第2話 魔法使いの弟子は苦労性【2】
私は少しの隙間を頼りに部屋の中を覗くと、部屋の中が物で溢れかえってて。それが扉の前までいろんな物で積み上がっているものだから扉を塞いで開かなくなっているのよ!
ありえない! 昨日部屋を片付けてあげたばかりなのに、どうやったらこんなに散らかるのよ!
しょうがないから、いつものごとく足のつま先をトトンと鳴らし、両手をパパンと鳴らして自分の魔法の杖を呼び出す。
そして、杖先を軽く扉にトントンと突いて、と…………。
「もしもし扉の前の物達さん。私の声を聞いてくれる?私を部屋へと入れてちょうだいな」
歌うように杖を指揮棒の様に振るいながら扉を塞いでいる物達にそう声をかけると、カタコトと音がして扉がちょうど私が入れるくらいまで開いてくれた。
「ありがとう」
私を入れてくれた物達に感謝を述べつつ、中へと入ると。部屋の中はギリギリ足の踏み場がある程度。
全く! 昨日綺麗にしたばかりなのに、魔法書やら魔道具やらなんやら、作業に必要な道具や材料まで散乱し放題。
その奥の作業机に突っ伏して作業途中で寝てしまっているのが、私の師匠。
師匠は本当は綺麗な真珠のような白髪なのに、何をしたのか煤やらなんやらで汚れてしまっているのが後姿だけでも分かる。
いったい何をしたらそうなるのやら!
仕方ないなあと、呟いて私は足をタップダンスするようにタタントントンとならし魔力を込めて杖をピシッと上へ向けた。
「全員集合!」
私の掛け声に散らばっていた物達が私の前へと集まりだす。
「さてさて、本の皆は本棚に戻ってちょうだいな。魔道具の作りかけのみんなはあっちの棚に、作業道具の皆は汚れてたら綺麗にしてあげるから私の前に並んでね。綺麗にしたら自分の定位置に戻るのよ」
次々に私の前に集まったその辺にほったらかしにされていた物達へと指示を出していく。
いつもここの部屋を掃除して綺麗にしたり整理整頓するのは私なので、皆、言う事をよく聞いてくれるのだ。
本達はふよふよと自分を開いて蝶の様に舞って自分の定位置に戻って行き、作りかけの魔道具たちは作業途中用の棚へとカタコトと並んでいく。重さや大きさなどで上手く棚へ入れない子は手助けをしてあげつつ。
私は汚れてしまったままの作業道具たちを洗ってあげたり、拭いたりなど綺麗にしてあげてから自分達の定位置に戻ってもらって行っていた。
薬草やその他、細々した子達も定位置に戻ってもらう。薬草の中で水やりが必要な子はお水を上げるのを忘れずに。
そして、一番大変で重要なのが。
「師匠、師匠ー。朝ですよー。ご飯できてますよー」
この寝起きが最悪な師匠を、どうやって怒らせずに起こすのかが朝の難関なのである。
極めて稀に自力で起きてくれる時があるのだが、それは本当に月に一回あるかないかのレベルなのだ。
生まれてこのかた十五年、師匠を起こすのに慣れているとはいえ、油断すると眉間に皺を寄せた機嫌の悪い師匠に睨まれた後、全身ぐるぐる巻きの刑にされて逆さに天井に吊るされるのだけは避けねばならぬ。
なので、最初の声掛けは耳元ではなく少し離れた場所から小声で声掛け。
そして、師匠の反応を見る。
「………………」
無反応。
これはまずいぞ。
今回は、起こす難関のレベルが高めかもしれない。
「しーしょー。あーさでーすよー」
優しく囁きかけるように声をかけて。
寝ている場所が寝室であればこの時点で日の光を優しく当てるのだが、ここは地下。
それが出来ないのが悔やまれる。
代わりと言っては何だが、机の上ランプの淡い灯りしかついてなかった部屋の中を、杖を優しく振って天井や壁際のランプなどの部屋の灯りを少しずつ強めていって日差しを再現。
「…………っ、すー」
そりゃあ、あれだけ部屋を慌ただしく片付けたのにもかかわらず、ずっと寝ていられるその根性。
ただでは起きませんよね。
これは、近年稀にみる超難関かもしれない…………。
覚悟を決めて、私はそーっと師匠の肩に手を乗せて少しだけ優しくやさーしく、揺すってみた。
「師匠、お師匠様ー。ご飯が冷めてしまいますよー。いいんですかー」
恐る恐る、師匠の肩を限りなく優しく揺すりながら先程よりも声を張って様子を見る。
「ん…………、すぅ」
やばい!
これは覚悟を決めねばならないかもしれない。
「んぎゃー!!!!」
「ふぁあ……、くそ、さっき寝た所だっていうのに」
「師匠ー!!! おろしてくださいー!!!」
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