第2話 出会い

 車に揺られて約6時間。

 田んぼと山に囲まれた田舎町の平屋の前で車は止まった。照りつけるような日差しはコンクリートのように反射せず、川が近いせいかどことなく涼しい。蝉の声はけたたましいが。


「ただいま!」


 父が玄関を開けて声をかけると、父母両家の祖父母が揃って出てきた。


「おうおう元気にしとったか?随分久しぶりじゃねぇか」


「まぁまぁあなた、この子らも忙しいんでしょうよ。このひと月ずっと居てくれるんだからいいじゃないですか」


 酔うと面倒なタイプの母方の祖父と、穏やかな祖母

 それを微笑んで見守るのが父方の祖父母だ。


「春輝は今年で大学も卒業か!早ぇなぁ。元気か?」


「そうだよ。もう就職先も決まってるし、毎日元気!じいちゃんは元気にしてた?」


 にこやかに話す兄と、それを嬉しそうに聞く祖父を横目に見ながら玄関をあがる。小学生の時の帰省でも、私と兄には一部屋ずつ部屋が与えられた。今回も同じだと聞いていたので、自分の荷物を持って一番奥の部屋に入る。

 主のいない部屋は薄暗く、南側に窓が無い作りのおかげで太陽はこちらに干渉し辛い。私はこの部屋を気に入っていた。約1ヶ月、ここで過ごしていかねばならない憂鬱の中、ここだけが私の心の拠り所だった。


 愛用のPCを取り出してインターネットに繋ぐ。電波が届かないようなド田舎じゃなくて良かった。

 しばらくそうしていると、部屋の扉が遠慮がちにノックされた。


「ちーちゃん、入っても良いかい?」


「うん」


 優しい声音をした、父方の祖母だった。

 いつも笑顔の彼女は、目尻のシワが誰よりも深い。父によく似た、穏やかで優しい人だ。


「どうしたの?」


「あのね、ちーちゃんは嫌がるかもしれんけど…前にね、近所に住んでる男の子にちーちゃんの話したら、会いたいって言うとって。もし良かったら会いに行ってやってくれるかい?」


 嫌がるに決まっている。私が一番嫌な事だ。出来れば私はこの1ヶ月、どこにも行かず、なるべく部屋からも出ずに生活する予定だった。

 本当は嫌だ。死ぬほど嫌だ。きっと母から言われていたら行かなかった。

 でも、彼女は、ばぁばは、私を認めてくれる唯一の人だから。


「…わかった。どうすればいい?」


「本当かい?ちーちゃんは優しい子やなぁ。」


 ...


「進藤…進藤…ここか」


 ヒグラシの鳴く中、私は1軒の小さな家の前に立っている。

 何度も引き返そうかと迷ったけど、考えながら歩いているうちに着いてしまったそこは、素朴でありながらも、どことなく温かかった。

 少しずつ早くなっていく心臓の音を聞かないふりをして、小さく深呼吸をする。震える手を抑えてインターフォンを押すと、機械音がこだました。


 ピンポーン___


「はーい」


 心臓が激しく動き出す。

 しばらくして開いた扉から顔を出したのは、よく日に焼けた、快活そうな男子だった。

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