第5話 得手不得手
「かわいいね」
いかにも子どもが作ったような、小さいデザインである。機能美を追求していない雑な出来上がりだが、愛情は十分伝わってくる。
「学校で作ったの。でも、お父さんもお母さんも使ってくれなくて」
どうも少年は、自分が作ったお茶碗を親が使ってくれないことが、ショックらしい。
そうか。彼の両親は雑貨屋だ。食器として、認識してもらえていないと思いこんでいるのかも。
「ちょっといいかな?」
私はカバンから、写真のファイルを開く。そこから、一枚の写真を見せた。
「これ、めちゃめちゃ貴重な食器なの。どう思った?」
「ゴテゴテしてて、気持ち悪い」
少年は、写真に写る食器に不快感を覚える。
「このお茶碗は。大昔のゴブリンが作ったの」
「え、ゴブリンって、あのゴブリンなの?」
私は、少年の問いかけにうなずく。
「つまり、ゴブリンが文明を作っていた時代は、存在したってわけ。これは貴重な発見なんだよ」
長年、ゴブリンには「文明は人から奪う」習慣があると、人々は信じていた。
ここに来る途中で、私たちもゴブリンに絡まれている。家具類などの荷物を奪いに来たのだ。ジュディ社長が魔法で追い払って、荷物は無事である。
が、彼らにも試行錯誤の時代があったのだ。
おそらく、文明の開発をしていた過程で、進化をあきらめたのだろう。
「自分たちで作るより、既に完成しているものを奪ったほうが早い」と。
写真の食器は、その過程を示す重要な物品なのだ。
「?」
イマイチ、少年の反応が薄い。
「つまりその、なんというか。人にはさ、得手不得手があるの」
「じゃ、ボクのお茶碗は、できが悪いってわけ?」
「そうじゃなくて、つまり」
実は私、かなりコミュ力が低いのだ。
普段怒らない人でも怒らせてしまうくらいには。
オタクだからだろうか。
自分の知っている知識があると、まくし立ててしまう。
「大事すぎるから、使っていないんだよ」
助け舟を出してきたのは、ムーファンだ。
「写真の食器を見てごらん。大昔のものを掘り返した割に、キレイでしょ? これは、自分たちが作ったものがすばらしすぎて、もったいなくて使えないって考えたんだと思うよ」
「そうなんだ!」
「だからキミのお茶碗も、できが悪いわけでも、キミが嫌いなわけでもないんだよ。大事すぎて壊しちゃうのが怖くて、使えないんだよ」
「そっか! ありがとパンダさん!」
納得した様子で、少年が去っていく。
「助かった。ありがとムーファン」
「どういたしまして」
「でも、アンタの説は違うと思うけど」
「ウソも方便だと思うよ」
そうかも。
真実や真相は、いつだって正しい。
が、それがいつだって幸せを呼ぶわけじゃなかった。
ここに来る前、私は思い知ったではないか。
すべての引っ越し作業を終えて、解散となった。
「ありがとうございました。今日は祝杯をあげようと思います」
そういって彼は、息子の作った茶碗で食事をするという。
少年は、いたく喜んでいた。
「ウチらも帰るか」
「でも、雨ですね」
私は、外の様子をうかがう。
「本降りになる前に、なるべく早よ帰ろか」
宿に泊まりたくても、満席だそうだ。やはり、雨が影響しているらしい。
「ですね。ムーファンも一緒に」
「はい! 同行します!」
私たちは、馬車で会社まで移動を始めた。
「結構、降ってきたな」
御者役を務めるジュディ社長が、ボヤく。
「今日はありがとう、ムーファン」
「いや。子どもとのお話は大好きなんだよ」
「そっかー。私って、人と話すこと自体が得意じゃないよ」
「ウソでしょ? アンパロって、わりと普通に人と会話できていたようだけど?」
私は、首を振った。
「全然。話すことはできるけど、相手を満足はさせられないんだ。相手がどんなことを言ってほしいかまで、想像できないんだよ」
「しゃべるタイプのコミュ障ってこと?」
「うん……うわっ!」
話を続けていたら、馬車ががくんと揺れて動かなくなる。
まさか、荷車が外れるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます