第4話

 しばらく進んでいると、突然ロイジウスが足を止めた。

「どうしたの? シルべでもいた?」と話かけようとしてリアは思い留まった。

何と目の前の通路が途切れているのだ。

「あれ? もしかして行き止まり?」

「んなわけないだろ」とロイジウスはやおら床に腹這いになると、途切れて見える通路の下に向かって腕を伸ばした。

するとすぐに彼の手が何かに触れるパシン! という音が聞こえた。

「……最悪だ。ちょうどライトが切れてる箇所に限って梯子がある」

「はいっ⁉︎」

リアはロイジウスの頭越しに下を覗き込んだが、案の定何も見えなかった。

「ちょっとロイ、本当に梯子なんかあるの?」

「あるに決まってんだろう。でなきゃ、何でそこの手摺てすりが切れてんだよ」とロイジウスは指摘する。

「……にしても参ったな。俺はこのまま降りて行けるにしても、リアは無理だろうな。とすると、来た道を戻って外から1階層下にアプローチし直すか……」

「良い! 私も行くわ! あなたが降りれるんなら、同じ人間である私にもできないはずないわ!」


 数分後。真っ暗な梯子の段上でリアは啖呵たんかを切ったことを後悔していた。

実際、ライトの途切れたところに位置する梯子はちょうど影になっていて、ほの明るい通路に慣れた目では暗順応が追い付かず、まさに暗闇だった。

……ロイったら、何でこんなところをひょいひょいひょいひょい降りて行けるのよ〜……

 小惑星の鉱山育ちのせいか、ロイジウスは1G環境下では基本的にダルそうにしている。

しかし、「ライトスピード(微重力環境に調整された屋内で行うドロケイのようなスポーツ)」の競技室など1Gよりも重力負荷の軽い環境では、その大柄な身体付きに見合わない俊敏な動きをして見せることが多々あった。

 人類の生活空間に等しく、この軌道ステーション内は1Gに設定されているため、本来であれば彼にとっては「動きづらい空間」のはずだ。

とは言え、「苦もなく動き回れている」ということは、おそらくこの通路には、「彼の過ごしてきた鉱山を思わせる何か」があるのだろう。

「リア!」

 暗がりの下のほうからロイジウスの声が聞こえた。

「あと4、5段だから気を抜くな」

……あと4、5段って……。せめてあと2、3段になってから声かけなさいよね……

しかし、1段の幅が30cmくらいあるので、ここで落ちれば自分の身長ほどの高さから落ちることになる。

そこでリアは気を引き締めて、どうにか下まで降り切った。

「……着いたぁ〜」

「お疲れさん。しかし、よく降りたな?」

「それより下にも通路があって、灯りが点いてて良かった〜」

「あー、下に着いたからちょっと動いてみたら、灯りが点いた。やっぱり、センサーか何かあんのかもな」

と言うとロイジウスはツカツカと通路を歩み出す。

「だからロイ、ちょっと待ってって!」リアは慌ててロイジウスのあとを追いかけた。

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