第11話
ちょっと待ってくれ!!!
俺の名前は
日本人の大学生、20歳。
ある日スマホを見ながら寝落ちしたら、俗に言う異世界へ迷い込んだ。
だって転生モノとかって、異世界行ったらチート能力持って、勇者とか聖女とかって崇められるよね?
俺なんか唯の記憶喪失の迷子って扱いですけど!?
しかも、何だか解らないけど言葉がバグって意味不明になるんですが!
意志の疎通が出来なくなるんですけど!
そんな転生者ってある?!
って事で、俺は異世界へ転生したんじゃなく、迷い込んだって思っている。
だから、きっと日本へ帰れるんじゃないかなぁって、淡い期待を抱いているのだが……。
そうそう、最近……って言ってもまだ
……そうだよ!
2日だよ!たったの!
なのに、突然喉元に剣を突き付けられるわ、キスされるわ――しかも2度もっ!!
盗賊に襲われるわ。
挙げ句の果に
その後に、合意した覚え無いのに結局的に処女奪われるわ!――それって強○って言いませんか?
朝、ベルゲさんが用意した服に着替えて……、あ、ベルゲさんっていうのはこの世界で俺を保護したレナードの家の家令さんなんだけど……。
でもってレナードっていうのが、確かフルネームをレナード・フォン・エンメリックってお貴族様で、騎士団の副団長っていうイケメン。
で、余計な情報を入れておくと、昨夜俺のことを最終的に強○してくれた男。
まあ、仕方ない処もあるよ。
媚薬なんてモノ盛られて発情した俺の身体を楽にしようとしてくれたんだろうし、人助けみたいなモンだと思うけど……。
でもさ、そう。
男なんだよ!
解ってると思うけど、俺も男だからね……。
ホント怖いわ
同性もOKの自由恋愛の国って……。
クスリ盛って襲ってきたのも男なら、盛られて発情した野郎を助けようと抱いてきたのも男って……。
でも、そこでなんとなく判った事がある。
まだ確信は持てないんだけど、俺の言語のバグって…もしかして……。
……もしかすると、…その……。
…エッ○……な事すると、な…お………。
いやいやいや!!
……って、
話が大分それた気がするんだけど……。
で、レナードが子供の時に使っていたという服(どう考えても俺には似合わなさそうなお坊ちゃん!って感じのブラウスにベストと共布で仕立てられた、乗馬服みたいなズボン)を借りて、連れて行かれた先が
何でも巷で出されている捜索願の中に、俺の名前がないかって調べるためらしい。
まあ、調べるまでも無いと思うけど……。
無いよな、確実に。
だって俺、この世界の人間じゃないし……。
屋敷から乗ってきた馬は、緊急時以外は門扉を入った左手の厩舎に繋ぐ決まりらしく、そこからは歩いてしか敷地内を移動できない。
とにかく俺は、産まれたての仔羊の様な足取りで(もちろん昨日の後遺症だ)何とかレナードの後を追っていた。
そんな俺に待っていたのは、無駄な装飾を省いた実用的な白壁の洋館。
その重厚な扉の奥にある広いロビーの正面にあったのは繊細な装飾を施された木製の手摺が特徴の、五人ほどは余裕で並んで歩けるような幅の階段だった。
いまこの状態で、この階段を上がれと?
「キツかったら抱いていってやろうか?」
「!!」
で、冒頭に戻る。
ちょっと待ってくれ!!!
今ここで、そんなコトするか?
ただでさえ昨日の痴態のせいで、俺はレナードの顔をまともに見られないってのにっ!!
「エンメリック副団長?
本日は朝からこちらですか?」
そんな俺達に声を掛けてきた人物がいた。
声のする方を振り返ってみると、そこには赤毛の髪を短く刈り上げた青年が、見覚えのある騎士服を身に纏って佇んでいた。
「…あれ?……君は……」
青年はレナードの傍らにいる俺に気が付いて近づいてくる。
「今日は調べ物だ、クリフ」
「…あ。…あぁ」
青年は俺の顔を見ながら納得した表情を浮かべた。
「そうだお前、時間があるならコイツにそこら辺を案内してやってくれ。色々と時間が掛かりそうなんでな……」
「…ちょっ、何でさ?!」
「階段を上がるのも、辛い様だしな」
ニヤリと笑われる。
ちょっと待て!今言う台詞か??
