第15話 3年後


 ディアナと、シルフィードを購入して3年の月日が経った。あの2人を買う時にアイが言っていた、"多少身体に欠損があっても構わない"の意味を聞いたら、『奴隷なので身体に欠損があるモノがあっても不思議じゃありません。私には見たことない者の身体の状態など知りません』などと言っていた。それから『もし欠損があったとしても、フラウに任せておけばよろしいでしょう』と言っていた。フラウとは、アルト・フォン・フラウの事だ。彼女は宮廷魔法師団の第1席であり、回復魔法を得意とする老婆だ。つまり、アイは元々、買うならディアナとシルフィードと決めていたが、欠損がある可能性があったので、一応条件に入れておいたそうだ。欠損がある奴隷を、皇族に出す奴隷商はいないしな。


 そして、俺たちは6歳になり無事に、学園の初等部の飛び級試験を合格し、初等部には通わないで良くなった。しかし、問題が無いわけでもなく――


「リューートーー!」


 訓練場で剣術や体術などのフォームを確認していた俺の名前を叫びながら走ってきたのは義姉のフェメニーナ。義理の姉で俺が1歳の頃からこの前まで聖王国に留学していたのだ。道理で今まで会わないわけだ。義姉さんはジークとレントと母親が同じだ。義母ははも金髪でレントとジークも金髪だ。そしてフェメニーナ義姉さんも金髪だ。みんな金髪じゃんか。因みに、目の色は、ジーク、レントは青色、フェメニーナ義姉さんは翠色だ。


義姉ねえさん、苦しいです」

「何よ!私がいない間にこんなに大きくなって!少しは愛でてもいいじゃない!」


 最初は義姉上って呼んだら、呼び方が堅苦しい!なんて言いながら、義姉さんと呼んだところ、許可が降りたのだ。そして、なぜこのタイミングで1度帰省してきたのかと言うと、どうも彼氏が出来たので紹介をしに来たらしい。


 こんな義姉に彼氏が?なんて思いもしたが、相手は聖王国の王太子である、アウスナット・フォン・ビブリアと婚約したそうな。聖王国の王様は聖王と呼ばれているので義姉さんに「義姉さんは将来、聖母になるんだから、もっとお淑やかになりなよ」と、言ったら「私にそんなの無理に決まってるじゃない!」なんて言っていた。ダメだなこりゃ。


 そんな事を思っていると、義姉さんの彼氏がやってきた。


「リュートくん、迷惑かけてすまないね」


 俺の前に現れたのは、青髪青目の美少年。歳は4つ上で義姉さんの1つ下。アウスナットは今、学園の夏休みということでちょうどいいので挨拶に来ているのだ。そしてアウスナットが来た方を見ればジーク、ライト、レントがぶっ倒れていた。おそらく義姉さんの餌食になったあとなんだろう。


「アウスナット様、そう御思いなら、この暑苦しい義姉さんを剥がしてください」

「そうだね。ほらニーナ、暑そうだし、離れてあげな」

「はーい」


 アウスナットは上手く義姉さんの手網を握っているようだ。因みにニーナというのは義姉さんの愛称だ。


「そうだ、リュート君、僕と模擬戦してもらえるかな?」

「どうしてでしょう?」

「アルベール様曰く、"武においてリュークハルトは最高傑作だ"、とのことでね。少し気になったんだ」

 父上、面倒なこと言いやがってぇ。


「やめときなよ?アウナ君。リュートとレントは近衛騎士でも相手にならないってお父様が言っていたわよ?」

「それほどなのか。これは僕では手も足もで無さそうだね」

「うん、だからね、リュートとレントで模擬戦させればいいと思うの」

「別に模擬戦にこだわらなくても良いんじゃないですか?それにレントとは模擬戦する間隔を決めているのでやらないです」


 そう、レントと俺は2週間に1回模擬戦するという取り決めをしていた。それは2週間もあればお互いにどんな成長をしているのか分からないのでいい刺激になるから、というものだ。


