第5話
頭を撫でられる感触に、ふと我に返った。
もう一度頭を撫でられる。
さっきまでの喧騒が、嘘のように静かだった……。
「#■✕◁@……」
握り締めていた指先に、そっと温かいものが触れる。レナードは俺の強張った指先を解すように優しく手を撫でて、その手を開くよう促した。
やっとの思いで、俺は顔を上げることができた。レナードの瞳が飛び込んでくる。
終わった……?
言葉は通じなくても、解ってくれたようだった。
レナードはコクリと小さく頷くと、俺を静かに抱き寄せた。
「#■✕◁@&☆……」
相も変らず雑音のようにしか聞こえないけれど、労ってくれているのだろう事は、俺
にも理解できる。
目が覚めてから今までの怒涛の展開に、きっと『刷り込み』や『吊り橋効果』が発揮されたとしか思えない。
いつしか俺はこいつの側が一番安心できるんじゃないかって、考えるようになっていた。
「……絆されるなよ、俺……」
――だけど――
……ん?
真剣に考えるってコト、俺は長く続けられないんだろうか?
――たぶん。
俺の肩にまわされたレナードの腕にふと目線を向けると、白いシャツが血で滲んでいた。袖口に近い部分の生地が綺麗に裂けているところを見ると先程の乱闘中に切られていたようだ。
腕にうっすらと刻まれた赤い筋が切り口から覗く。
うわぁ、切られちゃってるよ。
痛くない?ねぇ、痛いよね、これ?
気になりだしたらどうしようもなくて……。
じっと傷口を凝視してしまった。
これ、手当しないとダメなやつだよね?
だけど、俺。何も持ってないよ?
消毒とか、絆創膏とか……。
あ、その前に洗わなきゃだめ?
……水ってどこにあるんだっけ……。
水筒?あった?無いよな……。
この場合……。どうするんだっけ?
――ペロッ。
口の中に、鉄くさい味が拡がった。
正直に言う。
間違いなく俺はこの時、プチパニックを起こしていたと思う……。
「っ!――何やっているんだ?!お前っ!」
「……何って。怪我してるから舐めただけだろ?」
俺、何かおかしなコトした?
「……たっ、確かにこの程度の傷、舐めときゃ治る。俺が言いたいのは……、
――何故お前が、そんな事をする!」
思い切り腕をふり払われた。
「そこまで嫌がることないだろ⁉
折角ひとが好意でやってやってるのに!」
「……行為、でって……」
絶句された途端、盛大な溜め息をつかれた。
え?何?
俺、変なこと言った?……ってか、なに耳赤くしてんの?
「……どうしてお前は、そうやって煽るような事を……」
「誰も喧嘩なんか売ってないって!」
「…………」
「…………」
なに、何?急に黙っちゃったよ?
「お前……」
レナードは俺の顔を凝視してきた。
怖いんですけど!
「言っている事、解るのか?」
「あ……」
そういえば……。
俺、普通に喋ってる。
指摘されて初めて気が付いた……。
さっきまでの雑音にしか思えなかった言葉が聴き取れる。
どうして?
「頭でも打った後遺症か?」
「知らないよ、そんな事……」
「まあ、いい」
「そんな事より」と、レナードは言葉を続けた。
「また厄介な奴らが出てきても困る。少し急ぐぞ」
言うなり馬の手綱を引くと、辺りには軽やかな蹄の音が響き渡った。
リズミカルな揺れに身を預けながら聞いたレナードの話では、先程のような連中は金品の強盗だけで無く人さらいもするという物騒なものだった。
「男の俺達なんか拐って何の意味があるんだ?」
意味が解らなくて聞いてみた。
「男だろうが女だろうが、対象として関係ないだろう?特にお前みたいなヤツは……」
「?」
俺がなんだって?
俺みたいなモヤシ拐ったって、何の価値もないぞ?
「……お前だって……」
「??」
「
ええぇぇぇっっっ―――!!!
誰が、何だって??
「ちがっ……、俺は気が付いたら彼処にいて!
……なんだ……(アンタ達は)知らない場所から、ここに来て……」
だよね!日本知らないよね!
俺だってどうやって来たかなんか意味解んなくて説明できないけど……。
全力で、夢だったら良いなぁ〜。って思ってるけど!
そんな俺の言葉に、レナードは何かを納得したような顔を向けてきた。
「……まさかとは思うが、お前が前に居たというところは、同性同士の恋愛は禁止されている?」
「禁止……とまではいかないけど、かなり近い感じは、ある」
間違ってないよね?たぶん……。
ん?
なに?
この世界。同性異性関係ナシにそういう対象ってこと?
俺、さっきの兄ちゃん達にもそういう対象で見られてったってコト?
はあぁぁぁ?????
やっぱり俺この世界……。
頼むから……。
夢なら速攻で覚めてくれっっっ!!!
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