失踪Ⅱ

 心配になった美穂は学校が終わるとすぐ、早足で詠美の部屋に向かった。詠美のお母さんの困惑した表情を尻目に、急いで二階に上がり詠美の部屋のドアに手をかける。冬特有の金属の冷たさで美穂の手から一瞬、力が抜ける。再び手に力を込め、扉を開ける。ゆっくりと扉が音を立てて開く。

 詠美の部屋は美穂の小さい時のイメージのまま、整頓されていた。

 しかし、机の上だけは違った。黒いメッシュの筆箱のチャックがめいいっぱい開かれ、周りには消しゴム、シャーペン、それから大量の消しカスが散らばっていた。

 ふと、筆箱の近くにある、『もの』に目を奪われた。それは、強く握られたのか茎の部分にややシワが寄り、爪跡が残る青色の花。その花の名前は確か、そう。

『勿忘草』

 詠美は花言葉が好きだった。小さい時によく花図鑑を二人で開け、目を輝かせていた。詠美の頭に、唐突にその思い出がフラッシュバックした。ふと我に返って机に近づくと『勿忘草』の下には、紙切れが敷かれていた。

 宛名はないけれど、『詠美』と結んでいるためどうやら手紙らしい。

 その手紙を発見した瞬間、目についた言葉があった。それは消しゴムで何度も消した跡があったから目についた、それだけのことだった。

『私を見つけて』

 詠美は幸せであったはずだった。少なくとも私からはそう見えていた。たくさんの人に囲まれ幸せでないはずがない。そう思っていた。手紙には続きがあった。

『この手紙を見つけた人へ。私を不必要に探さないでください。もし私を探そうと思ってくれる人がいたら、私を証明できる条件になれる人が探してください。』

 美穂はこの手紙を読み終えた時、詠美が『美穂』に「探して欲しい」と言っていると美穂の直感が知らせていた。

 加えて、気にかかることもある。

『勿忘草』の花言葉は『私を忘れないで』。これに隠された意味は一体何なのか。


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