「えぇー、じゃあじゃあディアナちゃんは!?あの子も強いんでしょ!」


 実際、ディアナは強い。少し気を抜けばその隙を突いて来る。実際、実力が互角すぎて昼食後に模擬戦を始めて夕食まで続き、結局勝敗がつかないなんてことはよくある。こういう内容はレントとの模擬戦でもたまにあるが。


「それはディアナ次第です。俺は別にいいんですけど」

「ワタシはやりたいッス!久しぶりに殿下との模擬戦!ワタシの成長をきちんと感じてくださいっス!」


 そんなことを言うディアナだがまだ俺と同じ6歳児だ。本当は可愛いものとかに興味を示すはずなんだが、メイド修行と闘いにしか興味が無いらしい。


「久しぶりと言っても、先月やっただろう?ルールはどうする?」

「完全な実力勝負じゃあ手も足も出ないんで、魔法は身体強化のみでお願いするッス!」

「随分の弱気だな?少しは種族の差を考えて欲しいものだ」

「そ、それじゃあ、か、風魔法だけッス!それも、身体強化の補助だけっスからね!」

「わかったわかったそれ以外は全力でいいんだな?」

「もちろんっス!」


 この3年でディアナはものすごく成長した。まずは身体強化を使えるようになった。その他の魔法はからっきしだが。因みにレントに至っては火魔法を使えるようになった。これはかなりの練度だった。その他は火魔法と比べなくとも並以下のレベルだ。しかし魔法が使えるだけでもすごいことなのだ。


 そんなことより今はディアナだ。少々制限をかけられてしまったが、全力を出していいとの事だ。義姉さんと聖王国の王太子が見ているんだ。情けない姿は見せられん。


「そういえば殿下はフェメニーナ様とアウスナット様の前だと喋り方が変わるっスね」

「確かに、ディアナちゃんや他の使用人には上に立つ人っ!って感じで話してるのにどうして私たちにはあんな喋り方なの!」

「それは、義姉さん達が目上の人だからです」

「それを言ったらクリアーダちゃんや、ディーナーも目上でしょ!」

「傲慢と思われるかもしれませんが立場が違うのです。使用人にへりくだる皇族なんて他国にナメられますし、使用人からしても不安でしょう?なのでもうこの話はお終いです。さあ、ディアナるぞ」

「はいっス!」



 訓練場の真ん中に大きく武舞台を土魔法で作る。もちろん強度はクソ強め。じゃないと崩れちゃうし。そのため、魔力をめちゃめちゃつぎ込む。


「リュ、リュート君ってこんなに魔法使えるんだ……。最高傑作とアルベール様が言うだけはあるね……」

「確かにお父様が無詠唱で使えるなんて言ってたけど、ここまでだなんてね……。これ、まだ全然余裕あるように見えるし、世界単位で見てもすごくすごいんじゃない?」


 アウスナット様が驚き、義姉さんもよく分からないことを言っているが、確かに俺は魔法は使える方だと思っている。でも上には上がいるんだよなぁ。それにそろそろあいつは潰しとかなきゃいけないし。


「よし、それじゃあ……レント!審判頼む」

「任せてくれ!アニキ!………それじゃあ、両者位置について――始め!」


 号令と共に駆け出したのはディアナだった。身体強化はまだ施していないようだが、さすがは獣人、とてつもなく速い。


「ねぇ、なんで剣を持たないで最初から殴りあいしてるの?」

「それは、2人とも剣がない方がやりやすいって言うし、実際、そっちの方が強いからだよアネキ。ていうか、殴り合いじゃなくて、ディアナが一方的に殴ってそれをアニキが躱したり、いなしてるだけだけどな」


