第4話 新入社員はパンダ獣人

「はて?」

「正直な話、ムーファンは冒険者に向いていません」


 リーダーを務める魔法剣士少女は、ムーファンを心配しているようである。


 ムーファンは当初こそ体力自慢で重宝したが、今では戦闘について行けず持て余しているという。


「幼なじみなので連れてきたんですけど、限界です」

「仲違いでも、してるんか?」

「そうではありません。危険すぎるんです」


 彼女たちは、さらに危険なダンジョンに向かおうとしていた。しかし、ムーファンのことを考えて弱めのダンジョンを攻略し続けている。


「酒場でお留守番を頼む案も考えました。が、一緒に冒険できないなら、組んでも無意味です」


 冒険者である以上、本懐はトレジャーハントだ。それに参加できないのであれば、パーティを組む必要性がない。 


「なんの話?」


 交渉を終えたムーファンも加わる。


「ちょうどいいところに来た。お前の進退について、話し合っていたんだ」

「やっぱり、あたしって邪魔かな?」


 リーダーは黙り込む。それが回答だった。


「ムーファンは力持ちだし、頼りになる。だけど、これ以上は危ないダンジョンばかりになる。リスクの高い旅に、お前を同行できいないんだ」


 魔法剣士の説得に、ムーファンも応じるしかない様子である。


「わかった。今までありがとう」

「待て。これは退職金だ」


 相応の金額を、リーダーはムーファンによこした。


「装備も、持っていっていい」

「いいや。もう戦闘はしないから」


 そちらで換金してほしいと、ムーファンはヨロイなどを脱いだ。


「ならば」と、仲間の男性狩人が、ムーファンの装備を見繕う。

「こちらこそ、今まで助かった」


 狩人は、使いまわせそうな装備は他のメンバーに渡す。残ったアイテムの売却額を、ムーファンへ。


「ううん。足を引っ張っててゴメンね」

「何を言うんだ。がんばってきたじゃないか」


 ムーファンの仲間たちは、「それじゃあ」とギルドを後にする。彼らが向かう先は、暗雲が立ち込める山道だ。たしかに、あんな怖い土地にムーファンを連れていけないだろう。


 感傷に浸っている場合じゃない。お仕事お仕事。


「ほな、引っ越しの仕事をするんやが、やってみるか?」

「はい。教えてください」


 目的地まで向かいながら、ジュディ社長がムーファンに指導をする。


 私たちが向かうのは、街の雑貨屋さんだ。


 依頼者は行商で金を貯めて、念願の店を持ったのである。実家の家財道具一式を、こちらに持ってきたいと言ってきた。


「ようこそ。ささ、こちらへ」


 店主の男性が、私たちを招く。


「家具雑貨類の置き場所で指示があったら、言うてください」

「はい。では、お手洗い関連は、我が家で担当します」



 汚れ物類は、店主自らが行うという。

 さすがだ。経営者のセオリーである「汚い場所は、社長自ら率先して」という教えを守っている。


 父も見習ってほしかったな。



 私たちは、キッチンに家具をドンと置く。


「ムーファン、一人で持ってきたの?」

「まずかったかな?」

「ううん。丁寧だから、びっくりした」


 もっと雑に扱うと思っていた。


「モンスターのタマゴとか運ぶこともあったから、体幹は鍛えていたんだよね」


 トン、と、ムーファンは物音一つ立てずに食器棚を置いた。


「これでよし、と」


 ムーファンが一息つく。


「ありがとう。でも、そこじゃないんだよね」

「え?」

「動線が死んじゃう」


 通路のど真ん中に食器棚を置くと、誰も歩けなくなってしまう。


 きっと運ぶ際に、前が見えなかったのだ。


「あ、そっか! ごめん」


 再び、何事もなかったかのようにムーファンは家具を持ち上げる。


「こっちこっち。オーライオーライ」


 やはりバディがいると、仕事ははかどる。


「おねえちゃん」


 店主の息子だろうか。小さい少年が、私に声をかけてきた。


「なにかな?」


 私はしゃがんで、子どもと同じ目線になる。


「お父さんがね、ボクの作ったお茶碗を使ってくれないの」


 少年が手に持っているのは、変な形のお茶碗だ。

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