第5話 不思議な魔法植物たち

《フタバさん、すみません……。ありがとうございました……》


「ううん、気にしないで!」


 私は微笑むと、ビネをじっと見つめる。


「それにしても、どうしてこんなことになっちゃったの……?」


 私は疑問を口にする。すると、ビネは困ったような声で言った。


《実は、私にもわからないのです……。ただ、突然魔力があふれてきてしまって……。気がついたら、こうなっていました……》


「そっか……。じゃあ、何か心当たりとかはないの?」


 私は尋ねるが、返ってきたのは沈黙だった。どうやら、何も思い当たることはないらしい。


《すみません……》


 ビネは、しょんぼりしたように枝葉を垂れさせる。


「いいよ、謝らないで!……じゃあ、これからどうしようか?」


 私は少し考えてから、ナチュラさんに相談することにした。


「……そうね。魔力が溢れる原因については、全くわからないけれど、とりあえずは様子を見るしかないわね」


 ナチュラさんは真剣に考えると、そう言ってくれた。


「そうですか……わかりました」


 私は素直に返事をする。


「……それにしても、すごいわ!フタバちゃん!」


 ナチュラさんは感嘆の声を上げる。

 私はキョトンとしてしまった。

 一体、何のことだろうか……? 私が首を傾げていると、ナチュラさんは嬉々として話し始めた。


「さっき、折れた枝を元通りにしていたじゃない!まるで魔法みたいだったわ!」


「そんな……。私はただ応急処置をしただけですよ」


 私は謙遜けんそんして言うが、ナチュラさんは目を輝かせながら話し続ける。


「魔法植物の暴走を止めるなんて、私には出来ないわ。フタバちゃんだからこそできたことなのよ」


「そんな大袈裟おおげさなものでは……」


「そんなことないわ。あなたは素晴らしい能力を持っているのよ」


「……そうでしょうか?」


「ええ、きっとそうよ」


 ナチュラさんは自信満々な様子だ。その様子に思わず笑ってしまう。

 ──と、ここでナチュラさんの目がキラリと光る。何かを思いついたようだった。

 彼女は私の方を見ると、ニッコリ笑って言った。


「ねぇ、フタバちゃん。あなた、魔法植物の調査に興味はない?」


「えっ……?」


 私は一瞬戸惑ったが、すぐに「あります!」と答えた。


「そうよね。だって、あんなに楽しそうに植物と会話していたものね」


「ええっ!?」


 私は恥ずかしくなってしまい、顔を赤らめる。


「ふふっ、照れなくてもいいのよ」


 ナチュラさんはクスッと笑うと、説明を始めた。


「私はね、この国の魔法植物のことなら、大体は知っているわ。……でも、実際に調査したり観察したりするには時間が足りなくてね。だから、誰かに手伝ってもらいたいと思っていたのだけど……。フタバちゃん、どうかしら?」


 ナチュラさんの提案は、とても魅力的だった。でも、私なんかで役に立てるんだろうか……?不安になってくる。


「私にできるでしょうか……?」


「もちろん、大丈夫よ。それにフタバちゃんなら、魔法植物の不調にも気づくことができるかもしれないしね」


「そう……ですね……」


 私はうつむいてつぶやく。

 正直、自信はない。でも、ナチュラさんが期待してくれているのも事実なのだ。……私も何か役に立ちたい。これでも植物医師の卵なんだから……!


