第5話 出会い

庭に出ると、バイオレットが言っていた通り、そこには大草原が広がっていた。


それからアリシアは、少年がいつも過ごしているという大きな木の下に案内された。


「僕はソラ。よろしくねー」


ソラはそう言ってにこっと笑った。


「わ、私は……アリシア」

「よろしくね、アリシア」


ソラがアリシアに向ける視線は暖かいもので、今までとは全然違っていた。


――そっか、そういうことだったんだ……


アリシアは、なぜ急に誰なのかわからない、明らかに村の人でもないアッシュに助けを求めたのか、なんとなくわかった気がした。それは、幼い頃の記憶ではない。要因の一つではあったが、大きな理由はまた別だった。


両親が死んでから、ずっと冷たい視線しか向けられて来なかったアリシアにとって、アッシュの視線は暖かく、自分を一人の人として受け入れてくれたような気がした。そして、村の人たちから自分を守ってくれた。そんなアッシュの当たり前とも言える優しさが、アリシアにとっては特別で、暖かいものだった。


あの記憶は、ただの口実。でも、嘘ではない。


――だったら、あれは何だったんだろう……あとで聞いてみよう。


アリシアはそう思って、今はソラとの時間を大事にしようと決めた。



「アリシアは、どうやってアッシュと出会ったの?」


ソラはアリシアにそう聞く。ここではそれが最初の質問として一番普通だった。


「お母さんもお父さんも病気で死んで、私だけ何も無くて、村にもその病気が流行って、でも、私だけ……それで、災いを呼ぶ子だって言われてた。でも、アッシュはそんな私に優しくしてくれた。神様だからっていうのもあると思うけど、私にとってはそれが唯一の光だった」


アリシアは、大草原の果てを見つめてそう話した。


「そっか……でも、どの世界にも行けないって、どういうこと?」

「それは……」


アリシアは話していいのか少し悩む。でも、少しくらいはいいかな、という気持ちが先立ち、アリシアは話そうと決めた。


「私、アッシュがやってる青鳥の日、あの世界から来たの」

「えっ……?」


ソラは驚いた様子だった。


「アリシアは、僕と同じように……」

「え?」

「ここにいる子たちのほとんどが、青鳥の日を待っている子なんだよ。アッシュが送り込む魂」

「え……」


アリシアは、アッシュから細かいことを聞かされていなかった。バイオレットからも、アッシュが保護した子供たちとしか聞かされておらず、まさかほとんどがそういう子供たちだとは思っていなかった。だが、少し冷静に考えてみれば、それ以外に考えられなかった。


「……そっか、私も、アッシュに助けられた誰かなんだ……」


アリシアは当然青鳥によって両親の元に運ばれて来た子供。つまり、アリシアはここに来たことがあった。別の誰かとして。


そこは少し説明されていたが、アリシアはそれを改めて感じた。


「話してくれてありがとう、アリシア。聞くだけじゃフェアじゃないから、僕のことも話すね」


ソラはそう言うが、アリシアは何も相槌を打たず、ソラはアリシアが聞いているのか不安になった。


「……ねえ、」

「ん?」

「フェアって、何?」

「え?」


一応聞いていたことに安心するが、ソラにとって当たり前に知っていることだったため、そんな質問が飛んでくるとは思っても見なかった。


「フェアって、平等ってこと。今は、アリシアだけが自分のことを話して、僕は何も言ってない。これは平等じゃないよねっていう……」

「なるほど……私の村って辺境にあって、しかも私の家は村の真ん中から離れなた場所にあったから、勉強とかそういうのとは無縁で……お母さんは王都で勉強してたから、少しは教えてもらってたけど、それからすぐに死んじゃったからさ」

「そうなんだ……」


ソラは、自分がこれから行く世界に少し不安を感じた。顔には出していないが。


だが、このソラという人格は消えて無くなってしまうのだから、どうなろうと関係ない。自分に何も害は及ばない。


ソラは自分にそう言い聞かせ、不安をかき消す。


「……あ、それで、僕の話だけど……」


ソラは気を取り直して、自分がアッシュと出会った時のことを話し始めた。

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