レナードはそのままスタスタと階段を上がって行ってしまう。
取り残された俺は、何ともいたたまれない気持ちのまま
◆
「なんか昨日と雰囲気違うな」
「?」
クリフさんは優しい瞳で俺に微笑んできた。
「何か可愛らしいポーチ下げてるし。ホント歳幾つなんだ、君は?」
ベルト部分に下げられている草色のポーチを指差し、クリフが訪ねてきた。
このポーチは、出かける前にレナードが部屋へ持ってきてくれたものだ。蓋になる部分と持ち手が革で作られ、落ちないようベルトに掛けられる工夫がされている。
もちろん中身は俺のスマホ。
そういえばレナードは、スマホについて何も聞いてこないよな。この世界には不釣り合なモノの筈なのに……。
「…あ、これ?レナードがくれた。で、俺の年齢は二十歳」
言った途端、クリフさんの目が点になった。
あれ?何で??
「……二十歳?俺より年上だったのか?!
…で、何?
君は副団長の事、ファーストネームで呼んでるの?」
「え?だってレナードがそう呼べって……」
クリフさんは2・3度目を瞬かせたかと思うと、暫くそのまま固まってしまった。
今俺たちがいるのは、中庭にほど近い木陰のベンチだ。
ここからは中庭で挟まれた本庁舎と西庁舎、訓練場が見渡せる。
本庁舎と西庁舎の間は渡り廊下で繋がっており、雨の日でも濡れずに移動できるらしい。
クリフさんは渡しそびれてたって感じで、小袋に入った焼き菓子を俺に手渡すと、ベンチの隣に座り込んで、俺の姿をまじまじと上から下まで眺めてきた。
「うん、やっぱり今日の姿の方が良い!」
ニカッと歯を見せて笑う。
「その服、君に良く似合ってる。昨日なんか顔色も真っ青で、肌着しか身に着けていなかったろ?余程の事があったんじゃないかと、別れた後でも皆で心配していたんだ……」
「は……肌着?」
いや、アレは立派な服ですけど……。
「……君にとっては…、思い出したくない事かも知れないが。……その、…誰かに襲われて……棄てられたんじゃ……ないのか?」
「…………」
いやいや、無いです。――まあ、確かにその後襲われたけどね……。
「いや、話したくなかったら、言わなくても良いんだ。ただ……、世の中そんな奴等ばかりじゃない。本気で君の事を心配するヤツらも居るって事、知ってもらいたくってさ。……特に副団長なんかは……」
ええ、心配して頂けるのはありがたいです。
――でもね……。その
「副団長、……あれでも幼い頃から御苦労なさっていらっしゃるんだ。……本当だったら、第四騎士団なんかじゃなく……」
そこでクリフの言葉は途切れた。
突然に渡り廊下を睨みつけたんだ。
俺も視線を感じた。
目を向けると、そこには五・六人の真っ黒なローブを身に着けた男達が歩いていた。
先頭にいる男は紫に金の刺繍で縁取られたマントを肩に掛けている。
視線を感じたのはその男からのようだった。長めの銀髪を項あたりで纏めている男は立ち止まって、間違いなく俺達の方を見ていた。
「……誰?…あれ……」
「教会の…神殿長ですよ……」
クリフは苦々しく答えた。
この国では、王族をはじめ全ての国民が教会の信徒であり、毎月の祭祀に祈りを捧げるという。
教会は神話の存在を信じて、政が正しくあるよう日々神に祈り、国民に王家に忠誠を誓うよう促している。
しかし、水面下で王家と教会は静かな覇権争いをしているのだと、クリフはその後に教えてくれた。
何か物騒な話だな……
でも、
「教会って俺、行くこと……ある?」
俺には関係無い事だけれど、その話を聞いた途端、何故だが気になって仕方がなくなった。
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