顔をしたクリアーダだがすぐいつものようにすまし顔をしている。面白いな。
クリアーダと話していると来客がいるらしい部屋の前に来た。
「失礼致します。リュークハルト様をお連れ致しました」
クリアーだがノックの後そういうと、
「よい。入れ」
何故かお父様の声がした。
ガチャ。
部屋に入ると、お父様が座っているのが見える。テーブルを挟んで入口に背を向けるようにして座っているのは白いロン毛の男性だろうか。髪の長さは女の人の様だ。その隣に座っているのはおそらく――
「余の隣に座れ」
「はい」
お父様の隣に座ろうと手前の椅子に座っている2人の横を通り対面するとそこにはシャルとメッチャ美形の男性がいた。
「どうも初めまして。リュークハルト君?私はスーナー・フォン・ヴァイス。昨日はうちのシャルがお世話になったね?」
皇子を普通に君呼びする貴族……ヴァイス家は公爵だから位は高いけど、いいのかよそんなんで。しかも見た目のとうり、爽やかな喋り方だな。シャルと同じく青い目をしている。
「リュークハルト・フォン・スターク。父上。相手は公爵とは言えアポもなしに来るのはどうかと思いますが?」
「余は知っていた」
「なら伝えておくべきだったのでは?俺が外せない用事を入れたらどうしてたんですか?まあ、皇帝に呼ばれたら流石にそっちを優先しますが……知っていたなら伝えておくべきだと思います」
「すまん、忘れていた」
いや、皇帝が大変なのは知ってるけど、忘れてたはないやろ普通に。全く酷い話だぜ。
「まあ、いいですけど。それで、何故このメンツなんですか?まさか縁談?」
「うむ」
「うちの子じゃ満足できないかな?一応シャルからの希望なんだけどね?」
わお
「まじか。……あっ」
口に出てしまった。
「皇子との縁談なら俺じゃなくてもいいんじゃないか?それに俺は冒険者になる予定だからあまり構ってあげられないし」
「リュークハルト様がいいんです!」
シャルがテーブルに乗り出しながら言う。何故だ?……あぁ、そういう事か。
「シャル。お前何周目だ?」
俺はシャルに問い詰めるような言い方でピシャリと言い放った。
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