第12話 買い物とプレゼント

「さて、自己紹介をしようか。俺の名前はリュークハルト・フォン・スターク。3歳だ」


 馬車の中でそう切り出して自己紹介を始めようとする。


「オレは、レオンハルト・フォン・スタークだ。オレは強くなるためにお前を買った。失望させないでくれよエルフっ子。年はアニキと一緒だ」


 レントはシルフィードの名前を知らないのでずっとエルフっ子と呼んでいる。だがシルフィードが強く成長すればレントの良き相棒となってくれるに違いない。


「自分、ディアナ・べスティア、ッス!3歳ッス!よろしくお願いしますッス!」

「シルフィード。4歳」


 獣人と言っても、全身毛むくじゃらという訳でもなく、耳と尻尾、少しだけ鬣があるくらいで、ほとんど人間と変わらない。対して、エルフっ子ことシルフィードは無口な性格らしい。緑長髪にエルフらしく整った顔だ。エルフは人間より寿命が長く、20歳位までは人間と同じ速度で外見が変化していくが、その後数百年は、外見は変わらないらしい。しかし歳で寿命の10年くらい前からは急激に衰えるらしい。面白い種族だ。


「俺の隣に座っているのはクリアーダ。レントの隣に座っているのはアンナだ。そっちは後で改めて自己紹介しておいて貰えると助かる」

「「かしこまりました」」

 クリアーダとアンナが頭を下げながら返事をする。


「それと呼び方なんだが……殿下でもご主人様でもなんでもいい。あぁ、愛称にでもするか?」

「リュークハルト様!ご自分の身分をお忘れですか!?奴隷に愛称で呼ばせるなどよくありません!」


 クリアーダに怒られてしまった。


「あー、そうか。わかった。んじゃディアナ、俺の事名前で呼ぶと長いから殿下とでも呼んでおけ」

「はいっス!殿下!」


 そう返事をするディアナが可愛く、頭を撫でてやると擦り寄ってくる。…うん。癖になりそうだ。


「シルフィード。呼び方は任せるが愛称はダメらしい。オレはアニキみたいに怒られたくないから頼むぞ」

「かしこまりました、ご主人様」

「ああ、それでいい」


「皆様着きましたぞ」

「ああ、了解した。行くぞ」


 ディーナーの声によって服屋に着いたことを知る。


「ディアナ、どんな服が着たいのだ?」

「殿下が選んでくれればなんでいいッス!」

「そうか」


 ――数分後。

「リュークハルト様。これはどういうことですか?」

「どうもこうもメイド服だ。お前とお揃いだろ?」

 そう。俺がディアナに選んだのはフリルは控えめの白を基調としたロングスカートのクラシックなメイド服だ。ちなみに、レント達とは少し別行動をしている。


「なぜこの服装を?」

「こいつには戦いを覚えて貰うがメイドとしても頑張って貰う」

「私にそんなことできるッスか?」

「大丈夫だ。俺は戦士としても魔法使いとしても戦える。お前は戦士として戦い、メイドとして働く。やっていることは俺と同じだぞ」

「殿下と一緒!ならこの服着るっス!」

「はっこれで最強の戦闘バトルメイドの完成ってわけだな」

「そーゆーところは子供なんですよねリュークハルト様は」


 ディアナにメイド服以外も買おうと思ったのだがメイド服を、気に入ってしまったらしく、同じのを3着買うことにした。そんでそのまま1着は着ている。てっきりこの世界の服は全部オーダーメイドだとばかり思っていたのでサイズ別で服があるのは少しびっくりした。いつも俺の服は採寸して作るから店頭に服が沢山あるとは思わなかったなぁ。あ、でもディアナは獣人で尻尾があるからそこだけ直してもらったので少し時間がかかった。



「え?どっかいった?」

「はい。すぐ戻ると仰っていたのですがまだ戻る気配はないですねぇ。リュークハルト様も市場に行ってみては?」

「ああ、わかった。あいつらが帰ってきたらここに留めておくようにな」

「かしこまりました」


 俺たちが戻ってきた時にはもう既にレントたちは馬車に戻ってきていて、ディアナの服を直すことに時間が掛かると分かるとそそくさとアンナとシルフィードを連れて市場に行ってしまったようだ。せっかくだし俺も行くことにする。


