第6話 And happiness sets in.
彼に手を引かれ教会を出るといかにも高級そうな車が停まっていた。
私達に気が付いたのだろうか?
運転席から20代くらいの男の人が出てきて後部座席のドアを開けて待っている。
彼はその男の人に「ありがとう」とお礼を言って私を席へと促す。
彼も私の隣に座る。
「進藤、出してくれ。それと、帰ったら彼女の引き取りの手続きを頼む。」
「かしこまりました。」
二人の間でやり取りが交わされ車が出発する。
静かな車内。
相当いい車なのだろう、革張りのシートはふかふかで、走行音は静かで振動も殆ど無い。
体験したことのない感覚に困惑していると彼がこちらを見て声を掛けてきた。
「すまない、名乗るのが遅くなってしまったね。僕は佐久間祥太郎。よろしくね、麻琴さん」
「あ、はい。よろしくおねがいします。相川麻琴です…多分。」
「?多分ってどうゆう?」
「えっと…私、戸籍上では死んだことになってて…なので、孤児院的には手続きしなくていいかと…」
「あぁ、そうゆうことか。進藤、彼女の新しい戸籍を頼む。」
「かしこまりました。」
運転をしている進藤はルームミラーでこちらを見てそう言った。
戸籍ってそんなに簡単に作れただろうか…。それに、佐久間って何処かで聞いたような気がする。
「君の想像通り、僕は佐久間グループの人間だよ。」
私の心を読んだかのように隣に座る彼はそう言った。
佐久間グループ。
今やこの日本では見ない日と知らない人は居ない大企業。
日本のみならず海外にまで進出していて、確か色々手広くやっていたイメージがある。
その関係者がなぜ私に?
そんな単純な疑問が浮かぶ。
「なんで私に?そんな顔をしてるね」
不意に耳元で囁かれて、ドキっとした。
「今は、信じてもらえるかわからないけど、ただ単純に僕は君の事が好きなんだよ」
彼は真っ直ぐこちらを見てそう言った。私の両膝におかれていた右手に彼は右手を重ねていた。
「大丈夫。家に帰ったら全部説明するよ」
そう言って彼は私から目を離し窓の外を見る。
街は夕闇に飲まれつつあった。
車に揺られる事一時間位経ったのだろうか?
広い庭付きの邸宅へと着いた。
玄関…というよりホテルのエントランスホールに近いそんな玄関では本物のメイドさん達が彼を出迎える。
『おかえりなさいませ。祥太郎様。』
一糸乱れぬお辞儀と挨拶に感動すら覚える。
いかにも地位が高そうなメイドさんが彼のカバンを持つ。
「彼女は麻琴さん。今日からここで世話を見ることにした。色々教えてやってほしい。詳しい話は明日するから今日はひとまず、彼女の部屋を用意してくれ。」
「かしこまりました、そのように」
そう言って彼は屋敷の中を進んでいく。
絢爛豪華。
その一言で表せるぐらいのこの空間は、白を基調とし、シャンデリアや、ウォールランプ等の暖色系の電飾で彩られている。
華やかな内装に目を奪われつつ、手招きをしている彼に付いていく。
応接室だろうか、豪華な部屋に案内された。
「今、麻琴さんの今日の部屋と着替えを用意しているから暫くこの応接室で待っててほしい。もう少しで夕食の時間だからその時、両親も紹介しょう。
とりあえず、今日の所は僕の客人って事にしているから、安心して過ごしてほしい。
まぁ、この家に君に危害を加えようと考える人間なんて居やしないのだろうけど…。
ひとまず、着替えが届くまでの間、簡単に僕の自己紹介から始めようか。」
そう言って彼ははにかんだ。
さっきまで教会といい、車内といい薄暗くてよく顔を見ていなかったが、いざこうして明るいところで見るとなかなかイケメンである。
落ち着いた、春のそよ風の様な優しい声で彼は自己紹介を始めた。
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