第8話 訓練
あれから1年が経った。俺たちは3歳になって、ベルン兄様は帝立学園に行った。学園はみんな寮生活がするのがマストなので、毎日会えると言う訳ではなくなった。
あと、俺たち兄弟間での呼び方が変わった。
俺は今までどうりリュート、レオンハルトはレント、
とは言っても俺たちはまだまだ3歳児。遊びたい盛りなもんで、俺とレオンは武術の訓練。ライトとジークは城のお抱え職人に将棋を作らせて渡したら、ずーーっとやってる。
◇
訓練場。早朝。
そこにはリュート、レント。2人の目の前にはアルギメインが立っていた。
「いやぁ、殿下たちが武について興味があるのはわかっておりましたが、もう訓練をしたいのですか?」
「まあ。俺は王様になるつもりはないから冒険者にでもなろうかなって思ってて、そのためには戦うことを学ぶ必要があるかなって」
「オレは最強の剣士になるからできるだけ早くから訓練を積むんだ!」
俺とレントが意気込みを言う。
「もう目標、夢があるのはとてもいい事です。しかしリュークハルト様は皇帝にはならないので?」
「まあね。父上毎日忙しそうだし。やるとしても地方の貴族かな。でも、冒険者として好きに生きたいという思いが1番強い、です。」
「分かりました。では早速訓練を始めましょう」
そう言ってアルギメインが俺たちに最初に課したのは持久走だった。
「武器を使う上で大切なのは肉体ですッ!体が弱ければ武器に振り回されてしまうのでまずは体を鍛えましょう!」との事だ。
『確かに彼の言う通りですね。しかし持久走だけではなんにもなりません。足を鍛えるなら持久走だけでなく、短距離走もやった方がいいですよ。
まあアイが言いたいことも分かる。要は瞬発力を、つけろということだろう。戦闘において使うのは短い距離での移動だ。そのためにはスプリント回数をこなした方が合理的なのだろう。
しかしむやみに走りすぎて変な癖が着くのは避けたいところだ。必要な筋肉を意識して走ろう。
――数十分後
「はぁはぁ。すーーはーー」
「ふぅふぅ。すーーはーー」
俺とレントはアルギメインが良しと言うまで持久走をし続けた。その後俺は短い距離での走り込みをしていた。もちろんそこにレントも加わる訳で。
「アニキ、殺す気か!?」
「いやだって、強くなるためには必要な事だし、やっていて損は無い。あとレント、走る時は色々と意識した方がいいぞ」
「いやはや殿下達はストイックですなぁ。私が課したこと以上のことをするとは。今後も頑張ってほしいものですなぁ」
「なぁ、アルギメイン。オレに剣を握らせてくれ」
「おいレント、俺たちにはまだ早いだろ!」
「……まあ、1度だけなら。お2人で模擬戦をしてみましょう。どれだけセンスがあるかも把握しておきたいですしね。」
「まじですかアルギメインさん」
「ええ。危なくなったら私が止めますのでご安心を」
それならまあ、安心だが、レントの剣の才能S。対して俺の才能値はA+。2人とも剣は握ったことは無い。つまりど素人なわけだ。そんな中でやれば俺が負けるのは目に見えている。しょうがないとは思っていても負けたくはないしなぁ。アイ様は何か提案はありますか?
『……はぁ。ここぞとばかりに敬称など付けなくてもアドバイスは差し上げます。
「なんとしても勝つ」
『そうですよね……。
「なんで俺が武術を習っていた事をお前が知ってるかは知らないが、俺がならっていたのは徒手空拳だ。剣ではない」
『剣も体術も武術です。相手は剣を使ってきます。ここで徒手空拳にこだわっていては勝てませんよ。何せ相手は超天才ですので』
「はぁ、やるよ。やってやる」
それから訓練場の真ん中をアルギメインが兵士たちに空けさせ、広々とした空間ができた。その中に俺たちが剣を持ち、向かい合う形になる。
「なぁ、殿下たちって初めて剣を持つんだろ?なんか様になってね?」
「ああ、2人とも剣を習ったことがあるような構えだな。……天才と言うやつか」
そんな兵士たちのひそひそ話は俺達には届かず。
「両名準備はよろしいでしょうか?」
「ああ」
「おう!」
審判のアルギメインに俺とレントが返事をする。
「それでは、始め!」
◇
合図がかけられた瞬間辺りは静かになった。しかし両者は共に動かず警戒をしている様子。
「なあ、もう始まってるよな?」
「ああ、でも隙を探してるんじゃないか?初めてなのにやるな」
そんな会話が流れる。
瞬間レントが走り出す。
「緊張してきたァ」
俺は声を漏らすと剣を構え佇み、レントが迫るのを待った。
「たぁっ!やぁ!はっ!」
レントの剣は鋭い。避けるのだけで精一杯だ。しかし向こうもこっちも子供。さっきまで持久走をしてたんだ直ぐに体力は尽きる。剣を振っていれば尚更だ。
「っ!フッ!あぶな!」
なかなか反撃のチャンスが貰えないな。しかし足さばきはこちらに一日の長がある。基本を知ってるのと知らないのでは大違い。でもレントの足さばきがだんだんこちらに適応してきている。非常に危ない状況だ。
「クソっ!なんで当たらないんだ!」
そうだ。もっとイライラしろ。隙を見せろっ!
