第25話 桔梗25
電話をしながらでも、突入したであろう音と悲鳴が聞こえてきた。
今にもここを出て行きそうな雰囲気だったので、待ってくれるよう手を上げた。
電話を切って三人に近づく。
「すまない。思ったよりも警察の突入が早まった」
突入と聞いて、
そこについて追求したいのだが、それは目下のところ私の仕事ではない。
「ここをもう出たほうが良い。きみたちのことは一応報告しているけれど、混乱してたら見分けはつかないと思う。見つかったら抵抗しないでとりあえず捕まって欲しい。あとで助けるから」
二人にそう言い聞かせ、それから森咲トオルのほうを見る。
「とくにきみは、暴れないでくれよ」
私の言葉に、森咲トオルは顔を傾けて目を細めた。
約束はしかねる、という意味だろうか。
「私はここにいないといけないから」
「大丈夫なんですか?」
「今回の突入は君たちには関係ないから大丈夫。たぶん」
実際、関係がないとは言えないのだが、あまり不安にさせても仕方ない。
人質とされている二人がここから出られれば、鎮圧までの時間も早まるだろう。
「裏口を開けておいたよ」
公主がそう言った。
この廃校は特定の入り口のみ出入りが可能なのだ。そこから警察が突入しているため、そちらからは外へ出られない。
裏口を開けておいた、というのは、別の出入り口を用意したということなのだろう。
私は決まったルートでしか入ったことがないので、窓から出ようとした場合どうなるのかわからない。
もしかしたら、そこから出入りしようと思いつくこともできないようになっているのかもしれない。
「気をつけて」
部屋を出る三人にそう声をかけると、森咲トオルから「そちらも」と返ってきた。
返事があると地味に嬉しい。
扉を閉める。
あとは無事にアザミさんらに保護されると良いのだが。
森咲トオルがいれば、多少荒っぽい手段でも廃校から出られるだろうが、そうなると後々面倒なことになる。そして、それを処理するために奔走するのは私だろう。穏便に済ませてほしい。
全員この部屋で救助を待つのが常識的な判断ではある。けれど、偶然ここを訪れていた冴島理玖と永廻恭子を人質にしている、との声明があったというのが、妙に引っかかるのだ。
公主を盗み見る。頬杖をついて目を閉じていた。
特に意味はないのかもしれない。
それでも、レールの上を走らされているような気持ちになったので、少し脇道にそれたかった。
「何を考えているんだい?」
目を閉じたままの公主に尋ねられる。
「ああ……いえ……いろいろと引っかかる点が……」
「きみは僕をここにとどまらせるように言われたのだろう? 応援がくるまでに時間がかかるかもしれないから、それについて話そうか。何に引っかかりを覚えているのかな?」
「そうですね……まず、昨夜ここで武器が見つかったこと」
公主は驚いたように少しだけ目を大きく開いた。
私も、自分がなぜここから話し始めるのかわからない。けれど、始めてしまったので続けることにする。
「今日廃校に立て篭もるために、事前に武器を持ち込んだのだと思うんですけど、なんでよりにもよってそんな日の前の晩に秘密のパーティーを開いたのでしょう?」
秘密のパーティーという言い回しを選択してしまって恥ずかしい。
公主は気にしていないようで、小首を傾げて先を促す。
「ここのセキュリティはしっかりしているし、パーティーには選ばれた人、仲間しか来ないとはいえ、誰も入れないほうが安全でしょう?」
現に潜入していた人物に武器を発見されている。
「でも、前夜に開催しなければ、吸血鬼化させた参加者たちを確保されてしまうのではないかな?」
たしかにもっと前に開催されていれば、我々は確保できていただろう。
「それなら別に今日でも良いでしょう? 朝になってみんな廃校から一旦外へ出たから、監視していた我々に参加者たちが迷子になっていると気付かれました」
「吸血鬼化は体力を消耗する。個人差はあるけれど。半日くらいはゆっくり休んだほうが良い。
校内で身体を休めても構わないが、これまでだったら夜に集まりがあっても朝には解散していた。それなのに、今回は朝になってもみんな外へ出てこなかったとしたら、きみたちはあやしむだろう?」
「それは、そうですね」
「監視している人数を考えると、今朝廃校から出てきた迷子たち全員を一度に追えたとは思えない。ここに残っているよりは、帰宅させたほうが確保されにくい」
「うーん」
「吸血鬼化している人間が多数見つかれば、それだけできみたちは動く。武器があっても、なくてもね」
公主は両手を上げて伸びをした。子供らしい仕草のように見える。
「引っかかりは取れたかな?」
「はい。まあ……」
あからさまに納得していないような返事をしてしまった。
公主はからからと笑う。
「つまりきみは、昨夜集まりがあったことにも、武器の用意があったことにも別の意味があると思っているんだね?」
「はい。それは、復讐のためではないかと」
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