 俺は目に魔力を集め、身体自体はそれほど強く発動していない。今はこれでいい。


「ッ!」

 ディアナが声にならない声を漏らしながら殴り、蹴りつけて来る。よっぽど真剣なんだろう。もちろん俺も真剣だ。


「よっ、このっ!ヨイショッ!」


 今はまだ余裕だ。しかし――


「グルァァァ」


 ディアナが吠えた。これは獣人のみが使える、獣化。


手足が虎のそれになり、力に至っては通常の虎なんかよりも強い。これはある程度訓練を積まないと成ることのできない技だ。そして獣化できたとしても、慣れない間は理性を失う。


これを会得したばかりのディアナはすぐ理性を失っていたが、最近、操れるようになったらしい。そして、この獣化の上には獣神化という、獣王国の国王が使えると言う技がある。これは獣化の完全上位互換なんだとか。


 それよりも、これはまずい。ディアナが予定より早く獣化を使ってきやがった。


「はっ!」


 力を入れると共に、身体強化の強度をあげる。俺は魔力量が多いらしく、大抵の者より身体強化を強くできる。


「ねぇ、リュートから、出てるあの、水色っぽいのって魔力!?私アルトさんが見せてくれたのしか見たことない!」

「あれは……ハハッすごいねこれは」


 そう、魔力はどれだけ上手く操ろうと、少しは漏れるものだ。その量が増えると、魔力が視えるようになる。これは実力がない魔法使いがやろうとすると、爆発する。物理的に。制御できなきゃ危ないんだ。


「ディアナ、行くぞ」

「グルゥゥ」

 理性を取り戻してるので喋ることもできるが、面倒臭いらしいのでいつもは理性を取り戻しても吠えている。変化してるのは腕と足だけなんだけどなぁ。


「ハッ」


 地面を蹴ると一気にディアナの前まで詰め寄る。


「グラァウゥゥ」


 ディアナの横凪の攻撃を避けながら腹パンをお見舞いする。


「うぐっ」

「舌、噛むなよ」


 そのまま前に倒れそうになる所にアッパー。そのまま弧を描きながら地面に落ちる。


「カハッ、ハーハーハー。もう無理っス」

 もう戦えないようだ。地面に寝転がりながら、負けを認める。


「勝者、リュークハルト!!すげぇな!アニキ!そんな技初めて見たぜ!ディアナは大丈夫なのか?」

「あぁ、強く殴りすぎたが、大丈夫なはずだ。大丈夫か?ディアナ」


 歩きながら、ディアナの方に行き、手を出すとその手を掴み、起き上がる。そこに回復魔法をかけてあげる。回復魔法は光魔法の別名みたいなもんだ。光魔法でメジャーな魔法が回復効果がある魔法なので回復魔法など呼ばれている。


「あんな技いつの間に」

「いや、ただ、全力で魔力をつぎ込んだだけなはずなんだがなぁ。みんなが知らない技はまだ隠し持ってるがな」


 ディアナの問いに笑いながら答える。


「ま、マジすか……」

「あぁ、魔力量を、減らしつつ、もっと出力を上げる魔法を考えた機会があれば見せてやるよ」


「いやぁ、僕挑まないで正解だったよ。レオンハルト君もこんなに強いのかい?」

「いや、オレは今のアニキとったら絶対に負けるだろうな俺の実力はディアナと同じくらいだ」


「ほんとはもっと白熱した戦いをしたかったんだが、獣化に身体強化重ねられたら俺の全力身体強化が霞んで見えるからな」

「エゴいなアニキ」

「これまでで1番速く勝負がついたッスね!」

「お前はもう少し悔しがれよ……」

「そう言ってやるなよアニキ」

「そういえば魔法の方の実力は確認しなくていいんスか?」

「まぁ、あれだけ魔力を魅せられば魔法も凄いのはわかるよ。でもどんなもんか見てみたいもんだよねぇ」


 ディアナめ。めんどくさいこと言いやがって。アウスナット様が興味しんしんじゃねぇかよ。


「それじゃあ、お昼ご飯を食べてからにしましょう」


 ◇


 ※あとがき


 昨日は投稿しなくてごめんなさい。色々あって書けませんでした。出来れば今日はもう一個投稿出来たらなって思ってます

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