私の存在証明
月丘
プロローグ
薄寒い風が未だ吹く四月六日。
この桜並木を通り過ぎるとその舞台が見える。ところどころ塗装が剥げた煉瓦造りの校舎が詠美を迎える。校門の周りには新入生と在校生の生徒会の人たちが集まり、校舎の中が見通せない。詠美は真新しい縦長のリュックを前に持ち、事前に配られた名札を取り出す。プラスチック製のケースに自分の名前が書かれた紙が包まれている。
昨夜。筆先が震え、拙くなってしまった筆跡で書かれた自分の名前。
『高等部一年 君野詠美』
これから始まる高校生活に胸を躍らせ、名札を首にかける。
人の多さに戸惑っていると、
「新入生ですか?入学おめでとう!講堂で式が行われるので集まってくださいね。10時開始なのでそれまではゆっくりしてください。」生徒会役員と思われる腕章をつけた人に声をかけられた。
「あ、はい。あ、ありがとうございます。」咄嗟に出た声は裏返っていて自分の声とは思えなかった。
そんな詠美に生徒会役員の人は柔らかな微笑みを残して別の人に声をかけるために去っていった。
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