第7話 ビリビリ痺れる『ゼレールの木』

 研究所に帰り、事の顛末てんまつを報告すると、ナチュラさんは驚いた様子だった。


「まさか……そこまでやってくれたなんて……。ありがとう、フタバちゃん」


「いえ、気にしないでください」


 私は恐縮して言う。すると、ナチュラさんはずいっと顔を近づけてきた。


「それにしても……。やっぱりあなたは研究のしがいがあるわ!」


「えぇっ!?」


 突然のことで戸惑ってしまったが、ナチュラさんは構わず続ける。


「だって、植物と会話ができるだけでも凄いのに、魔法植物の不調もすぐに治せるなんて!これは、とんでもない発見よ!」


 ナチュラさんは興奮気味に話す。


「いや、それほどでも……。それに、ナギンは良い子でしたから……」


 私は照れ隠しをしながら答えると、ナチュラさんは目を輝かせた。


「じゃあ、もっと色々研究させてちょうだい!……まずは、そのリュックの中身が知りたいわ!」


「それなら、いいですけど……。特に変わったものは入っていませんよ?」


 私はおずおずと答える。

 実際に、植物の病気を対処する道具くらいしか入っていないのだ。それも、元の世界では簡単に手に入れられるものだし……。


「いいのよ!あなたにとっては普通のものでも、私たちにとってみれば貴重なものなんだから!さあ、早く見せてちょうだい!!」


「わ、わかりましたよ……」


 ナチュラさんの勢いに押されて、私はリュックの中を見せることになった。



「凄いわ!このテープは、私も見た物ね。これは……栄養剤?どんな成分が含まれているのかしら……」


 ナチュラさんは、手に取る物全てに興味津々の様子だった。


(やっぱり、どこの世界でも研究者ってこういう感じなのかな……?)


 私は苦笑いしながらその様子を眺めていた。すると、彼女は私の視線に気がついたらしく、「あっ……」と言って手を止めた。


「……ごめんなさい。つい夢中になっちゃったみたい……」


「いえ、大丈夫ですよ」


 私は笑って返した。すると、ナチュラさんは何かを思いついたかのように、ポンと手を打った。


「そうだわ!これらを調べれば、私たちでも魔法植物の病気を治すことができるかもしれない!……フタバちゃん、お願い!私に、この道具たちを預けてもらえないかしら……?」


「えっ!?」


 私は驚いてしまった。自分が持っていたものが、この世界の魔法植物たちを救うきっかけになるかもしれない……?

 私は少し考えたが、すぐに了承することにした。


「はい、もちろん良いですよ。……それで植物たちが救えるなら、これほど嬉しいことはないですから!」


「……本当に助かるわ!」


 ナチュラさんは満面の笑みを浮かべた。


「……あっ、そうだわ!フタバちゃん、今日も魔法植物の調査をお願いしたいのだけど……いいかしら?」


 ナチュラさんは思い出したように言った。


「はい!もちろん!」


「ありがとう!……一人でも平気かしら?」


「はい、任せてください!」


 私は胸を張って答えた。……こうして、私は再び調査に向かうことに決まったのだった。



◆◆◆



「え~っと……この辺りだよね」


 私は、ナチュラさんからもらった地図を頼りに、森の中を歩いていた。

 今回は、以前行った場所とは別の場所に行くことになっている。なんでも、ナギンの他にも異常をきたしている魔法植物がいるらしい。


 その名前は『ゼレールの木』。ケヤキの木に似た見た目をしていて、電気系の魔力を持っているのが特徴だ。


(確か……雷を寄せ付ける、避雷針のような役割をしているんだよね)


 私は図鑑に書かれてあった内容を思い出す。

 ゼレールの木は、その性質から落雷の多い地域に多く生えていると言われているそうだ。


「確か……こっちの方角だったと思うけど……」


 私は周囲を見回した。すると、目の前に一本の木が現れた。


「あれかな……?」


 近づいてみようとしたが、私は異変に気づき、足を止めた。


 それは確かにゼレールの木なのだが、葉の部分が全体的に光を帯びている。

 よく見ると、それはパチパチと音を立てながら帯電していた。


 私はゼレールの木に声をかけようと口を開いたが、その瞬間、溜まっていた電気が地面に向かって放たれた。


(うわぁ、危なかった……。もう少し遅かったら、感電してたところだ……)


