エピローグ 10月30日
男の手を掴み、そしてそのまま燃やした。灰も残らぬ程に。
目的を達成したというのに、まるで胸に穴が空いたような虚無感だけが残った。
それは大切な人を失ったためか、敵の最期がアッサリだったことか、それとも……
いずれにせよ、次の目的は決まった。
意識のない水津巴を抱き、被害者全員を連れてこの施設を後にした。
この事が世間に公になることは決してない。
俺が被害者全員に口止めしたこともあるが、話したところでまともに耳を傾ける奴はそう多くはないだろう。
それに、事件が公になって研究棟が使えなくなるのはかなりの痛手だ。
水津巴を救うのに、さらに時間が掛かってしまう。
事件を起こした後、彼女を救う手立てを調べ、考えながら学校にも行き卒業と同時にさらに調べるために、世界を飛び回り、約二年後ようやく救う手掛かりを見つけることができた。
さらに調べていくに連れて、治す薬があることが判明した。
その後紆余曲折あり、何とか薬を手に入れることができたため、手に入れてすぐ帰郷することになった。
結局、帰郷することができたのは、事件を起こして約三年後だった。
彼女の身体は男を殺してすぐ研究棟にあった、コールドスリープ装置を使い、今でも保存してある。
正直、コールドスリープというのは今でもあまり信用をすることができていない。
そのくらい仮死状態の人間というのは扱いに細心の注意を払わなければならない。
そして今日、今までの苦労もやっと報われるのだ。俺にとってはそれが嬉しくて堪らなかった。だがもし、水津巴が目覚めても俺のことを認識することができなかったと思うと言い知れない程の恐怖を感じる。
しかし、彼女を救う為にここまでやったのだ。こんなとこでぐずっていては呆れられてしまう。
それにしても、今宵は月が綺麗だ。青く輝き、見る者全てを魅了する力がある。
「まるで、月が発する能力だな」
そういえば、彼女と出会ったのもこんな満月だったっけ。色は全く別の蒼色だけど。
あの時はたしか、赤い月を撮ろうとして彼女が唐突に現れて、その後一緒に暮らすようになって……楽しい毎日を送って……彼女が死んで……そして、今日生き返る。
……いや、生まれ変わるのか。
そんなことを考えていると、目が潤んで前が見えなくなってしまった。
だがすぐに目に溜まった涙を拭う。
涙を流すのはまだ早い、それは彼女が起きてからすることだ。
彼女を装置から出し、背負いながら息が乱れるほど全力で走り、あの出会った公園に連れて行き、芝生の上に横たわらせる。
そして息を整えた俺は、薬の入った注射器を取り出し中の薬を彼女に注入した。
暫くすると彼女は、ゆっくりと目を開くのだった。
ボクが光に包まれ、目を開くとそこには涙を流しながら喜ぶ茲炉と、そんなボクたちを見守っている様な青く輝く月が写った。
それと同時に世界はあまりにも美しいと思った。だってこんなにも世界がキラキラと輝いて見えるのだから。
そして、ボクを真っ暗な世界からも、灰色に染まった世界からも救い出してくれた彼に感謝を伝えたかった。この恩はきっと一生を賭けても足りないだろう。
だから伝えるのだ。あの日と同じこの美しい景色の下で……
『ボクと一緒に死んでくれない?』
彼はその言葉に頷き、涙を零しながら目を閉じた。
そして、ボクも目を閉じ……互いに唇を合わせるのだった。
あの日出会った時からボクはキミに憧れ、キミはボクに惹かれたんだ。
だから、例え何度生まれ変わったとしても、この数奇な運命を辿った『犯罪者のボクと被害者のキミ』という縛られた関係は、生まれ変わる度カタチを変え、ボクたちを引き合わせるのだろう。
そうして世界は廻り、また新たな物語を紡いでいく。
犯罪者のボクと被害者のキミ 桐沢 緋慈理 @noaila
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