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私の学校生活には色がない。
色気は勿論、色をなすような相手もいない。クラスメイトから向けられる色眼鏡がせいぜいだ。
夏休みに鳴きむしる蝉の声さえ押しのけて運動部の声が響く。社会科教室の扉をぴしゃりと閉めて、耳を塞ぐ代わりにする。
手早くジャージに着替え、昨日の続きに取りかかる。教室の中央に据えられた超大判の半紙は四割ほどが埋まっていた。
文化祭にはちょっとした臨書を展示することにした。何、よく職員室の前に飾ってあるようなビッシリ数百字のものじゃない。たかだが数十字……だけれど、こうして大きな半紙に向かうとなると字数だけでは語れぬ緊張感があった。一点一画に神経を集中。お手本を書きうつしていく。
書く。書く。書く。
書いて、書いて。
そうしている間に日が暮れる。
社会科教室と美術室が夕闇にぽうと灯る。
書く、書く、書きそんじる。
書くが道理。書きそんじるもまた道理。
そうしている間に日が暮れる。
夜に浮かぶ、社会科教室と美術室。ナツメさんの後ろ姿が窓の向こうに見えた。
書く書く書く。
書きそんじて、また書きはじめる。
そうしている間に日が暮れる。
早くなった日に、文化祭が近づくのを感じた。
書く、書く。トメ、ハネ、ハラウ。
モノクロの世界でひたすらに書く。
そうしている間に日が暮れる。
夏が終わる。無言のまま、ナツメさんと昇降口まで並んで歩いた。
早いもので、文化祭は明日に迫っていた。
何枚目かも忘れた臨書に向かう。
書く、書く、書いて。
「お疲れさん。どうだ」
入り口の方からかけられた声に顔を上げる。
開けはなたれた扉の向こうでは文化祭準備の足音がこだましていた。先生は『二年三組 フォーエバー』と書かれたTシャツ姿。すぐ後ろに引きつれているのは担任クラスの生徒だろう。三人組のオシャレな女子が脇腹をつつき合ってケラケラと笑っていた。
「はい。もう少しです」
「すごい量だな」
「はい」
「頑張ってたもんな。ラストスパートだぞ」
形ばかりの激励。先生は私の返事も待たずに扉の向こうに消える。『センセー大変そぉ』。扉の向こうから聞こえてきた声は、きっと私を笑っていた。
「……はい」
行き場のなくなった形ばかりの返事が空虚に響いた。
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