第26話 桔梗26
「それは、誰のための復讐なのかな?」
「
「うん。
「いえ、そこまで詳しくは。五年前に殺害されたとだけ」
「その犯人に復讐するために潤也がやっていると」
「そうです」
そこで公主は長く息を吐いた。背もたれにぐっと身体をあずける。
「いささか大掛かりではないかな? 人ひとりを殺すのに」
犯人が一人かはわからない。いや、それよりも……。
「やはり殺すつもりなのでしょうか……」
逮捕して罪を償わせるという選択肢はないのだろうか。
「物騒な発言をしてしまって申し訳ないね。でも、それこそ殺すつもりでもなければ、こんな大掛かりなことはしないだろう?」
そうかもしれない。
でも、復讐とはそれくらいの熱量で行われるものではないだろうか。
「犯人は当初、警察官だと目されていましたが、結局捜査は有耶無耶になったと思われます。それなら警察に対して不信感がある」
罪を償わせるという選択肢は最初からないのか。
「夜道で背後から、では駄目だった?」
復讐の方法だろう。
「はい。おそらく、残り数人にまで絞り込めたのだと思います。けれど特定はできなかった」
その数人を一人ずつ襲撃しても良いが、最初の一人目が当たりでなければ、その後の成功率はぐっと下がる。
二人目を襲った時点で警察官を狙っていると知られるだろう。そうなれば警察は威信をかけて犯人逮捕に奔走する。それでは復讐どころではない。
複数で全員を一気に、というのが一番成功しやすいだろうか。
でも全員が殺しやすい状況にあるタイミングなんて、なかなかないだろう。警察官なのだから、仕事中は誰かしら一緒にいる。
それに自分で復讐を遂げたい、犯人に聞きたいことがある、といった場合には向かない方法だ。
「警察官だと第一報があったということは、目撃者がいたのか、それともそれとわかる痕跡があったのだろうと思います。
それなのに犯人についての情報は、その後出回らなくなった。
おそらく、事件後すぐに警察によって犯人は確保されていた」
「秘密裏に?」
「ええ。そうなると身内の我々でさえ、知ることは難しいです。
秘密裏に確保しなければならない相手といえば、重要な人物、警察幹部か、あとは特殊な能力を持っていて、おいそれと換えが効かないような人物」
鏡のような液体に飛び込むバックドアの姿を思い浮かべる。
「もしくは家族に警察幹部がいるような人物」
警察のお偉方の子息が罪を犯したが、父親の権力で揉み消された、というのはフィクションでよく見かけるモチーフではある。
どちらにしろ、被害者が吸血鬼であったため、殺人事件として捜査等されなかったのではないだろうか。
「そういった観点から容疑者を絞り込んでいったのだと考えられます」
「そして最後、犯人を特定するために、こんな騒ぎを起こした?」
「ええ、容疑者たちがここに集まるように」
さっきの榎木丸潤也の行動は、バックドアが犯人かどうかを確かめるためのものだ。
彼が動揺するのかを公主が見ていた。
違うと判断したため、榎木丸潤也は次の容疑者のもとへ去ったわけだ。
自分が殺した相手が目の前にいても、何の感情も湧いてこないような犯人だった場合、どうするつもりなのだろうか。
まあ、そんな人物なら、これまでに何人も殺しているだろうから特定しやすいか。
「武器を見つけさせたのも、迷子たちに立て篭もらせているのも、きみたち警察を、その中にいる犯人を、ここに集めるためだったというのかい?」
「そうです」
公主がにっこり笑った。
「すごい想像力だね探偵さん。小説家にでもなったほうが良い」
つられて私も笑ってしまう。
「私は警察官ですので……公主でもその言い回しを知ってらっしゃるんですね」
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