第3話 臆病なパンダ獣人

 私は正式に、『引っ越しのマカイ』の社員となった。

 今日が、初仕事である。


「あんたが証人になってくれたおかげで、ウチは無罪を勝ち取った。おおきに」


 ジュディ社長が頭を下げてきたのは、この間から何度目だろう?


「悪いのはあのメイドで、社長は巻き込まれただけですから」


 私たちが馬車で現場へ向かっていると、冒険者の一団を見かけた。同じ街に向かっているらしい。


「はひはひ」


 仲間四人の後ろを、パンダ獣人がトテトテとついて行っている。

 二メートルを超える、ぽっちゃり系の女性だ。獣人はパンダ率が三〇%といったところか。耳は頭の上にあり、白い体毛が全身に生えている。

 背中に、大きなリュックを背負う。どえらい量の荷物が、詰まっているらしい。


「ムーファン、無理するなよ」


 先頭にいる戦士が後ろまで下がり、パンダ獣人をねぎらう。


 あの獣人族は、ムーファンという名前らしい。


「ありがと。でもあたしは、戦闘じゃなんの役にも立たないですから」


 笑顔を見せて、ムーファンはリュックを背負い直す。


 ボオ! とリュックの中身が突き出た。ミノタウロスの角のようだ。


「へえー、あんなデカい奴をやっつけたんか。この子らも相当やが、あんな重い角を一人で持ってるパンダもすごすぎやで」


 ミノタウロスの角は、大型の個体だと一五〇キロを超える。それを一人で背負っているのか。


「リーダーは、先頭へ戻っててください」


 前を向き、ムーファンが進もうとしたときである。


 そこに、魔物が現れた。青白い体毛を持った、クマだ。


「ひいいい! 出たあ!」


 ムーファンが、物陰に隠れる。リュックを奪われまいと、大事に腕で隠す。


「魔王が倒されて平和になったって言うけど、まだ土着モンスターは出てくるんよな」

「ですねえ」


 私たちは馬車を止めて、避難する。自分たちはなんとかなる。だが、馬を殺されたらたまったもんじゃない。


「魔物め、覚悟しろ!」


 戦士たちが武器を出して、巨大クマに立ち向かう。


 だが、ムーファンの後ろにもう一体のクマが。


「ひえええええ!」

「ムーファン!」


 仲間の一人が、ムーファンに襲いかかるクマに火球を放つ。


 だが、クマは火球をかき消す。割とレベルの高いクマのようだ。


「あなたは仲間を守って! ここは私が」


 私は顧客の荷物をジュディ社長に頼み、クマの前に立ちふさがる。


「危険です。逃げて!」

「いや、コイツくらいなら大丈夫」


 ナメられたと思ったのか、クマは私に突撃してきた。


 一直線に向かってくる相手には。


「ふん!」


 スライディングからの、金的を見舞う。的確なポイントまで滑り込み、キックを喰らわせた。


「ガアウ!」


 クマが飛び上がり、たたらを踏む。片方が潰れたようだ。怒ってはいるが、恐怖で動けないらしい。


 こちらも気力体力ともに限界だが、まだやれるとアピールする。


 冒険者に仲間のクマが倒されたのを見て、クマはやや内股気味に逃げていく。


「は~あっ」


 祖父から教わったクマ撃退法だが、うまくいった。


「あ、あの。ありがとう!」

「無事でよかったね」

「でも、危ないよ。あなたは民間人でしょ?」

「身内にトレジャーハンターがいるから、あれくらいのクマなら追い払える」

「すごいなあ」


 街へと向かいながら、ムーファンと歩く。


「アンパロは、骨董品やさんだったんだ」

「でも、家族とケンカして、引っ越し屋さんで働いてる。今日が初仕事なんだ」

「がんばってね」


 ムーファンは、冒険者ギルドへ向かった。


「まあまあ。これはすばらしいですね」


 ギルドの受付嬢が、ミノタウロスの角をえらく気に入っている。


 ムーファンは、交渉役も兼ねているらしい。やんわりとした口調ながら、シビアなことも強調しながら話す。足元を見られまい、必死に訴えかけているのがわかる。


「あの、お願いが」


 リーダー格らしき魔法使いの少女が、ジュディに声をかけた。


「なんでっしゃろ?」

「ムーファンを、そちらで雇っていただけませんか?」

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