第8話 冷たい体に温かい毛布を
総一朗氏の希望でお三方で話し合うことになり、私はまた応接室で待機していた。
私の涙も落ち着きを取り戻した。
先程耳元で囁かれた彼の言葉が頭の中でループする。
ループするたび自分の中でフィルターが掛かり甘美に聞こえてくる。
次第に体温が上がっていくのがわかる。
どうやら私は自分でも知らない内に内面も女になってしまったのだろうか?
そう思いつつも、彼との生活を妄想してしまう。
毎日あの耳障りのいい声のトーンで甘い言葉を掛けてもらう。実に麻薬的だ。
そんなことを考えているうちに、結論が出たのかまた、食堂に呼ばれた。
「すみません、先程は取り乱して。」
「いや、気にしないでくれ。それよりも相川さん、正式に祥太郎との婚姻をお願いしたいのだが、いいだろうか。」
総一朗氏がそう言った。
「えぇっと…私的には大丈夫なのですが、そちらとしては問題はないのでしょうか?」
私の想像的にこれだけ大きい家だと政略結婚だとか、お見合いだとか、家柄そのものを取り巻く環境がさすがに心配になった。
「細かいことを言えば問題がないとは言えないが、あれだけ熱烈な息子の姿は見たことが無かったからね。ここで反対することも出来たが、些か可哀想じゃないか」
「嘘おっしゃい、貴方率先して『麻琴さんを迎え入れよう』って言っていたじゃない!」
美津子さんが総一朗さんの肩を
どうやら総一朗氏は見た目に反して人情に厚い人のようだ。まとう雰囲気的にもっと冷徹なのかと思っていた。
彼と、彼の両親と食卓を囲む。
ミートソースの掛かったパスタとマルゲリータ。一般的に親しまれているイタリア料理だ、どちらもとても美味しい。
内心、テーブルマナーの一般的な事しか知らないので焦った。
食事を楽しみながらこれからの事を話す。
私は現状、戸籍が現状ないので出来るまではメイドとして置いてもらえることになった。
この家に慣れるためにも好条件だと思ったので了承した。
今まで通り高校にも通わせてくれるらしい。そして、具体的な結婚の時期は私が高校を卒業した後になった。
食事が済むと寝室に案内された。
ひとまず今夜は客人用の部屋を使うそうだ。
明日からは使用人用の宿舎の方で生活をすることになるそうだ。
使用人用の宿舎が敷地にある時点でこの家の大きさを実感する。
とりあえず、今夜私はこのクイーンサイズのふかふかのベッドを堪能することにした。
仰向けになって天上を見る。
大変な事になってしまった。
あの天下の佐久間グループの次期社長に嫁入りすることになるとは…。
気がついたら外堀埋まっていたし、断る理由も無いし…。
実際、これが吉と出るか凶と出るかなんてわからない。
なにせ私ばかりにメリットが多すぎる。
だけど、こんなにも温かい気持ちになったのは久しぶりだった。家族が壊れてから心の何処かで飢餓感を覚えていた。
今日、祥太郎さんと出会って、自分の中でそれが満たされる感じがした。
彼の事が好きかどうかはまだ、分からないが、もっと知りたい、そう思えた。
そう思える惹かれる要素があった。
そんなことを考えながら眠りに着いた。
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