第4話 太陽のような人 2
耳まで響くような心音に戸惑い、鎮まれ、と自分を諌めるが、その必要もなく、次の光輝の一言で私は一瞬心臓を止めることになる。
「千夏って、なんか思っとった感じと違うな。せんばぁちゃんの孫やって言うくらいだからもっと喋るんかと思っとった。」
ガン、と
鈍器で頭を殴られたような感覚がした。
浅く被ったフードを深く被り直して、ぎゅっと縮こまる。いつの間にか黄昏時は終わり、薄闇が辺りを覆っていた。
「…つまらないって、よく言われる」
「え?あはは、そういう意味やなくて!」
私の悩みなどなんでもないように笑い飛ばしてみせた光輝は、相変わらず輝くような笑顔で私の目を真っ直ぐ見つめた。こちらの全てを見透かしてしまいそうなほど綺麗な目に写った自分がどうしようもなく穢れたものに見えて、思わず目を逸らした。
「なんか、嫌な感じに聞こえたんやったら謝るけど、俺が言いたかったんは、なんて言うか、うーんと…」
「別に、無理しなくても良いよ。自分のことは自分がよくわかってる」
「いや待って、わかった!喋らんくても落ち着く言うんかな…せんばぁちゃんみたいな、優しい人なんやろうなって思って。…傷付けたんならごめん。」
こちらがどう思おうが、光輝は笑ってみせる。その笑顔で、自然と人の心を温かく晴れやかにする。優しいのは光輝の方だと言いたかったが、目深に被ったフードが私の言葉ごと包み込んでいった。
「千夏はさ、何が好きなん?」
「好き…?」
「好きなもん、なんかしらあるやろ?」
「好き、かどうかはわかんないけど。ゲームはずっとやってる…かな」
何個か最近力を入れてやっているゲームの名前を挙げると、光輝は真剣そうに私の話に聞き入っている。その姿がやっぱり犬みたいで、クスリとしてしまう。
すると、光輝が驚いたように目を見開くから、慌てて目を逸らした。
やばい、今のはかなりキモかったかもしれない。いや、確実にキモかった。
やってしまった。せっかくばぁばが作ってくれた大切な縁なのに。こんな見るからに陰鬱そうな人間から笑われるなんて、不快以外の何物でもないだろう。
「うん、やっぱり、よう似とる。」
「え?」
予想外の言葉に思わず顔を上げると、これまでとは違う優しい微笑みを浮かべた光輝が、温かい眼差しをこちらに向けていた。
「千夏は、笑った顔の方がずっとええ。思った通り、せんばぁちゃんにそっくりや。」
「え、と…何かの間違いじゃ?」
「あはは、俺な、せんばぁちゃんの笑った顔が好きやねん。あの目尻の深ぁいシワがさらに深くなる感じがな、こっちまで幸せになる感じがして。」
「わ、わかる!」
「ふふ、千夏の笑顔は、それによう似とる。人を幸せにする笑顔やな。」
全身が熱くなるのを感じた。
そんなふうに思ったことなどなかった。自分の笑った顔なんて思い出せもしない。
だって誰も、教えてくれなかった。
目の前にいるこの人は、一体なんなんだろう。眩しすぎるほどの笑顔を見せる人。周りに愛され、そして自身も周りを愛しているのだろうとわかる人。こちらを見透かすような目をしていながら、ほんの少しも悪意を感じない人。
真夏の太陽みたいな人。
好きなものは何か、ともう一度聞かれたなら、思わず君だと口にしてしまうような、それほど高揚した気持ちになった。
「…ありがとう。」
依然として笑顔の光輝は、嬉しそうに私を見つめていた。
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