事実

「で?なんでアンタがここにいるんだ?……親父」

「は?キミは何を言って……」


 水津巴は驚いているようだが、記憶の中で親父の姿を見たのはこの施設だった為、何となく組織の者だとは思っていたが……


「まさか、この施設のトップだったとはな」

「なんだ、気づいていたのか」

「そりゃ、記憶が戻ればな」

「そうか記憶が戻ったのか、どうして戻ったのか訊いていいか?」

「簡単なことだ。例の薬を飲んだ、ただそれだけだ」

「なるほど、確かにアレの副作用で戻るのかもしれないな」

「俺からも一つ訊いてもいいか?」

「なんでも訊いてくれ、ここまで来た褒美だ」

「じゃあ、俺はなんなんだ?」

「お前は……実験体だよ。最初の能力開発のな」

「なっ!」

「……」

「そっちの子は驚いている様だけど?」

「別に驚く事じゃない。能力の話を聞いた時、何となく俺の身体はそれに関連したものだと思っていたからな……能力を持ったコイツと出逢ってから変化していったんだ。もしや、ってな」


 つまり、髪の色が変化した時点で、俺はすでに共犯者になっていた、というわけだ。


「で、それが当たりだったと」

「そう言う事だ」

「それで?お前は俺をどうしたい?」

「殺すに決まってんだろ?……そのために来たんだしな」

「俺が死んだら、生活費はどうするんだ。わざわざ毎月振り込んでやったと言うのに」

「それはまあ感謝してるが、アンタのやった事を考えれば当然だろ?」

「確かにそれは言えてるな。誘拐に、殺人それに人体実験、どれも非人道的だ」

「そう言うことだ。それに水津巴と過ごすためだな」

「キミっ、それだけの為について来たの?!」

「逆にそれ以外の理由がない」


 俺は正義だなんだと言うつもりもないし、こんな世の中で正義を掲げたって何の意味もない。

 世の中目的を達成するには下心が一番だ。


「で、アンタは抵抗するのか?それともアッサリ殺されるのか?どっちだ?」

「父親に向かってその問いはどうなんだ?と思うが、抵抗させてもらうとしよう」


 言いながら、ノーモーションで注射器の様な物を投げて来た。

 突然のことで避けることができず、それを食らってしまう。


「?何ともないな」

「な〜んだ、見掛け倒し…ぐっ……」

「なっ!?おいしっかりしろ!」


 突然彼女が倒れ、苦しみ出した。


「がっ……」


 彼女を心配していると、俺にも苦しさがやってきた。

 薬を飲んだ時とは逆に物凄い勢いで冷えていく感じがした。

 俺は力を使い、全身の体温を上げ、注入された薬を体内で混ざりきる前に消した。

 彼女にも力を使うが……一向に良くなる気配がない。


「無駄だ。その薬は人の生命力を奪い、そして魂を凍らせる。そして自分以外の力を寄せ付けない。彼女はもう助からない」

「ふざけんなぁ!」

「こちらを殺そうとするなら、そちらも死を覚悟しないとな。それで提案だ。彼女を救いたければこちらに協力をしろ」

「誰がそんなこと……」

「では彼女が死んでもいいんだな」


 言いながら、男は手を差し伸べて来た。

 その手を俺は……掴んだ。


 そして……そして…………そして……………

 俺は振り返り、「じゃあな」と一言告げ、この場を去るのだった。

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