第3章 繰り返す令嬢編

第9話 制裁

「レント、アルギメインの所に行こう」

「あ?しつこいなぁ。アルギメインはもう教えることはないとか言ってただろ?」


 昨日、レントは俺に勝ってから態度が傲慢になっていた。理由は恐らく、アルギメインの一言。「もはや教えることはないように感じる」アルギメインはそう言っていた。どうもレントはこの言葉の解釈を勘違いしているらしい。アルギメインが言いたかったのは、教えてすらいないのに、ほぼ完成していた俺たちの戦い方、それを見て、変に矯正して使いこなせなければ意味が無いので、都度注意したり、戦いにおける読み合いのノウハウなどを教えたりする予定だったはずだ。しかしレントは俺に勝っただけで自分はもう何もしなくても最強だと驕っているらしい。


「わかったよ。そんじゃ、1週間後また模擬戦をしよう。そこで俺が勝ったら、きちんと稽古に励め」

「模擬戦するのは構わねぇが、アニキが俺に勝てるわけないだろ?」

「ふっ。まあ、言っておけ」


 正直、レントがこの後落ちぶれようと、どうなろうと知ったこっちゃないが、冒険者として大成する近道にはあいつは必要不可欠だ。三つ子の魂百までと言うことわざがあるように、今のレントの人格があのまま形成されると大人になっても傲慢な人間になる可能性がある。しかし、レントが傲慢になり始めたのはつい最近のことだ。つまり、幼いうちは簡単ではなくとも大人よりも人格、というか性格は変えやすいと、俺は考えている。それに、レントを抜いてあと2人ほど、戦える人材が欲しいところだ。俺たち2人が組めば最強なのだが、近しい実力を持つ人間が近くに居れば俺達も触発されてより実力が伸びるかもしれない。まあ、とりあえず1人でアルギメインのところに行くか。



 ◇


「アルギメイン」

「これは、リュークハルト様。レオンハルト様は?」

「あいつは昨日俺に勝っただけで、実力を過信しているらしい。1週間後に模擬戦の約束を取り付けたから、ボコボコにするために稽古つけてくれ」

「なるほど。……そういうことなら任せてください」


 アルギメインなりにも思うところがあるのだろう。こいつは脳筋に見えて聡い人間だ。自分の一言でレントが実力を過信してるのを見破ったのかもしれない。そして確実にあいつに勝つためには――


『アイ、剣の稽古が終わった後で頼みたいことがある』

『はい。剣の稽古が終わった後ですね』



 今日も今日とて走っている。お昼を食べる前に走り、食べたあとは小休止の後、剣の稽古。アイとの訓練も順調だ。


「はぁはぁ。やはり、この量の運動量は3歳児にはきついな」

「何をおっしゃいますか。勝つために必要なことですぞ」

「体力が重要なのは十分に理解している。しかしアルギメイン。4日前の模擬戦、あれって剣を放り捨てて拳で戦っても良かったのか?」

「え?えぇ、そりゃ構いませんけど」

「なんだ。なら3日後の模擬戦はヘマしなければ勝てるな」

「どういうことです?リーチ的に剣の方が有利でしょう?剣と拳でやり合って拳が勝つのは実力差がある場合のみです。今の御二方にはあまり差がありません」

「まあ、そうだろうな。だが、まぁ見ておけ」


 ここで嗤って見せる。アルギメインは意味わからない様な顔をして、必死に理解しようとしているが多分無理だろう。なんせ、アルギメインは俺が魔法を使えることを知らないからな。


 そう。俺はあの時からアイと共に魔法の練習をしていた。才能が剣よりもあるだけに成長速度が半端じゃない。今や、身体強化、軽く物質を作り出して飛ばす程度には練度をあげている。無論無詠唱で、だ。模擬戦の時に俺が魔法を使えばさぞ驚くだろうなぁ。楽しみで仕方がない。ただ、切り札はまだそんなもんしかないんだ。油断すればレントに足元を掬われる。気を引き締めねば。



 模擬戦当日。今日はレントを伴い、アルギメインの元に来ていた。1週間前に模擬戦をした場所だ。


「アニキ、早く始めようぜ」

「まぁ落ち着け。優越感はなるべく長く味わっていたいだろう?」


 挑発するように問う。勿論レントはバカにされたことに気づいており、怒る。これも盤外戦術の内だ。怒っているレントに対して「騒ぐな。小物感が増すぞ?」と続けて仕掛ける。無論レントは今にも暴れだしそうだ。気の短いことだな。


「それでは両者位置に着くように!!」

 アルギメインの号令により向かい合うように位置に着く。


 レントは剣を構えているし、俺もまだ剣を構えている。


「始め!!」

 アルギメインの号令と共にレオンが走り出す。元々2人の距離は10m弱だ。簡単に詰められる。



「おい、アニキよぉ、また前回と同じ戦い方するんじゃないだろうな?」

「はっ、どうだろうなぁ?お前にゃ、今の俺を越すことはできねぇよ」


 数合打ち合ったところでレオンから問いかけられる。正直、今回はどんな戦い方をしようか大まかなところは決まっている。


 まず、前回と同じようにレントの剣をいなす戦い方。この戦い方をすれば前回のようにまた意味の分からない高速な連撃が来るのは明らかだ。そこで俺は軽く身体強化をしようと考えていた。身体強化はつい最近、アイから教えてもらった魔法の1種だ。火や水を出す属性魔法より、自分のイメージ次第で何にもなれる無属性魔法を最初に教えて貰ったのだ。無属性魔法は魔力の感知、操作に、だけ・・必要な才能だと思っていたが、実はそうでは無い。俺が鑑定で見れる属性魔法の才能、火、水、風、土、光、闇、時、空間。これら以外の例えば重力を操る魔法だったり、8属性に属さない様な魔法はイメージ・・・・すれば発動することができる。無論、イメージが覚束無い人は詠唱の必要がある。そういうわけで俺は身体強化を使えるようになった。これは魔力を操作し、全身に行き渡らせる。(この時、全ての魔力を使わずとも、少ない量の魔力を使っても構わない。)その後、強化のイメージをすれば……!


