第10話 話し合い

 俺はクリアーダさんを伴い父親である、アルベールの執務室へと足を運んでいた。理由は本日父上から話があるとの事だ。ちょうど自分から父上と話し合いの場を設けたいと思っていたところなので都合がいい。


「リュークハルトです」

「よい、はいれ」


 大きいドアをノックした後名乗れば入室の許可が下る。俺が何もしなくても両開きの扉の真ん中部分は内側に吸い寄せられ開けられる。中にいる使用人が開けてくれるシステムだ。ドアの開き方的に使用人が見えないので初めて来た時は少し驚いたりしたもんだ。


「失礼します」


 一言だけ添え、部屋を進む。部屋は学校の教室ほどの広さがあり、ドアとの反対側に執務用の机と椅子がある。そこには軍服に似たような服を着た男が座っていた。そう彼こそが、この国の皇帝だ。俺はあの軍服のエポレットについてるヒラヒラかっこいいなーなんて思いながら机の前に姿勢を良くして立つ。ここで昔片膝ついてみたりしたが、臣下じゃないんだからやめろと笑われたことを思い出してしまう。


「レントと模擬戦をしたそうじゃないか」

「はい。1週間前に1度、本日2度目の模擬戦をしました」

「そうか。先週は惜敗したが、今回は圧勝だったそうじゃないか」

「はい。前回は剣だけで戦いましたが、今回は剣以外も使いましたので」

「……どうやって魔法を覚えたんだ?」


 やはりそう来たか。誰にも習ってないのに魔法が使えるのがおかしいと考えるのは妥当だな。


「使おうと思ったら使えました」

「なぜ嘘をつく?」

「嘘などついておりません。父上は前回の模擬戦の内訳はアルギメインからお聞きになられましたか?」

「ああ、2人とも初めてにしては卓越した剣技を披露していたと報告を受けているな」

「そういうことです」

「……ああ。なるほど、考えたな」

「真実を言ったまでです」


 確かに嘘はついていない。しかし本当のことを言っている訳でもない。父上はその"本当"の部分を知りたかったようだが、これは誤魔化すべきだと判断した。俺とレントは誰からも剣は教えて貰っていないが、アルギメインが驚くほどの剣を扱った。父上はその事を知っているから、魔法も同じく誰からも教えられずとも天才だから扱えるぞと暗に言っただけだ。つまり剣は使おうと思って使ったから魔法も使おうと思ったら使えたよってことだ。


「まあ、いい。将来の夢は決まっているのか?」

「皇帝になるつもりはないです」

「…そうか」


 やはりこれが本題。父上は武闘派だが頭もキレる。さっきの俺との会話から俺が1番父上の血を1番濃く継いでると思ったのかもしれないだからこそこの落ち込みようだ。父上としては俺を皇帝にしたかっただろう。しかし、スターク帝国は貴族も含め長子が継がなければならいという法律は無いのでベルン兄さんが継がなければならないという訳ではなくなる。つまり父上としては自分の血を濃く継いだ子に次代の皇帝を任せたいと思うのは必然だろう。しかし子供にも権利があるのだ。長男でも親のあとを継ぎたくなければ弟あるいは妹に任せることで自分のやりたいことが出来る。しかし、兄弟全員が次を担いたくない場合は親が決めることになっている。これは貴族にも言えることである。


「皇帝になるつもりがないのであれば何になるのだ?」

「冒険者になりたいと思っています」

「実力でか?」

「もちろんです。しかし、冒険者を一人でやるのはつまらないと思い父上にご相談が」

「自分の実力でやると言ったんだ。兵士を貸すと言うのはしないぞ?」

「もちろんです」


 もちろん、兵士を借りるつもりもないし、冒険者登録後はお金を強請ねだったりはしない。


「では何を望む?」

「奴隷を望みます」

「奴隷とな?」


 そう、この世界には奴隷が存在するのだ。しかしこの国で許されているのはもちろん、合法の奴隷のみ、例えば戦争に負け、行くあてのないものが自分から奴隷になったり、借金を返せなくて奴隷商に肩代わりしてもらう代わりに奴隷になったり。色々あるが、貧村などで、畑が災害などで使い物にならなくなってしまい、どうすることも出来ない時は子供を奴隷にし、金を得て、近くの街で食料を買うなどをする。なぜ子供を売るのかと言うと、単純に高く売れるからだ。それに大人ばかり奴隷になって子供だけが残った時、子供たちだけでは食いつないでいけないからというのが主な理由だ。