 私は冷や汗をかきながらも、ゆっくりと木に近づく。そして、話しかけた。


「こんにちは……って、聞こえてるかな……?……もしよかったら、あなたの悩みを教えてほしいんだけど……」


 しかし、返事はない。


「あの……もしもーし……」


──《ムキーーッ!なんかイライラするーー!!》


 私が再び呼び掛けると、ゼレールの木は急に叫び出した。

 葉に溜まった電気がバチバチと弾け飛ぶ。


「うわっ!?」


 私は慌てて飛び退いた。どうやら、かなり気が立っているようだ。


《……ん?なによアンタ!アタシは今、超絶機嫌が悪いのよ!話しかけるんじゃないわよ!》


 なんとなく予想はしていたが、思ったよりも荒っぽい性格をしているようだ。『カミナリ親父』ならぬ『カミナリ姉御あねご』といった感じである……。

 話している間も、絶えず放電を続けているので近寄ることもできない。


「え~と……。どうしてそんなに怒ってるの?」


《はぁっ!?知らないわよ!自分で考えなさいよ!》


 ……どうやら、こちらの話を聞くつもりもないらしい。

 私は困り果てて立ち尽くしてしまった。


(何か、原因があると思うんだけど……)


 図鑑で見た説明を思い浮かべ、原因を探る。


(ゼレールの木は、溜まった電気をどうしているんだっけ……)


 私は必死に考える。

 すると、あるページが頭に浮かんできた。


(そういえば……蓄電した電気は、地面に放電するって書いてあったような……)


 私はハッとした。ナチュラさんが、この辺りは最近落雷が多かったと言っていたのを思い出したからだ。

 もしかすると、電気が溜まるのが早すぎて、放電が間に合っていないのではないだろうか。


(それが原因だとしたら……何とかできるかも!)


 私は急いで辺りの地形を確認する。そして、一番良さそうな方法を考えた。


「……よし!これなら!」


 私は作戦を決めると、早速実行に移すことにした。



◆◆◆



《……で、一体何をするつもりなのよ?》


 ゼレールの木は、怪しむような声で聞いてきた。


「まぁ、見ててよ!」


 私は自信たっぷりに言うと、リュックからあるものを取り出した。それは、アース線……のようなものだ。

 この世界には電線というものが存在しないため、代用として使っているのだ。


 私はそれを木の周りに巻きつけていく。すると、ゼレールの木は困惑したような声をあげた。


《ちょ、ちょっと待ちなさい!何の真似よ!》


「いや、だから……。あなた、電気が溜まり過ぎていて辛いんでしょう?」


《そっ……そんなこと……》


 図星だったようで、ゼレールの木は言いよどむ。パチッ、パチッと辺りに静電気が走った。


「だからね……。溜め込んだ電気を逃がすために、こうやって……」


 私はアース線の先を地面に刺す。


「はい、これで大丈夫!電気が逃がしやすくなってるはずだから、放電してみて?」


《……本当に大丈夫なの?》


「うん!信じて!」


 私は笑顔で答える。すると、ゼレールの木は恐る恐る放電を始めた。徐々に葉に溜まっていた電気が抜けていくのが、私にも確認できた。


《……本当だ。少し楽になったみたいね……》


「それは良かった……。落ち着いた?……ゼレール」


《……まぁ、少しはマシになったわよ。……ねぇ、アンタの名前は?》


「私はフタバ。よろしくね」


 私は微笑みかけると、ゼレールは呟くように言った。


《フタバ……。うん、覚えた!アンタ、なかなかやるじゃない!》


「……えへへ」


 私は照れ笑いする。すると、突然バチバチッと大きな音が鳴り響いた。


「……わっ!びっくりした!」


 私は思わず声を上げる。音の発信源は、ゼレールからだった。


《アハハハ!驚いた?……ずっとイライラしてたんだけど……フタバのおかげでスッキリしたわ!ありがとね!》


「あはは……。どういたしまして……」


 こんな感じで、私はゼレールと仲良くなったのであった───。

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