ひとつ

 俺たちは今組織の基地の中に侵入しようとしていた。見た目はハッキリ言ってしまえば、廃病院だ。封鎖されている事から、心霊だの何だの噂を流したのだろう。

「準備はいい?」

「問題なし」

「じゃあ、行こうか」

 そうして、基地を潰すために動き出すのだった。


 遡ること二日前──、


「今潰そうとしてどうすんだっ!」

「だって!ボクの友達もみんな殺されたんだよ!それにそろそろ組織の連中だってボクがここに滞在してるって気づく頃だと思うし!」

「別にお前の気持ちを蔑ろしたいって訳じゃない、準備も何もしてない状態で行ったって無意味に終わるだけだ。それに私はもう『被害者』なんだろ?どうせ何もしなくたって殺されるだけだ。私も協力するから……だからそれを寄越せ」

「ちょ、やめ……!」


 彼女の制止する声を無視して、例の薬を彼女の手から分捕り、容器の中の液体を一気に流し込んだ。

 危険など百も承知だ。それに初めて共に居たいと想った彼女の意志を、その想いを無碍にする訳にはいかない。

 飲み切った瞬間、身体に異変が起こった。

 ドクンッ!と心臓が跳ね、全身に巡る血液が瞬間的に速くなっていき、全身を火で炙られているような痛みすら伴うほど体温が上がっていき、上がっていくにつれて何かが身体の中で混ざっていく様な感覚に陥る。

 彼女が何か叫んでいるようだが、全く耳に入ってこない。

 そして、とうとう意識を保つことができなくなり、そこで私は意識を失った。


 ボクは目の前で起こるな光景を茫然と見ていた。

 ボクは組織にいた頃、何度も薬が適応せずに苦しんで絶命していった人や、適応し身体に少しの変化を現した人など様々な光景を見てきたが、これ程の変化は見た事がなかった。

 彼の身体が少し跳ねたように見えたと思ったら次の瞬間には彼の体温が異常なまで上昇していき、彼が意識を失い倒れる頃には全身が赤く赤熱化し、床や彼が身につけている服など彼の周辺にある物を溶かしていくという異様な光景が広がっていた。

 そしてしばらくすると、異様な赤さが消え、いつものような肌色に戻ると、彼は目を見開いた。


「ってキミッ!大丈夫かいっ!?」

「何のことだ?てかお前誰だ?」

「やっぱりキミは失礼な人だね。起きてすぐ言うことがそれかい?心配して損したじゃないか」

「いきなり現れてなんだお前?てかなんでは女の前でこんな格好なんだ?」

「……キミ、今自分の事なんて言ったの?」

「はぁ?さっきから訳の分からん女だなぁ」

「いいから!答えて!」

「チッ、俺って言ったんだが?」

「やっぱり……キミは誰だ?」

「あん?お前こそ誰だよ?」

「仕方ないか……ボクは上沢 水津巴、でキミは?」

「俺は、混野こんの こころだ」

「は?え、は?なに言ってるの?キミは紺乃 茲炉だろ?」

「お前こそなに言っての?てか誰だそれ?」

「キミの名前だろ!」

「そんな名前は知らねー……ってなんだ?ぐっ、頭がいてぇぇぇぇぇ」


 ──頭が割れそうだ。さっきからなんだ?はずの記憶が次々と。これはこの女との想い出か?それに親父やお袋がいない。それに、それに………この部屋はドコダ?


 バタンとまた、茲炉もとい意の身体は倒れるのだった。


 目を覚ますと様々な記憶が俺の脳裏を駆け巡っていた。

 真っ白な部屋に閉じ込められ、容器に入った液体を飲まされ、やりたくもない勉強や戦闘訓練をやらされる日々を送っていた。

 そんなある日、突然親父にここから出て平和に暮らせと言われ、それから出て行く時に渡された薬を飲んだ時から記憶がなくなり、その後紆余曲折を経て今に至る。

 そして、目の前の少女が俺の顔を覗いてきた。


「……キミは、茲炉かい?それとも意?」

「お前はどっちだと思う?」


 そう聞き返すと彼女はパァと顔を輝かせ、俺に抱きついてきた。


「よかったよぉ〜、茲炉が戻って来ないかと思った」

「さっきは悪かったな。俺はもう大丈夫だから」

「ん?俺?」

「あぁ、記憶が戻ってからだと私っていう一人称はないなって」

「そうなのかい?ってキミ!その髪の色は!……それにオーラの色だって!」


 そう水津巴に言われ鏡を覗いて見ると……それはもう真っ白だった。文句のつけようが無いくらい真っ白になっていた。

 そして、彼女がボクの身体をジッと見てくる。


「俺の色どうなってんの?」

「なんて言ったらいいのかな……もう混じってはいないんだけど、純粋な黒になってる」

「黒?なんじゃそりゃ」

「ボクにもよく分からないんだけど、多分その色こそがキミ本来の色だと思う」

「なんか嫌だな」

「なんで?純粋な黒って何者にも染まらない、流されないってことだよ?」

「そうなのか?でも流されまくりな気がするけどな」

「まぁそこは気にしなくていいよ、その傾向が多いってだけだから」

「そうか……それと俺の力は結構強力なものらしいぞ」

「どんなのなんだい?」

「聞いて驚け?何と、あらゆる熱を操れます」

「おお〜〜、?それだけ?」

「いや凄いだろ!」

「聞いて驚けって言うから、時間でも停められるのかと」

「それはどんな能力者にも無理だと思う」

「それもそうだね。じゃあ準備して行こうか」

「……あぁ」


 ──施設を潰しに──


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