第9話 甘い魅力の『メープラの木』
私がこの世界に来てから一ヶ月ほどが経った。私は相変わらず、調査を続けている。
最近では、ミチェリの木の他にも、いくつか魔法植物たちの力になってあげることができた。
私は、そのことにとても嬉しさを感じていた。
「ふぅ……」
今日は、ナチュラさんと一緒に『オリジンの森』の調査に来ている。
『オリジンの森』は、この大陸の中心──つまり国境近くに位置している森だ。
ここには様々な魔法植物たちが生息している。その中には希少種と呼ばれる珍しい種類の植物たちも含まれているらしい。
私たちの目的である『メープラの木』も、この森の中にある。
「フタバちゃん、疲れたでしょう?休憩しましょうか!」
ナチュラさんが優しく声をかけてくれる。
「えぇ!そうですね!」
私たちは近くの木陰に移動すると、腰を下ろした。
「はい!フタバちゃん」
ナチュラさんが私にお茶の入ったコップを手渡してくれる。中には、温かい紅茶が入っていた。私はお礼を言うと、ゆっくりと口に含む。
「ん……美味しい」
「ふふっ……。良かった」
ナチュラさんが微笑む。
「……それにしても、すごい数の木ですね……」
私は改めて辺りを見回す。視界一面が
「でしょう?ここは貴重な魔法植物の宝庫だから!」
ナチュラさんは自慢するように言った。
確かに、これだけの数の木々が
私は期待に胸を膨らませる。
「さて、少し休んだことだし、調査を再開しましょ!」
「はいっ!」
私とナチュラさんは立ち上がり、再び歩き出した。
しばらく歩いていると、大きな木が見えた。
「あれが『メープラの木』よ!」
「わぁ……綺麗……」
私は思わず呟く。
『メープラの木』は、カエデの木によく似た見た目をしている。紅葉した葉の色は美しい赤色で、とても目を引く木だ。
「この木の樹液はとっても甘くて、パンケーキなんかにかけて食べると最高なのよね〜!」
ナチュラさんはうっとりとした表情で語る。
私も甘いものは好きだ。その味を想像して、思わずゴクリと
「……だから、ね?フタバちゃん……この木に樹液を採ってもいいか、お願いしてくれないかしら……?」
「えっ!?」
(まさか、そのために連れてこられたの……?)
ナチュラさんの方を向くと、彼女は
(うぅ……断りづらい……)
「……はい。わかりました……」
私は渋々答える。
「ありがとう!フタバちゃん!」
ナチュラさんはとても喜んでいるようだ。
(まあ、いいか……。私も気になってたし……)
私は気持ちを切り替えると、早速、メープラの木に近づいた。
(……近くで見ると、やっぱり大きいな……)
私は圧倒されつつも、声を張り上げる。
「あの!すみません!ちょっとよろしいですか?」
──《……あら?だぁれ?私に声をかけたのは……?》
「ひゃあっ……!」
突然聞こえてきた
《フフッ……驚かせちゃったかしら……?》
「い、いえ……。大丈夫です……」
(何だろう……?すごくドキドキする……)
私は戸惑いながらも返事をする。
《そう?それなら良かったわぁ……。それで、あなたは一体誰なのかしら……?》
「あ、えっと……。私はフタバといいます!よろしくお願いします!」
私は慌てて自己紹介をした。
《フタバちゃんね……?可愛い名前だわぁ……》
「は、はい……!どうも……」
私は照れて
《それで、私に何かご用……?》
「はい!あの、ちょっとだけ、樹液を分けて頂けませんか……?あ、嫌だったら全然構わないんですけど……」
私は恐る恐る尋ねる。
《そんなことないわ!もちろん良いわよぉ!好きなだけ持っていってちょうだい!》
「えっ!?本当ですか!?」
私は驚きの声を上げる。すると、メープラの木は枝を揺らして答えてくれた。
《もちろん!だって、こんなに可愛らしい子が、わざわざ訪ねてきてくれたのよ……?断る理由がないわ!》
「……ありがとうございます!」
《いいのいいの!その代わり、また遊びにきてねぇ!》
「はい……!」
私は満面の笑みで答えたのだった。
◆◆◆
それから、私はメープラの木から樹液を採らせてもらった。
ドリルで穴をあけるのは心苦しかったけれど、メープラは《ああっ……》とか《うぅん……》なんて艶っぽい声をあげるので、私はまたドキドキしてしまった……。
採取後、あけた穴には枝を刺し、ナチュラさんが固有魔法で接着してくれた。『
「これで、よし!フタバちゃん、聞いてくれる?」
「はい!メープラ、調子はどうですか……?」
《フフッ……大丈夫よ。ありがとうねぇ》
メープラは甘い声でお礼を言ってくれた。
「良かった……。それじゃあ、私たちは行きますね!」
《うん……。またねぇ……!》
「はい!お邪魔しました!」
私はお辞儀をして、その場を離れたのだった。
◆◆◆
「……フタバちゃん、今日は付き合ってもらっちゃってごめんなさいね……?」
帰り道、ナチュラさんが申し訳なさそうな顔で言う。
「いえいえ!むしろ楽しかったですよ!」
「本当……?それなら良かったけど……」
「はい!本当に気にしないでください!」
私は笑顔で言う。
「そっか……。それなら良かったわ!」
ナチュラさんはホッと息をつくと、嬉しそうに微笑んだ。
それから、しばらく私たちは森の中を歩いていたのだが、ふとナチュラさんが立ち止まった。
「どうかしたんですか……?ナチュラさん」
私は不思議に思い、質問する。
「えっと……。フタバちゃん、あそこに何か見えない……?」
「えっ……?」
ナチュラさんが指差した方に目を向けると、そこには確かに何かがあった。──いや、正確に言えば"誰か"が倒れているのが見えた。
「……!本当だ!」
私は急いで駆け寄ると、その人物を抱き起こす。
「……女の子……?しかも子どもみたい……」
「……そうみたいね」
ナチュラさんが同意する。
年齢は5歳くらいだろうか。髪は肩くらいの長さで切り
「どうしてこんなところに……?」
「わからないわ……。でも、こんなところにいたら危険だわ」
ナチュラさんが私の腕の中で眠っている少女を見て言う。
「じゃあ、早く安全な場所に連れ帰ってあげないと……」
「えぇ……。急ぎましょう」
「はいっ!」
私は力強く返事をすると、彼女を背負った。そして、そのまま走り出す。
(軽いな……)
私はそのことに少し驚く。
(この子の
私は疑問に思ったが、今は考えても仕方ないので、とりあえず森の外を目指すことにした。
……この少女との出会いが、私とこの世界の運命を大きく変えることになるとは、この時の私はまだ知る
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