第3話 太陽のような人
「ええっと…どちらさま?」
少し気まずそうに頬をかくその仕草は少年らしく、しかしその顔つきは端正で、焼けた肌から見える歯は白い。儚い花のようである都会の美男子とは違い、包容力のある、それでいて加護欲をそそられるような男子である。
こんな人、今まで接してきたことがないからわからない。誰かと言えば東京から来た外部人だが、近所のおばあちゃんの孫とでも言えばわかるだろうか。
そもそも、どうやって人と話せばいい?
何せ、最後に家族以外と面と向かって話したのは、1年以上前のことなのだ。
何も言葉を発さずともこちらの様子を見て何となく察してくれたのか、彼は人好きのする笑みを浮かべて、もしかして、と言った。
「せんばぁちゃんが言っとったちーちゃんか?」
「あ、はい。たぶん…」
「ほんまに?!わぁ、ずっと会いたかってん!」
子犬を彷彿とさせるような目の輝きをした彼は、玄関から飛び出して、もっと話そう!と私の手を引く。
挨拶もそこそこに家に帰るつもりだったのだが、あまりにも彼が嬉しそうにするものだから、少しだけ付き合ってあげてもいいような気がした。
「せや、俺は
「あ、えっと、わた……
「千夏かぁ。ええ名前やな!」
光輝は真っ直ぐな目をしてそう言った。私は俯いたまま、手を引かれるまま歩いていた。
「ごめんな、せんばぁちゃんが千夏はきっと来ないやろって言っとったからびっくりした。でも会えて嬉しいわ!」
ニカッと笑った光輝は、河川敷に腰を落とす。
川のせせらぎが心地よく、黄昏時をより神秘的に彩っている。オレンジと紫の中間の色をした空は透明な川に反射しても彩度を落とさない。
光輝の隣にしゃがんだ私を見て、光輝はまた嬉しそうに笑った。その笑顔に真夏の太陽を思い出して、慌てて頭を振った。それは私がいちばん嫌いなもののはずだから。
「俺な、この近所に同い年のやつがおらんくて。もちろんみんな兄弟やと思っとるし、大事なんは変わりないんやけど。でもやっぱ同い年で話せる相手がいないんは寂しいなぁって思っとったからさ。千夏の話をせんばぁちゃんから聞いた時、思わず『会いたい!』って言うてもた。」
照れくさそうにそう言った光輝は、心から私が来たことを喜んでくれているようで、なんだかむず痒い気持ちになった。そのままでいるのが恥ずかしくて、黒いパーカーのフードを浅く被る。
暑くないのかと光輝が聞いてくるので、別に、とだけ答えてみる。
心臓は、まだ煩いままだった。
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