第17話 3年後その2


 俺がディアナを伴い、シンシアの部屋に入ると、もう、ご飯を食べ終わったのか、食器とクリアーダの姿はなく、シンシアと黄色髪のボブでクリっとした緑目が特徴のシンシアの専属メイドのジュリアがいた。その2人で椅子に座り談笑していた。おそらく、クリアーダは食器を片付けに出ていったのだろう。


「ご飯は美味しかったか?」

「美味しかったの!」

「そうかそうか。一緒に食べられなくてごめんな?」


 そう言いながら頭を撫でると擦り寄ってくる。可愛い。


「大丈夫なの!私の分だけ、お義兄にいちゃんが作ってくれたってクリアーダが言ってたの!だから嬉しいの!」

 少し前まではリュー兄と呼んでいてくれたが、そう言う呼び方は皇族らしくないとのことで本当はお義兄様なんて呼ばれる予定だったんだが、「そんなに堅いのは嫌なの!」と言い、お義兄ちゃんに収まった。

 それを言うならレントのアニキ呼びの方が皇族らしくないと思うけどな。

 因みに、シンシアが言うとうり、彼女のだけ俺が手作りした。みんなの分は城の料理人に任せたんだが、シンシアがみんなと食べられなくて拗ねているとのこで俺が直接作るという案が出たが、それがまさか良い方に行くとは。


「シンシアはまだ作法とか分からないから、客人に迷惑かけるかもしれないという配慮があったのは理解してくれ。アウスナット様はそんなこと思わないと分かっているが、体制的には必要なんだ」

「?分からないけど、わかったの!今日は何をしてくれるの?」

「そうだなぁ」


 俺はいつもシンシアのところに来ると、魔法を披露して楽しませている。


「あぁ、あれがいいな。少し離れるぞ」

「わかったの!」

「ディアナ、部屋を暗くしてくれ」

「はいっス」


 ディアナに言うと、カーテンを閉めてくれて、少し暗めの部屋が出来上がった。


「何をするの?」

「まぁ、見とけって」


 俺はそう言うと右手の人差し指から火を魔法でだす。シンシアが「おぉ!」と喜んでくれるがまだ早い。そこから地面に胡座をかき、天井との距離を開ける。そして、火を上に発射し、爆発させる。ポンッという音を立てながら、花火のように散る。もちろん火事にならないように配慮は忘れない。そして、火の色を変える。直接物質を取り出して炎色反応を起こすなんて少し時間のかかることなどせず、イメージで火の色を変える。まじで魔法は不思議だ。イメージだけで火の色が変わるなんてな。そして火の弾け方を、応用すれば……


「わぁ!お花だ!…あっ、次はくまさん!あ!うさぎさんだ!かわいいぃ~~!」

「これは凄いですね」

「さすがッス!」


 三者三様の反応を見ているとドアからノックの音がする。


「入ってもいいかな?」

 アウスナットの声だ。何をやっているか気になったのだろう。他にも声が聞こえる。みんなで来たのか。

「いいの!」


「「「うわぁ」」」と、アウスナット、フェメニーナ、シルフィードの反応。

「うぉ!」と、レントの反応。


「これは、すごいね」

「今いいとこだから静かにして欲しいの。あと早くドア閉めて」

 褒めてくれるアウスナットに対して、真剣にみたいシンシア。ドアから光が入ってきて見づらくなったんだろう。とりあえず花火擬きを10分ほどやり、もう辞めると、みんなから「えぇー」などの声が聞こえる。うるさいなぁ。これはシンシアのためにやっているんだ。シンシアが寝ちゃってたら意味が無いだろ?


「シンシアが寝ちゃった事だし、外に行って、アウスナット様に魔法の実力を見せるとするか」

「もう、十分凄さは伝わってくるけどね」

「じゃあ、もう良いんですか?」

「いや、せっかくだし、見せてもらうことにするよ」

「まぁ、分かりました。ではまた訓練場に行きましょう」



 俺たちは訓練している兵士たちの邪魔にならないように、端っこにいる。そして30メートルほど離れたところに的を用意している。


「こんなに遠くから当てるのかい?」

「まあ、動いていなければ離れていても当てられるようにしているので」

 最大でも100メートル程の距離、現在安定して当てられるのは70メートル弱だ。30メートルでは話にならないのでもっと離れようとしたところ、アウスナット様に止められた。曰く、現実逃避したいらしい。これで70メートルなんて言ったら、彼のプライドはズタズタになるだろう。4個も下の子供に今のところ武で勝てるのは何も無いのだから。因みにこの世界の単位は地球、と言うか日本で使っていた単位と一緒だ。


「へぇ。それじゃあ早速見せてもらおうかな」

「使って欲しい魔法とかはありますか?」

「何が使えるのかな?」

「一応全て使えます」

「……それは本当かい?全属性扱える人間なんてそんなにと言うか魔王くらいだと思っていたよ」

「まぁ、才能に恵まれましたからね」

「自覚はあるんだ」


 アウスナット様の呆れた声とともにフェメニーナもアウスナット様に同意する様な仕草をする。


「使う魔法は君に任せるよ」

「了解しました」


 うーん何にしよう。的の大きさは直径30センチ程度。30メートルも離れているととても小さく見えるが、身体強化で視力を強化すれば問題ない。問題はどの魔法を使うかだが……あぁ、あれにするか。


 俺は徐に右手をあげる。すると俺の頭上に氷が現れる。俺が選んだのは氷の矢アイスアローだ。先を尖らせた円錐型である。アローと言いながら矢の形をしていないのはイメージしやすいからだ。その氷の矢を回転させると、右手を振り下ろす。同時に氷の矢も飛んでいき、的の真ん中に突き刺さり、貫通する。回転させた方が貫通力が上がるのだ。


「まさか…余裕でこんなことをやる6歳児がいるとは思わなかったよ。本気でやったらどうなるのかな?」

「うーん――」

「城は確実に吹き飛び、最悪、帝都も跡形もなくなります」


 静かに見ていたシルフィードが食い気味に答えてきた。


「え?俺そこまで危険じゃなくない?」

「いえ、リュークハルト様はご自分の実力を理解するべきです。普通、何種類もの魔法を1人で行使できる人などいません」

「え?同時に何属性も扱えるの!?」


 シルフィードの発言にアウスナット様が食いつく。いや、分かってはいる。合体魔法なんて名前の魔法が有るくらいだから、1人で2属性以上扱うのは難しいんだろうとは思っていた。因みに、合体魔法の定番はファイアストームだ。風魔法で竜巻を起こし、そこに火属性の魔法で着火するとカオスが現れる。戦争でも多々使われる技だ。


 アウスナット様も、俺の実力を見れて嬉しそうだし、このまま自分の部屋に戻るかと言うことで、訓練場から城内に入ろうとしたところ、声をかけられた。


「おやおや、こんなところで奇遇ですなぁリュークハルト殿下?」

「ムル・バスーラ……」

 下卑た笑みを浮かべこちらを見てくるのはスターク帝国宮廷魔法士団の第2席ムル・バスーラだった。

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