 もちろん他国では違法な奴隷を扱う国もあるが今は割愛することにする。


「はい。実はレオンハルトは最強の剣士になりたいそうです。なので冒険者が1番近道なので2人で冒険者をやろうと言ったところ、2人だけではつまらないなどと言われてしまって、では2人で奴隷を買い、4人で冒険者になろうと言ったら承諾しました。なので2人分の奴隷が欲しいです」

「レオンハルトも実力で冒険者をやっていくことに同意ということで間違いないな?」

「そう伺いました」

「わかった。明日ディーナーを伴い奴隷商へ迎え。ああ、それと請求は直接皇帝へ。これはディーナーにも伝えてとくからお前が言う必要は無いぞ」

「……っ!?」


 直接皇帝へ。それは父上のポケットマネーから出ると言うこと。皇帝のポケットマネーは、皇帝が趣味に使うものなどに充てられる。


「はっはっ、そんな驚くような顔をすることは無いだろう?」

「い、いえ、高い奴隷でも買うとします」

「よいよい」


 つまりこういう時は高いものを買う方が良い。例えばもし俺が奴隷商で安い奴隷が欲しいと言った後請求は皇帝へ、なんて言えば向こう側は「ああ、皇帝はケチなんだなぁ」なんて思うだろう。いや思わない人もいるが、ここで高い買い物をするのが礼儀ってもん"らしい"。


「次は商談をしたいのですがいいでしょうか?」

「む?であれば椅子に座るか」

「ありがとうございます」

 ここで断るのも礼儀に反する"らしい"。皇帝の申し出はきちんと受け取るべきだ。


 実はこの広い部屋の端の方に2人がけの椅子が2つ向かい合わせになっていて、その間にも机がある。これは皇帝が招いた客人や皇帝が私的な用で会う人間と皇帝が座る椅子だ。つまり父上は俺を商談の相手と認めたわけだ。


「して、商談とは?」

「はい、俺……いや、わたくしが作った将棋と囲碁はおぼえてらっしゃいますか?」

「ああ、ラインハルトとジークハルトのために作ったやつよな?あれは余も城の者と嗜んでおるが……まさか?」

「はい。あれを生産し、商品化したいと考えております」


 そう、俺は娯楽が少ないこの世界でライトとジークの想像力向上のために幾つか玩具を考案し、城お抱えの技術者と連携し、完成させた。その中で父上や城の者……つまり使用人、などから好評だった、将棋、囲碁を商品化しようと考えたのだ。


「商品化にあたり、初期費用を父上に負担してもらいたいのです。もちろんその分はお返しします。さらに、貯めたお金で、私が技術者と連携し、最高級の皇帝専用の将棋盤並びに駒を制作致します」

「良いぞ。とても興味がある。そこに、余からも案を加えても良いか?」

「はい、なんでしょう?」

「将棋が世の中に浸透した頃に余主催の大会を開催したいと思うのだが、良いか?」

「実は私も大会に関して考えていました。しかし、とても運営側の人員が足りないので断念しようとしていたところです。とてもありがたいお申し出でございます」


 なぜ父上が囲碁ではなく将棋にこだわるのか。それは父上が将棋の方が好きというのもあるだろうが、1番は囲碁より将棋の方が覚えやすいという点だろうか。その辺を考慮できるのは父上のすごいところだ


「はっはっ、礼を言うぞ。」

「いえいえ、お気になさらず」

 ここはとりあえず笑っておけばなんとかなるだろう。


「商談は以上か?」

「はい。ありがとうございます」

「ああ、では明日あすはきちんと良い奴隷を選んで来るんだぞ」

「はっ」

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