変化
私は今風呂に入っていた。
風呂というのは良いものだ。
朝に入れば意識はスッキリするし、汗を流した後に入ればなんとも言えない気持ち良さに浸れる。
それに、風呂のように狭く、音が反響しやすく、尚且つ温度の変化によるリラックス効果もある。ここまで一人で考え事をするのに適した場所は無いと言える。
風呂場でアイデアを思いつく人は少なくないと聞く、それもよく分かるというものだ。
私はここ最近、考える時間が増えたように思える。それも当然だ。なんせ水津巴が来てから生活が目まぐるしく変わり、日常から非日常に変わっていっているように思えるからだ。
……いや、ようではなく実際に変わっていっているのだろう。
日常風景が変わっていくだけでなく、私自身にも変化が起きている。
まず、髪の毛の色がどんどん白くなってきており、今では黒より白の方が圧倒的に多くなってしまっているため、ついこの間までは黒に白のメッシュといった感じだったのに対し、今では白に黒のメッシュといった具合いになっている。
それにもう一つ、見える景色が変わってきていることだ。
今までは世界が灰色に見えていた。と言っても、水津巴のように病気のせいではなく、精神的な問題で変わり映えしない景色にうんざりしてい為だ。
だが、水津巴が来てから世界に色が少しずつ彩られるようになっていった。
これは満たされてきているといるだろう。
私はもう水津巴が居ないとダメなのかもしれない。
だがこれは、私のエゴイズムだ。相手のことを考えない単なる押しつけでしかない。
私は相手から押しつけられる辛さを知っているはずなのに、そう考えてしまう辺りやはり人間なのだと実感し、自分自身に軽蔑してしまう。
誰が言っただろうか。人は皆、誰しも心のどこかで利己的な考えを持っている。だから、争いが終わることはないし、不幸な者が居なくなることは決してない。
だから必要なのは、争いを止めようとすることではなく、争いによって得たものをどのように利用し、どのような結果をもたらすのか考え、実行することこそが大切だと言っていた。
この話を聞いた時から私は、誰かに押しつけるのをやめようと思い実行した。だがそれで得られたものは満足感でも、達成感でもなく単なる虚無感でしかなかった。
しかし、水津巴に出会い、共に過ごしていくにつれて私の胸にあった虚無感は無くなっていき、止まっていた歯車が動き出したような音が聴こえた。だがそれでも、まだ虚無感は消えていない。コップに水を注ぐように私の心は満たされていっているが、どこかで蓋がされているかのように、それ以上満たされることはない。
何かきっかけでもあれば、変わるのだろう。
だが今以上の変化は私という存在自体に影響をもたらし、変わりきった頃には今の私という存在は無くなり、別の私が生きていくのだろう。
それが嫌で心のどこかでこれ以上の変化を拒んでいる。
だがこの答えをすぐにでも見つけ出さなければいけない。
その答えによって今後の生き方を大きく分けるだろうから。
そして、その答えを見つけた出した頃には私と彼女はきっと…………。
そんな事を考えている時だった。突然、部屋のドアをノックされ、水津巴から明日の朝大事な話があると告げてきた。
その後各々自室に戻り、私は何の話か少し考えたが、結局睡魔に勝つことが出来ず、眠りに就くことにした。……今の生活に変化がないことを願いながら。
そして次の日の朝、対面してから数秒間閉じていた彼女の口から告げられた事は衝撃的なことだった。
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