景色

 現在、昼を過ぎている。

 結局、学校には行けていない。髪を染めている時間もなかったし、水津巴も家にいる、そして何より自分自身白髪が目立って周りから鬱陶しい視線を向けられるのが嫌だったためだ。

 一応学校には体調不良ということで休みを取ったので問題はないだろう。

 髪を隠すことに関しては、正直染める以外に方法がなかった。

 帽子は学校じゃ被ることが出来ないし、カツラを使用すると頭が痒くなったりするので長時間使用するには向いていない。

 髪を染めることに決まったのだが、問題がないわけではない。雨に降られたり、水を被ったりすると染めた部分の色が取れてしまう可能性があるからだ。しかしこれはどうにもならないし注意して過ごすほかない。

 なので、明日からの登校がさらに鬱になる。


 そんなこんなで髪を染めることにした私は今、昼食を作っている。

 まあ簡単なありあわせなのだが。


「ご飯まだ?」

「ちょっと待ってろ、もうすぐできるから……というかお前も少しは手伝ったらどうなんだ?」

「ボクは食べる専門なので」

「理由になってない」

「いいじゃないか、こんな美少女に貢げるんだよ?少しは感謝して欲しいね。多くの人は大喜びで貢いでくるね」

「私はそんな貢ぐ君じゃないから無理だな」

「何それ?」

「あれ?知らない?」

「うん」

「…………マジか」


 ──地味にショックなんだが、いや今時知っている方が変か


「ねぇ、その貢ぐ君って何?その良い響きの言葉は何?」

「知らねぇんだったら、いい」

「ねぇねぇ!教えてよぉ〜」

「無理」

「けち」

「そんなに知りたいんだったら、自分で調べりゃいいだろ」

「面倒臭いからヤダ」

「…………」

「そういう呆れたような目を向けないでくれない?意外と心にくるからね」

「ハイハイ、ハァ〜〜」

「溜め息も禁止っ!」


 そんなくだらないやり取りをしている間に昼食ができ、二人で一緒に食事をする。

 そして、ふと気になったことを彼女に質問する。


「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

「ん?なに?」

「その……全身が真っ白なのって……」

「想像の通りアルビノだよ」

「……やっぱりか」


 アルビノ……別名、色素欠乏症。世界で約2万人に1人の割合でいるとされ、詳しくは知らないが、メラニン色素と呼ばれる色素が足りないために全身が粉を浴びたように真っ白に生まれつきなってしまう病気であり、色素が薄いため紫外線に弱く、瞳の色も血管が透けているため赤く見えるそうだ。さらには基本的にこの症状を患っている者は視力が悪いらしいのだが。


「お前って眼鏡かけてないけど視力は良いのか?」

「キミって随分と物知りなんだね」

「たまたまだ。で、どうなんだ?」

「まぁ見る分にはちゃんとクリアに写っていると思うけど」

「けど?」

「多分アルビノのせいで、ボクの眼には世界が灰色に写ってる」

「なっ!?それって日常生活送る分には問題ないのか!?」

「うん、問題はないよ。それに人は色で視えてるし」

「そっか……ん?色?そういえばお前と出会った時に『変わってる』とか『混じってる』とか言ってたけど、どういう意味だ?」

「そんなことも言ってたね。そうだねぇ〜、どう説明したものか…………例えば、霧の奥からの光なんかはモヤがかかったような感じになるじゃないか。それに色がついた光が人を覆ってる感じって言えばわかるかな?」

「つまり人のオーラが見えるってことでいいのか?」

「まぁ簡単に言ったらそんな感じだね。だから色が視えるっていうこと。それに人によってその人が持つ色でどんな性格なのかある程度わかるし、胸にいくにつれてその人の色が濃くなっての。でもこれはその人の感情の変化によって色の濃さは変わってくるんだけね」

「水津巴の瞳に写ってる世界は何となく理解したが、私のことはどうなんだ?」

「あぁ〜〜、それに関しては申し訳ないんだけど、キミについてはさっぱり解らないんだ」

「似たような奴とか視たことないのか?」

「あるにはあるんだけど……その人たちは所謂多重人格者と呼ばれてる人たちなんだよ。ボクが視てきたのはその人を覆ってる色が沢山あるんだけど、決して混ざることなくしっかり分かれているんだ。だけどキミは……」

「色が混じってしまっている、という事か。多分だけど絵の具を混ぜた様な感じになっているんじゃないか?」

「そうだね。きっとそのイメージが一番近いと思う」

「今はどうなんだ?」

「今も相変わらず、混ざって変な色してる。正直気持ち悪い」

「それは失礼じゃないか?」

「しょうがないだろ!だってホントなんだから!」

「まぁそれはいいとして、原因は解るか?」

「さっきも言ったけど、さっぱり。それはもう清々しいほどになぁ〜んにもわかんない。逆にボクが知りたいぐらいさ」

「そっか、なら気にしない様にしよう」

「楽観的だなぁ〜」

「まず自分でも視えんのに気にしてもしょうがねぇだろ。こういうものは気にしないのが一番だ」


「それもそうだね」


 その後も他愛もない会話をしながら、時間が過ぎていくのであった。


 ──にしても私の身体って水津巴に出会ってから徐々に変わっていってるのは気のせいか?


 多少の不安を残して。





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