第3話 王子様と
城から離れた屋敷に、時雨はミハイルに案内された。
ミハイルは扉のチャイムを鳴らしてから屋敷の中に入る。
「アディー陛下、異世界から来たシグレ様をお連れしました」
「……」
階段の向こうから、プラチナブロンドに青い目の青年が姿を現した。
凜々しくも、何処か疲弊して見えた。
「アディー殿下?」
「まずい!」
倒れ込みそうになった青年──アディーをシグレは急いで、抱きしめた。
「大丈夫ですか? 怪我はないですか?」
「……ああ、ありがとう……」
「いや、礼は言われることじゃないですよ。それにしても無理してたのですね、貴方は、頑張りましたね」
背中をさする。
アディーは安心したように目を閉じて眠った。
「眠ったぞ、王子様。休ませてやろうぜ」
「はい」
時雨は王子を抱きかかえて、ベッドまで運び寝かせた。
「今日は俺は帰るわ、また明日」
「はい、そうしましょう」
時雨はミハイルとともに屋敷から出ることにした。
翌日、ミハイルとともに屋敷に再び来た時、アディーは凜々しい姿で現れた。
「異世界からの客人ようこそ、そしてすまなんだ、みっともない姿を見せて」
「いや気にしていません」
「堅苦しい言葉はいらぬ」
「……では、気にしてないんで、アンタも気にしないでくださいよ」
「ありがとう」
応接室で、茶と菓子を出され、時雨はお茶を飲みながらアディーを見る。
「俺のダイナミクス、聞かされている」
「聞かされた、Domだと」
「やっぱり嫌悪感ある?」
「最初はあったが、今は無い」
「そう、ならいいんだけどさ」
時雨は菓子をつまみながら、アディーの様子をうかがう。
「……Playをしたいと思わないのか?」
「したいって感情はあるけど、相手が嫌がるなら普通のコミュニケーションだけでいいよ」
「……ミハイル部屋を出てくれ」
「──かしこまりました」
ミハイルが部屋を出ると、アディーは時雨の隣に移動し、座った。
「……お前とならしていい?」
「え、本当?! えっとそれじゃあSafe wordを決めようか」
「……『やめてくれ』でいい」
「分かった、分かりやすいから有り難いよ、じゃあ『Look』」
目を伏せがちだったアディーに時雨はそう言うと、アディーは指示に反応して時雨を見た。
「よくできたな、偉いなぁ」
顔色が悪くなったアディーを抱きしめて、時雨は褒めた。
すると、アディーの顔色は良くなった。
「そうだな……次は『Take』、そこの菓子を一つ」
時雨はアディーを褒め終えて、解放すると、今度はお菓子を一つ持ってくるようにいった。
アディーは菓子を手に取り、時雨に渡した。
「よしよし、いい子だ。じゃあ、あーん」
「え?」
「お菓子を食べさせたいんだよ、ほら口を開けて」
アディーは戸惑いながらお菓子を口にした。
「よしよし、偉いぞー」
時雨はアディーの行動一つ一つを褒めた。
「じゃあ、この当たりで今日は終わりにするか?」
「私はまだ──」
「顔色がちょっと悪くなってるからな、Safe word言う前に止めて置いた方がいいだろう?」
アディーは驚きの表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた様に頷いた。
「シグレ、有り難う」
「いいって事よ」
時雨は部屋の外へと出て、ミハイルとともに王宮の宛がわれた部屋へ戻ってきた。
「あー精神的に満足した感じがするなぁ」
「アディー殿下もそのようでした」
「そっか、なら良かった」
ミハイルの言葉に俺は安堵した。
「ところで、何でアディーはこの世界のDomとかがダメなんだ?」
「ソレはまだお話しすることができません」
「そっか、プライバシーとかあるもんな、じゃあ聞こうとしないでおくよ」
「感謝致します」
ミハイルがそう言って部屋を出ると、時雨はベッドに寝転んだ。
「アディーに明日も会いたいなぁ」
そう呟いた。
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