「……やってみます!」


 私は顔を上げて、力強く宣言する。


「そうこなくちゃね!よろしく頼むわ!」


 ナチュラさんは満足そうに微笑んでいた。



◆◆◆



「じゃあ、まずはこの『ビネの木』について教えるわ。さっき見たからわかったと思うけど……。この木も、魔法植物なの」


 ナチュラさんはゆっくりと語り始める。


「ビネの木には、風の魔力が宿っていると言われているわ。風を操る力があるとされているの」


 私は説明を聞きながらビネの方を向く。すると、ビネは《見せましょうか?》と言わんばかりに枝葉を揺らした。

 私はコクリと小さくうなずくと、ビネは葉をサワサワと揺らし、風を起こし始めた。涼しげなそよ風が頬を撫でていく。


「あぁ~……気持ちいい~……」


 私はあまりの心地良さに、つい声を出してしまった。ナチュラさんはそれを聞いて、くすっと笑いをこぼす。


「ふふっ……。実際に見た方が早かったわね。ビネの木はこうやって風を起こすことで、森じゅうの空気の入れ換えをしたり、害敵から身を守ったりしてるの」


「そうなんですか……」


 私は感心しながら答える。確かに、風が吹くと、辺りが爽やかな香りに包まれるような気がした。


「この辺り一帯が、こんなに清々しい匂いがするのは、ビネのおかげだったんだ……」


 私はそう言いつつ、周りを見渡してみる。すると、先程までとは違う景色に見えた。


《喜んでくれて嬉しいです!》


 ビネは喜びを表現するように枝葉を動かし、風を吹かせる。すると、周りの草花たちも楽しそうに揺れた。


「ふふっ、そうかもね。……それじゃあ、他の魔法植物の説明をしたいから、一旦研究所に戻りましょうか」


「はい!」


 私は元気よく返事をして、ナチュラさんの後を追った。



◆◆◆



 家に戻り、私は早速説明を受けることになった。

 ナチュラさんは、本棚から分厚い図鑑を取り出してきた。それを机の上に置くと、「これがこの国にある全ての魔法植物が載ってる図鑑よ」と言って、ページをめくり始めた。


「うわぁ~!凄い……!」


 ページが変わる度に、私の目には新しい世界が飛び込んできた。色鮮やかな植物たちが目に飛び込んできて、自然とテンションが上がる。


「ふふっ……。気に入ってくれたようで良かったわ」


 ナチュラさんは嬉しそうに微笑むと、図鑑を閉じて私へ差し出してきた。


「これ、フタバちゃんに貸してあげるわ。調査するのに、知識はつけておいた方がいいでしょう?」


「えぇ!?そんな、悪いです!……それに、貴重なものなんじゃないですか?」


 私は慌てて断ろうとするが、ナチュラさんは「気にしないで!」と言い張る。


「これは元々私が持っていたものだから。……でも、フタバちゃんが持っていてくれたほうが、この本にとっても良いと思うの」


「……そうでしょうか?」


 私は戸惑いながらも、恐るおそる図鑑を受け取る。すると、ナチュラさんは嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、そうよ。……それから、他にも分からないことがあったら聞いてちょうだいね。いつでも教えてあげられるから」


「はい!」


 私は笑顔で答えた。

 こうして、私はしばらくの間、魔法植物に関する勉強をすることになったのだった。



◆◆◆



 私は部屋に戻ると、早速図鑑を開いた。(ちなみに、この部屋はナチュラさんが私のために用意してくれた)


「わぁ……やっぱり凄いなぁ……!」


 図鑑には、たくさんの種類の植物が載るだけでなく、それぞれの生態や特徴などが細かく記されていた。


「えっと……ビネは……。……あった!」


 私はビネのページを見つけ出すと、じっと見つめる。そこには、ビネの特徴や性質などが記されていて、私は夢中になって読み進めた。


 しばらく読んでわかったのは、この世界の植物は、私がいた世界の植物とよく似ている、ということだった。ブナの木に似ているビネのように、桜の木やチューリップに似ている魔法植物もある。

 また、中には電気を溜める種類や、炎の魔力を宿しているものもあった。


「魔法植物って、本当に不思議……」


 私は感嘆のため息をつく。


「もっと知りたい……。……よし!頑張ろう……!」


 私は気合いを入れて、次の項目へと進んだ。



◆◆◆



 一通り調べ終わる頃には、すっかり日が落ちていた。私は窓の外を見て驚く。


「うわっ、もうこんな時間……!」


 集中していたせいか、時間の経過に全く気付かなかったのだ。それでも、私は充実した気分でいた。


「さてと……、今日はここまでにしておこうかな」


 私は椅子から立ち上がると、大きく伸びをする。


「明日はどうしようかな?」


 私はベッドに腰掛けながら考える。

 魔法植物の勉強はまだまだ続きそうだし、どうしようか……。実際に見られたら、良いんだけどなぁ……。


「ナチュラさんに、頼んでみようかな……」


 私はポツリと呟く。そして、そのまま眠りについたのだった───。

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