「なっ」

「どーよ?追いつけないっしょ?」


 俺はレントにやられてたように高速の連撃を繰り返す。


 しかし、レントはこれを頑張っていなしている。正直ここまでは予想していた。ここからはこいつが予想できない戦い方をして隙を作らせるしかないっぽいな……。とりあえず一旦距離置くか。


 レントに隙を作るために今やる1番効果的な行動……あれだな。


「えっ?」

「なんと」


 レントの素っ頓狂な声とともにアルギメインの驚く声が聞こえる。大方、俺が剣を手放したことに驚いたのだろう。しかし、アルギメインは顔に笑みを浮かばせている。俺が数日前に拳で戦っても良いのかと聞いたことを思い出してる様だ。まあ使うのは拳だけじゃないけどな。


「いくぞ」


 瞬間足に魔力を集中させ、今までで1番速く動いた。これもアイに教えてもらった技術だ。身体強化は強力な技だが、欠点がある。それは魔力量によって、一度に使える魔力の量が異なる点だ。これは体が勝手に行っているようだ。理由は体内の魔力を空にさせないためらしい。なぜなら、空になると倦怠感が身体を、襲い、眠くなるらしいのだ。

 そこで一度に体全体に魔力を纏わせられる魔力量を100と仮定した時に、全身に纏えば足に纏える魔力は両足足してせいぜい40~50程度。しかし足のみに纏えば片足に50ずつ纏える計算となる。これは防御にも応用できる。

 例えば、今の俺は魔力を纏わせ、速く動くために筋肉や細胞を活性化させるイメージをしている。しかし、防御する時に魔力を使い、体の1部を硬くすることもできる。上級者になれば剣で首を斬られる瞬間、剣が当たる部分だけにピンポイントで100%の魔力を集めれば、それは強力な防御となる。話がそれたが、身体強化は基礎中の基礎ということだ。足し算引き算が出来なければ掛け算割り算もできないように身体強化を使えなければそう簡単に魔法を使えることも出来ないのだ。


 俺は一瞬でレントとの間合いを詰める。しかし、レントも予想していたのか上段の構えをし、縦に振り抜く気満々だった。恐らく俺が1歩2歩下がると予想しているのだろう。たが、俺は覚えている。レントと兵士の訓練を見ていた時、似たような状況になった時あの兵士は下がった。それに対しレントは懐に入って一撃入れた方がいいと言っていた。

 しかしどうだろう。今のこいつはあの時とは逆のことを考えているようだ。外から見るのと自分がやるのではやはり違うらしい。


「ウィンド」


 俺は風魔法を自分の進行方向に掛け、スピードをアップする。そしてレントの懐に入り腹パンを1発。


「ぐっ。かはッかはッ」

「今のは風魔法……?……勝者リュークハルト!!」


 レントは咳き込み、アルギメインは魔法に驚いている。しかしもう俺の勝ちにしてしまった。


 お腹に重い一撃を受け座り込んでいるレントは驚きながら問いかける。


「魔法だと?他にどんな魔法が使えるんだ?」

「まだ身体強化と簡単な属性魔法程度だ」

「今後魔法のバリエーションを、増やすつもりか?」

「勿論俺は、魔法拳士まほうけんしになるからな」

「魔法剣士ぃ?そんなの半端なやつしか居ない。両方3流の奴らだ。どちらかを極めた方がいいに決まってる」

「そうですぞリュークハルト様。剣と魔法の1属性とかならまだ扱い、世界に名を轟かすような冒険者は確かに存在します。しかし、魔法全般に剣など、中途半端も、いいところです」

「あー、いや剣士じゃなくてこぶしの方な?あと、俺は槍と弓も覚える予定でいる」

「それこそ良くないですぞ!そんな中途半端な!それに剣よりも拳なんて!」

「実際、拳でこいつに勝っただろう?俺は戦闘に於いて、引き出しの多さは必要だと考えるが」

「確かにそれは、できるならば強くなるでしょう!しかし全体的に水準が低ければ器用貧乏になりますぞ!その剣の才能をドブに捨てるのは宜しくないかと!」

「剣を辞める訳じゃない、一応剣も習うさ。引き出しの多さは重要だしそれに、全体的に水準が高ければいいんだろ?」

「剣までも習うと言うのですか。それは傲慢ですな。ですが全てを高水準で扱えるとしても所詮は超器用貧乏ジェネリスト。スペシャリストには勝てません」

「いんや、高水準と言っても、あれだ。全てがスペシャリスト並の実力を持っていれば?それはもはや器用貧乏なんかじゃなく、器用富豪、いや超器用富豪なんじゃないか?」

「器用富豪…なかなか面白い考えですな!もしそのようなことが出来れば世界最強も夢ではありませんな!」

「お、おい待てよアニキ。ほんとに超器用富豪なんて目指すのか?俺と剣を高め合う方がお互いのためだ!」

「剣も勿論やるって言っただろ?俺は超器用富豪を目指す。」


 そう言って訓練場を後にする。


「アルギメイン、また明日来る。あと、レント。お前も明日からまた訓練しろよ。約束だからな」


 その日の夜俺は父親に呼び出された

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