第19話 スタートライン

 目が覚めるともう家の近くで、なんとなく覚えている風景が車窓を彩っていた。

まだ数回しか通ってない新しい帰り道、だんだんと見慣れてきた光景はまだ、新鮮さを保っている。

春に近づくにつれて長くなった陽も、もうすぐ顔を潜め始めている。

ふと、横を見ると総一郎さんは静かに寝息を立てていた。

起こすのもなんだか悪い気がするし、そっとしておこう。


 徐々に速度を落とした車はゆっくりと庭に入っていく。

執事の日下部くさかべさんがドアを開ける。

「旦那様、着きましたよ。」

声を掛けて肩を揺らす。

「ん…あ、あぁ…ありがとう。」

総一郎さんは降りて家に向かって行く。

「すみません、お待たせしました。」

「いえ、大丈夫ですよ。」

「車を停めてくるので先に中に入っていて下さい」

「わかりました、ありがとうございます」


私の身長の倍はあるだろうか、 大きい玄関扉を開けると見慣れた玄関ホールが出てくる。

『おかえりなさいませ』

本来なら私も参加する側のお出迎えも今日は受ける側でなんだかまだ慣れない。

「ただいま戻りました」

そう言ってお辞儀をした私に真っ先に美紀さんが駆け寄ってくる。

「可愛い!似合ってる!」

制服を合わせた後、実際に使う方が用意されており、そのままそれを着て帰ったのだが思わぬ好印象で少し驚いた。

「やっぱり桜花の制服はオシャレでカッコよくて、可愛くて良いよね!私も桜花に通ってみたかったなー」

私を見てからの美紀さんのテンションは鰻登りで、他のハウスの方々と制服談議をしている。

そんな話をしていると祥太郎さんが帰ってきた。

一緒に出迎えると、私と目を合わせてから

「桜花の制服か、ついこの前まで着ていたはずなのになんだか懐かしい気持ちになるね。とっても似合ってるよ」

そう言った。

やっぱり、祥太郎さんに褒められるとなんだか無性にむず痒い…

心臓も心なしか早いような気がする。

それと同時に、段々とこの人は本当に私のことが好きなんだろう…そう感じる。



 夕食を終えてから部屋でゆっくりくつろぐ。

おニューの制服をきちんと整えてクローゼットにしまい、部屋着に着替える。

ちなみに自分のはまだないので美紀さんのお下がりです。

着替え終わったタイミングで美紀さんから声が掛かった。

「麻琴ちゃん、一緒にお風呂行こうよ」

「そうですね、行きましょうか」


 脱衣所で服を脱いでいると美紀さんからの視線を感じる。

「麻琴ちゃんって結構おっぱいおっきいよね、普段着痩せして見えるからわからないけど。」

「そ、そうですか…?」

「そうそう!って言うかそれブラのサイズ合ってるの?」

「え…確かにちょっとキツめかなと思いますけど…」

「いやいや、全然合ってないんじゃない?」

特に気にしてなかった。

キツイなとか動きづらいなとは感じていたが、もしかしてそれが原因…?

「よし!お姉さんが明日一緒に会に連れてってあげよう!せっかくいいもの持ってるんだから大切にしなきゃダメだよ。自分の体の事なんだし!」

そう言って美紀さんからの誘いを受けて明日出かけることになった。



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