第12話 再生神

 ロランの部屋を後にした二人は、さらに宮殿の奥に向かう。


 そしてある部屋の前で立ち止まり、さっきと同じようにクレインが扉をノックする。


「はい」

「クレインと申します。少しお話よろしいでしょうか」

「入れ」

「失礼します」


 クレインが扉を開け、中に入る。


 その中には同様に男がいた。もちろん神である。


 再生神、アーネスト。それがその男だ。


「話とは? 手短に頼む」

「はい。世界の再生に向けた人材派遣をお願いしたいと思いまして……」


 クレインは単刀直入に用件を話した。


「再生? 確か君の世界は既に終わっているのでは?」

「今その話をつけてきたところだ」


 今度はアッシュがそう言う。


 アッシュとアーネストはロランと同じく同期で、アッシュにしてみればアーネストの方が仲が良かった。とは言っても、久しぶりに会ったのだが。


「アッシュ……久しぶりだな。勇者も引き連れてくるとは、君は本気なんだな」

「はい。本気です。世界が終わったって言うのは、そう言わされただけで……本当は、再生のために起こしたんです」

「アイツ……またか」


 アーネストはそう呟く。


「ロランは何回もこんなことを?」

「ああ。君……クレインのような理由でここに来る奴も結構いる。何度も言ってはいるんだが……」

「そうか……あの方にその事は?」

「いや。アイツだって、そうでもしないと仕事が無くなって解雇されちまうからな」

「それもわからなくは無いが……改善しなければならないし、策はありそうだ。それも含めて、あの方に報告した方がいい」

「そうだな」


 ロランだって、そういうことをしたくてやっているわけじゃない。それはわかっている。だからこそ何も言わなかったが、これ以上続くと酷いことになる。必ず早期改善が必要だった。


 アッシュは今までそんなこと知らなかったし、下の神たちにはわからない。これはアーネストにしかできないことだ。


「話が逸れてしまって申し訳ない。それで、再生の件だな」


 アーネストは急に話を戻す。


 彼の仕事は、祟りで崩壊した世界の中で、自力で再生ができない世界に限って、立て直すための人材を派遣することだ。


 世界が焼き尽くされた時、そこから復活するにあたって『勇気ある者たち』が人々をまとめ上げ、復興に向かった。という逸話がよくあるが、その『勇気ある者たち』を派遣するのがこのアーネストの仕事だ。


 彼の下には、アッシュの所に子供たちがいるように、どこかの世界から連れてきた人間たちがいる。その人間たちを派遣してほしいというのが、クレインが望むことだった。


 その人間たちも数えるほどしかいないし、死なせるわけにもいかない。だからクレインは、直接話をしに来たというわけだった。


 その分一人一人の技術力はとても高く、アーネストが動けば必ず再生できると言われている。もちろん、そんなことはないが。


「少し検討はさせてもらうが、せっかくアッシュも来てくれたし、前向きには考えさせてもらう」

「ありがとう、アーネスト」

「ああ」

「ありがとうございます……!」


 そして二人はアーネストの部屋を後にしようとする。


 だが、アーネストはアッシュを直前で呼び止めた。


「ん?」

「アッシュは、こっちに来る気は無いの?」

「いや……」

「アッシュがいないと、絶対にあれだけのことは抑えられない」

「俺はもう戦うつもりはない。……まあ、何かあったら呼べばいい。状況に応じて考えてやる」

「そっか……ありがとう」

「……うん」



  ◇  ◇  ◇



 宮殿を出た二人は、同時に安堵の息を漏らす。二人ともずっと気が張り詰めていたこともあって、どっと疲れが襲ってくる。


「今日はありがとう。まさか同期がいるなんて……何で言ってくれなかったんだ?」

「会うのは久しぶりだし、すごく仲がいいわけじゃないからさ。知り合いのコネ……みたいなのは無いと思ってた。でも、結果的にはよかった」

「ほんとに」


 アッシュは宮殿から離れるように歩き出す。クレインもその後を追う。


「同期ってことは、先輩ってことか……」

「そんなこと気にしなくていい。面倒くさいし、ついこの前こっちに来たわけじゃないだろ?」

「それもそうだけど……あそこに上り詰めるくらいのすごい先輩だったんだなーって」

「俺じゃないけどな」

「でも、仕事を選んだって。チャンスとしてはあったんだろ?」

「俺はそのチャンスを棒に振った。だったら意味はない」


 アッシュは話を打ち切るように歩くペースを速める。


「そういえば、『俺はもう戦うつもりはない』ってどういう意味? 昔はそういう役職だったの?」


 クレインがそう聞くと、アッシュの足はピタッと止まる。


「別に。もうずっと前のことだから」


 何かを思い出すように少し考えた後、アッシュはそう言って自分の館に続く裂け目に入って行った。


 クレインは何かあることはわかっていたが、少し踏み込みすぎたと反省し、同じように自分の館に戻った。

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