危機感

「にしても、こんなに早く食材がなくなるとは思わなかった」

「しょうがないんじゃない?食材なんてすぐなくなるものだし。あとお菓子買って」

「居座っている身でよくそんなこと言えなるなお前、図々しいにも程があるだろ」

「いいじゃないか、お金にはまだまだ余裕があるんでしょ?」

「それとこれとは別だろ。……というか、なんでフード被ってんの?」

「いいだろ別に。ボクは、人に顔を見られたくないんだよ。そんなことより早く買って帰ろ」

「ハイハイわかったよ、お姫様」


 私たちは今、食材が切れたため近くのスーパーで買い物に来ていた。

 水津巴がうちに来てから早数日が経った。図々しい態度が目立つが、私が学校に行ってる間に家事全般をしてくれているので助かっていたりする。


 ──にしてもコイツ、フードを深く被りすぎじゃないか?前見えてんのかってレベルで。防犯意識が高いにしたって、やりすぎな気もするが、多分気のせいだろう。


 私は長袖長ズボンという露出部位がほぼ皆無の水津巴を見ながら彼女に質問をした。


「なぁ、その格好ってやっぱアルビノせいか?」

「ん?まぁそうだね、皮膚が弱いから外に出る時は隠さないといけないからね」

「日焼け止め塗ればいいじゃねーか」

「日焼け止めダメだね。汗とかで簡単に取れちゃうし」

「そういうもんか」

「そういうもんだね……それに……………」

「うん?なんか言ったか?」

「別になーんにも言ってないよ。じゃあ先に外で待ってるから」

「わかった」


 ──それにしてもさっき、『見つかりたくない』って言っていたように聞こえたが、聞き間違えか?



 会計を済ませ、外に出たところで一人の男がナンパしているところを目撃する。


 ──ったく、こんな所でナンパしようとすんなよな。まあ私には関係ないことか。水津巴探してとっとと帰るか。


 しかし辺りを見渡しても彼女がいない。


 ──入れ違いになったか?……いや、それはないか。


 じゃあ、どこに?


 ──まさか絡まれてる女だったりしないよな?


 嫌な汗が頬を伝う。


 ──確認するだけ、確認するだけだから。違ったらすぐに見つけて帰るから。


 そぉーと、絡まれてる女の顔を見てみると……


 ──やっぱりそうでしたぁー!アイツ何やってんの?!さっきまでフード被ってたじゃん!前がよく見えなくなるくらいまで被ってたじゃん!……もうアイツ放って帰るか、私は何も見なかった。


 なんてことを考えながら戦線離脱しようとすると、水津巴が私の存在に気づいたらしい。ガッツリ私の名前を呼ぶデカい声が聞こえる。


「おーいっ!茲炉っ!こっちこっち!」


さすがにそんなに呼ばれたら、行くしかなかった。

自分の意志の弱さに嘆息を漏らす。


「聞こえてるから、そうデカい声で呼ぶな」

「周りに迷惑がかかる。目立ちたくないとか言ってた奴はどこ行った」

「それは大丈夫、フード被ってるから」


いつのまにかまた、深々とフードを被っていた。


「なんかこの人が、茲炉とどういう関係か聞いてきてウザいんだよね」

「この人?あぁさっきのナンパ男ね」

「?別にナンパされてないけど?」

はたから見るとナンパされてるように見えんの」

「気のせいじゃない?」

「それはない」

「あの〜、そろそろいいか?」

「今話てんだから、黙って……」


そう言いながらナンパ男に振り向くと……


「……お前、何やってんの?」

「それはこっちのセリフだわっ!お前の方こそこんな美少女と一つ屋根の下で暮らしてるとか……もう犯罪じゃんっ!」

「んなっ!なんでそんなこと知って……あぁ、そういう事。水津巴お前、何ゲロってんの?」

「そんな怖い顔で睨まないでよっ!しょうがないじゃん!この人圧が凄いんだよ!圧がっ!」

「ひっでぇ〜、俺はただコイツとの関係を聞いただけじゃん」

「聞き方に問題があったんだろ。そのくらい解れよ」

「それもそうか、スマン」

「ねぇねぇ、それよりこの人誰?茲炉の知り合い?」

「そういえば、言ってなかったな。こいつはぁ〜……誰だ?」

「泣いていい?」

「ウソウソ冗談、こいつは私の数少ない友人の一人で、安部あべ 和馬かずまだ。……わかりやすく言うと、例のメイド服を置いていった奴」

「あぁ〜、アレ、キミのだったんだ」

「絶対、茲炉に似合うと思ったんだけどなぁ〜」

「それっ、すっごくわかる!」

「だろ?み〜んな言っての。絶対似合う、って」

「みんな?」

「そう、クラスの奴みんな」

「は?」


なにそれ初めて聞いた。


「みんなこっそり噂してるぜ。絶対メイド服似合う、って。それどころか女装自体」

「そんなん聞いたことないんだけど?」

「そりゃそうだ。バレないようしてたからな」

「聞かなきゃよかった」

「それより、お前らの関係ってなんなの?」

「今それ聞くか?」

「俺にとっちゃ重要なことなんで。ホレ早くゲロっちゃいなよ。楽になるぜ」

「確かになるな、後悔で」

「はぐらかそうとすんなよ。聞くまで帰んねーかんな」

「はぁ〜、わっーたよ。……私とこいつは従兄妹同士でこいつが今居候中なだけだ」

「なんだよ。つまんねーの、攫ってきたわけじゃねーのかよ」

「攫ってきたんなら、こんな所まで来るかよ」

「それもそうか。悪かったな詮索しようとして」


──というかコイツは今どき従兄妹設定に引っ掻かんのかよ。


「わかればいいんだよ、わかれば……最悪またボコボコにしてたけど」

「はいそこっ!怖いこと言わない!」

「気にすんな、お前が私に何もしなければ、こっちからは何もしねーよ。じゃーな、ほれ帰るぞ水津巴」

「待って待って……じゃーね、和彦かずひこ君?」

「和馬だ。またな茲炉に従妹ちゃん」


そうしてそれぞれ別の帰路につくのだった。







「今度こそ、失敗はしない」


夕陽に差さされる中、誰かが呟くのであった。

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