「これはっ…」
アルギメインは驚いていた。目の前の光景に。2人の戦いは予想外もいい所。レオンハルト様は初めてもは思えない程剣を扱っているしリュークハルト様は避けて避けて切る…というより剣を振る様なモーション。後手に回る戦法で戦っているのだ。初めて戦うのにこんなことできる子供がいるのに驚きを隠せない。
『なあ、アイ!この戦法きつくないか!?素直に打ち合う方が可能性が見える気がするんだが!』
『そんなことをすれば直ぐに勝負が終わりますよ。まあ、避けるのではなくて剣をいなしながら戦えればまた話しが違ったんですが、初めてでできるわけもありませんし……』
『そうか!てことは向こうの剣の力の方向を変えながら戦えばいいってことだよな』
『それが1発で出来れば苦労しません』
『おいおいレントには劣るが俺だって剣の才能くらいあるんだよ!』
周りの兵士、アルギメイン、レントでさえ驚きを隠せなかった。リュートを見ながら。彼は笑っていたのだ。この不利な状況で。それは見る者からすれば恐怖である。
「よっっと」
とりあえず後ろに飛びながら剣を横に払うことでレントから距離をとる事に成功する。仕切り直しだ。避けるんじゃなくていなしながら。
さぁ来い!
レントは焦っていた。さっきまで自分が優勢だったのに、距離をとられたあとの攻撃が通る気がしない。すべて軽くいなされるのだ。これにはアルギメインも唸るほど。
速く!もっと速く!レントはそう意志を乗せながら剣を振っていた。ただ我武者羅に。
リュートも焦っていた。剣をいなすことに成功して、反撃のチャンスを伺っているとレントが我武者羅に剣を振り始めた。最初は勝ちを確信したが、次第にその気持ちは無くなった。そう。剣の振りが速くなったのだ。恐ろしいくらいに。
「これは……入ったか」
そんなアルギメインのつぶやきは空気に溶けた。入った、とはゾーンに入ったと言うことだ。極限の集中状態。最初はレオンハルト様の方が優勢だった。しかし、リュークハルト様は何を思いついたのか、1度距離をとった。その後からだ。優劣が逆転した。しかしまた、レオンハルト様が優勢になりつつある。それは、そう、ゾーンに入ったからだ。
「ま、じか」
「勝者レオンハルト!!」
「くっそ!」
「え、あ、え?」
首に剣先を突き付けられリュートが驚きの声を零した瞬間勝敗が決した。リュートは悔しがり、レントは状況をよくわかっていない様子。
「御二方とも見事な模擬戦でした!よもや剣を持ったことの無い3歳児が、ここまで戦えるとは、驚きで言葉が出ませんっ!」
いや、出てるけどな。
「アルギメイン」
「はい、なんでしょう?」
「今回の俺の敗因は?」
「それはレオンハルト様が究極の極限集中状態、ゾーンに入ったことかと。現に、レオンハルト様は自分が何をどうしたのかわかって居られない様子ですし、試合中にも主導権が何回か入れ替わっていました」
「俺も
「おそらくは」
「まあ、負けてしまったものは仕方ない。して、アルギメインの感想を聞かせて欲しい。元々俺らの素質を測る模擬戦だったんですよね?」
「はい。御二方とも十分に素質があるかと思います。もはや教えることも無いようにすら感じます」
「そうか。しかし、また明日、稽古を頼む」
「仰せのままに」
思えばこのアルギメインの言葉がレントを変えたのかもしれない。
◇
その頃
帝国のどこか。少女はベッド上で起き上がった。
「んん」
少女はベッドで上半身を起き上がらせ、座った状態で自分の手を見て、広げては握ってを3回ほど繰り返す。
「また……。もう嫌だよ」
そんな少女の呟きは空気に溶けた。
◇
あとがき
これにて2章、成長編終了します。3章からは物語が動きます。
あと、ここから一日1回投稿します
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