新しい出会い

入学式から一夜明けた朝。

 詠美は、着慣れない制服を身につけて登校していた。型が付いておらず、不似合いな様子は、『新入生』という初々しい雰囲気を醸し出していた。入学式の会場だった講堂を足早に通り過ぎ、教室へと向かう。校舎前で挨拶運動を行なっている生徒会の人にも挨拶を返せるぐらい、余裕が生まれていた。新生活に知り合いがそばにいるだけで心の持ちようが全く違う。

 黒板に張り出された座席表を確認し、席へと向かう。教室には、早い時間であるからか、人影はまばらだ。

 「詠美、おはよう。相変わらず早く登校するのは変わらないね。」

 美穂が話しかけてきた。

 「あ、おはよう。そうだね。周りの会話を聞くのが好きだから。」

 幼稚園児がお弁当の時間に周りの雰囲気を楽しんで全く食べ進めないように、周りを見渡すことで満足感を得てしまうのが私。

 「詠美のそういうところ、変わってなくてよかった。」

 「3年しか経ってないよ?」

 「でも3年って長いよ?ほら、よく聞く高校デビューしてたらどうしようかと思って。」

 「高校デビュー?あの一昔前の。」

 美穂の『高校デビュー』という言葉でつっぱりが流行っていた時代を舞台とした映画を思い浮かべる。

 「違う違う、そういうイメージもあるけど、私が言いたいのは……。そう、一念発起して今までの自分を捨てることだよ。」美穂は自分の言葉に酔っているのか、目を輝かせて言った。

 「捨てる?新しい自分を見つけるんじゃなくて?」

 「うん。だって今までと違う自分になるということは今までの自分を捨てることでしょ?私は考えられない。」

 「ふーん。マイペースな美穂らしい。お互いやっぱり変わらないね。」

 二人は、小学生に戻ったように顔を寄せて笑い合う。


 三年間の空白を埋めるように、二人が話し込んでいると、

「みなさん、席についてください。ホームルームを始めます。」

 メガネをかけた細身の担任が声を張り上げて着席を促す。

「じゃあ、また後でね。」

「うん。」そう言って、詠美は美穂から離れた。

 新年度が始まる時は都合が良いからと、出席番号順で席が決められている。その所為で美穂とは一列挟む形となってしまっている。すぐに話しかけられないのは不便だ。担任の事務的な口調で述べられる伝達事項を忘れないように手帳にメモをとっていると、「めっちゃ退屈じゃない?え、メモ取ってるの偉すぎ。後で見せてよ。」と前の席の子から話しかけられた。見るからに、美穂とは違う雰囲気の子。これが詠美にとって大きな出来事になるとは、この時思ってもいなかった。

 

 

 

 


 

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