第4話 アッシュの住居

「じゃあ、ルークはカノンに手当てしてもらって」

「わかった」

「君は……とりあえず、説明を」


 バイオレットは怪我した青鳥――ルークと、アリシアにそう指示を出した。


 ルークはすぐにその空間を出ていき、静寂に包まれた中、バイオレットとアリシアは顔を見合わせた。


「助手の仕事の説明。主に青鳥たちの世話と、アッシュが連れてきた子供たちの世話。青鳥はそこまで手がかかることは無いけど……子供の方は繊細だから。困ったら私に相談すること」


 バイオレットは説明しながら空間を出て、建物の中を進んでいく。


「ここは、アッシュのためにできた家……っていうか、館? 城っていう人もいるけど……」


 アリシアは、とりあえずアッシュの住居という解釈をしておいた。


「ここにはアッシュだけじゃなくて、君の言う青鳥だったり、アッシュが保護してきた子供たちが暮らしている」


 バイオレットは話を切り替え、説明を続ける。


「でも……青鳥って、鳥じゃないんでしょ?」

「まあ……こっちではね。遥か昔に無くなった世界に住んでた妖精にやってもらってる。今はその時に生きてた子はいないけど」

「そうなの……?」

「うん。君の世界ができた時だからね。もう何百年」


 アリシアは自分の世界の歴史なんて知らないので、それがどれくらいなのか、全くわからなかった。


 そもそも、アリシアの世界で学問はごく一部の人にしか広まっておらず、バイオレットはアリシアが助手としてちゃんと仕事ができるのか心配になっていた。


「年に一度でも結構な重労働なんだよ。赤ん坊は自分と変わらないくらいの重さだし、それで世界中に飛んでいくんだから。ある程度仕事したら、交代してもらう感じになってる。今は四百人くらいいる」

「よ、四百人? それって、どれくらい?」

「見てみればわかるよ。挨拶しに行こう」

「うん」


 そして二人はまず、妖精たちの居住エリアに向かった。


 バイオレットが居住エリアに繋がる扉を開けると、そこにはもう一つ別の館があるような、広大な空間が広がっていた。


「ここが妖精たちが住む館。見えてるよりも実際はもっと広い。ここに大体四百人くらいがいる」

「ほう……」


 アリシアはそう呟いて館を見回す。


「バイオレット! ちょうどいいところにいた」


 その時、そう言って一人の少女がバイオレットに駆け寄っていく。


「カノン、どうかした?」

「包帯貰ってもいい? あんま使わないから無くなってて」

「わかった。じゃあ、向こうの医務室の鍵開けとく」


 バイオレットがそう言うと、カノンという妖精の少女は館を出て行った。そして、バイオレットは空中に何かを呼び起こす。すると、そこに半透明の画面が出てきて、バイオレットはその画面を操作してアッシュの住居スペースの方にある医務室のロックを解除した。


「四百人くらいいるって言ってたけど……それにしては人気が無い気が……」

「庭の方にいるんじゃないかな」

「そうなんだ」


 そこで扉が開き、カノンが館に戻ってくる。


「そういえば、その子は?」

「あ、新しい子。アッシュの助手になるんだって」


 バイオレットはカノンにそう説明する。


「へぇ……名前は?」

「え、あ、……名前は、アリシア。よろしく……お願いします」


 アリシアは少し戸惑った様子で自己紹介をする。


「よろしく。私はカノン。ここにいる中じゃ結構ベテランで、魔法は一番上手い」

「そうなんだ……」

「他のみんなにも伝えとくね、アリシアのこと」

「あ……うん」


 カノンはそう言うと、すぐに館の奥に行ってしまった。


「結構酷い怪我みたいだね、ルーク」

「そうなの?」

「うん。カノンの魔法で完全には治らなくて、包帯で固定しようってみたいだし」

「そう……だったんだ……」


 アリシアは、ルークを最初に見つけた時を思い出す。思い出したからと言って何かできるわけじゃないけど、かなり心配していた。


「じゃあ、次行こっか」

「うん」


 そして二人は妖精たちの館を出て、別の場所に向かう。


 少し廊下を進んでいくと、大きな扉が見えてきた。


 バイオレットがその扉を開け、二人は中に入った。


「ここがアッシュの保護した子供たちが暮らす建物」


 バイオレットがそう説明していると、何人かの子供たちが二人に近寄ってきた。


「新しい子?」


 一人の少年がバイオレットに質問した。


「新しい子っていうか……アッシュの助手になる子」

「助手……なんだ」


 その少年は、それを聞くと少し寂しい表情をした。


「私は……もう、行けないから。どの世界にも」


 アリシアは少年に軽く事情を話す。


「じゃあ、次は庭に案内する。庭っていうか、大草原って感じだけど」

「大草原……」


 アリシアはどんなものなのだろうと想像を膨らませる。


「じゃあ、一緒に行こ! 一緒に遊ぼうよ!」


 少年はアリシアに手を差し出し、そう言った。


「ねえ、いいでしょ? バイオレットぉー」


 決められずに困っているアリシアを見て、少年はバイオレットに許可を求める。


「……自由にしていいよ。説明は終わったから」

「やった。じゃあ、行こ!」


 アリシアは少年に手を引かれ、子供たちが住む館を通り抜け、奥にある庭という名の大草原に向かった。


 ――何も説明された気がしないんだけど……


 アリシアは内心そう思っていたが、ここまで自分と関わってくれる同年代の人間は初めてだったということもあって、嬉しさが勝っていた。

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