「行くぞ2人とも」

「はい」

「はいっス!」



 市場には色々あった。例えば串焼きがあったりした。昼ごはんを食べた後だし、そこまでお腹が減っていた訳じゃないが、味が気になるので2人の分も合わせて数本買ってしまった。メイドが2人付いてるのを見た店主は俺の事を貴族、または豪商の息子だと思ったのか、最初はタジタジしてたが、途中から調子を取り戻したらしく、「坊主、可愛いの連れてんなぁ。オマケしといてやるよ!」なんて言って3本ほどおまけしてくれた。また今度来るとする。


 次は無名の職人が自分で作ったものを売っている区画に来た。壺だったり、……あれは盾か?剣や槍などもある。へぇ色んな職人が集まってんだなぁ。と、近くにあった櫛を売ってるところがある。綺麗だなぁなんて思いながら眺めて目に留まった綺麗な櫛を、手に取ろうとすると、横から手が伸びてくる。


「ああ、すまない」

「いや、私は少し気になっただけでね」

「いや、本当に大丈夫なんだが。少し目に止まっただけだ。誰かにプレゼントする予定もないし、俺自身つける予定もない」

「あれ?てっきり後ろの子達にプレゼントするのかと思ったよ」


 そう言いながら赤い髪を後ろでひとつに結んでいるキリッとしている女の子……多分俺と同い年くらいの子は大人になったら女騎士にでもなりそうな顔をしている。


「いや、あいつらにこの色は合わないだろう。他の色でもプレゼントするよ。しかし……店主この櫛をプレゼント用で貰いたい」

「やーっと決着がついたかい」

「いや、申し訳ない」


 キツネ顔の後ろでお団子結びしている女店主に謝罪する。


「銀貨3枚よ」

「わかった」

「え、銀貨3枚よ?櫛ひとつにしては高くないかい?」

「女性へのプレゼントを値切る訳には行かないだろう?」

「あんたいい男ね。もっと吹っ掛ければよかったわ」

「やめろよ?数年後まだここで燻っているようなら俺が雇ってやるよ」

「あら、嬉しいわね。後ろの方々を見る限りお貴族様って感じよね」

「どうだか」

 実際、ここの櫛は実際のところ悪くない。この辺は競争率が高いし、良い目をしている人間の目に留まる機会が無いだけだろうし。


「これは君にプレゼントするよ。この美しい櫛が似合う女性を俺は知らないよ」

「私は銀貨3枚程度の女ってことかしら?」

「櫛で銀貨3枚は高いだろ」

 余談だがこの世界で銀貨1枚は日本円で1万円だ。お金の価値は青銅貨→銅貨→大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→白金貨の順で高くなる。


 あくまで目安だが、分かりやすく表すと、

 青銅貨=10円

 銅貨=100円

 大銅貨=1000円

 銀貨=1万円

 大銀貨=10万円

 金貨=100万円

 白金貨=1000万円

 金貨、白金貨は普段は使われないが貴族、商人の間でよく使われている。

え、大銀貨はなんなのかって?銀貨と金貨の間に100倍もの差があると商人たちにはやりにくいので数十年前に導入されたシステムだ。


 そして、1つ上の硬貨になるには10倍の数が必要だ。これを見て分かるようにこの世界は10進法を使っている。


「まぁ、もらっておいてやる」

「おう」


 そう言って赤い髪の女の子は去って行った。

 あ、横から走ってきた執事に捕まった。とても怒られてるのがよく見える。やっぱりどっかの貴族だったんか。

『彼女を鑑定してみてください』

『ん?ああ、わかった。――鑑定』

名前:カミラ・フォン・ツワイト

年齢:3

種族:人族

称号:ツワイト皇国第2皇女

赤髪の女の子のステータスの個人情報欄には見たく無いものが映っていた。


「……おいおいまじかよ。こんなところで会うなんてな。今後会わないようにするためにも早めに冒険者になって独立せねばならんな」

「?リュークハルト様なにかおっしゃいました?」

「ああ、いやお前らにも櫛を、プレゼントしよう」

「ありがとッス!」

「ありがたき幸せ」


 ウンウン。元気が1番だよね。うん。俺は鑑定結果忘れるために2人へのプレゼントに悩むのであった

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