再会

 校門から数分歩くと、開けた場所に出た。広場の中央には大きな噴水があり、存在感を示している。物珍しさに、一周してみると、年季の入ったレンガに紛れて、透明な石で作られている部分に目を奪われた。パワースポットのような神秘的で淡い水色が光に反射して輝いている。噴水の中央では、レトロな雰囲気の背の高い時計台が存在感を示している。噴水広場の先にはまるで中世ヨーロッパのような建物が見える。講堂に続く道の両脇にはベンチやパラソルを備えたテーブルがある。昼休みには争奪戦になりそうだ。広場の周りには木々がたくさん植えられている。微かに鳥のさえずりが聞こえる。

 まだ式まで時間があるからか、講堂に続く道には人がいない。講堂は創立されてから一度も建て替えられていないらしく、夏の夜には何か得体の知れないものが出てきそうな雰囲気だ。この先を一人で行く勇気は詠美にはなく、引き返して噴水の近くのベンチに向かおうと百八十度振り返ると、

「もしかして詠美?」

 珍しい銀色の髪を肩まで伸ばしている小柄な女の子に話しかけられた。女子にしては少し低めの声にこの髪色。一度会っていたら忘れない。

 その子の目は、怯えている。落ち着かないのかメガネのフレームを気にしているふりをして不安そうにこちらの返答を待っている。

「美穂?」

 そう詠美が言うとその子は、

「人違いじゃないんだ。よかった。私のこと覚えてくれてたんだ。」

 先ほどとは違い、淡白にも聞こえる口調で応える。

「忘れてないよ。大切な幼馴染を忘れるわけがないでしょ?」

 その子は詠美の言葉を聞くと肩の力を抜いた。

 その子の名札には丁寧な、でも決して上手いとは言えない字で

『高等部一年 斉藤美穂さいとうみほ』と書かれている。彼女の名前は斉藤美穂。詠美の大切な幼馴染。詠美が引っ越すまで美穂とは家が隣同士だったため、小学生までよく遊んでいた。中学生になってからは詠美が親の都合で引っ越したので疎遠になっていた。同じ学校に来ていることは全く知らなかった。

 美穂に、

「ここに座ろう?」と道端のベンチを勧められる。

「うん。ありがとう。」

「元気にしてた?」

 久しぶりに会った人同士がする、当たり障りのない会話を始める。

 そうしているうちに人が集まってきた。

 すると、近くに設置された校内アナウンスが流れるスピーカーから機械の雑音がすると、「新入生の皆さんに連絡します。5分後にクラスを発表しますので講堂前に集まってください。」と生徒会長からの連絡が入った。

「じゃあ、行こうか。」

 詠美が美穂に声をかけ、歩き出す。


 既にクラス分けの紙が張り出されているらしく、講堂付近は人口密度が爆発的に上がっていた。

 人を押しのけて見にいく勇気は二人ともないので人がいなくなるのを待って、落ち着いて名前を探す。

 『一年A組 君野詠美……………………………………一年A組 斉藤美穂』

 詠美が美穂と自分の名前を見つけ、美穂を見ると、美穂もこちらを向いている。

 しばらく無言で見つめ合い、お互いに目で会話する。

 同じクラスである喜びを。


 二人は静かに興奮し、一緒に講堂へ入った。

 ながったらしい校長先生の話、新入生代表、在校生代表の挨拶、全て上の空だった。

 この時、詠美は美穂とこれからもずっと一緒にいると思っていた。


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